違うのだよ価値観が。イスラム教徒が“柔道の礼”を拒否するワケ

インド礼拝

 

7世紀のはじめ、アラビア半島でムハンマドという男が洞くつの中でめい想をしていた。
すると天使のジブリール(ガブリエル)が現れて、彼に神(アッラー)の言葉を伝える。
いま世界人口の約25%を占めるイスラム教はこうして始まった。

ちなみにムハンマドと同時代の人物が聖徳太子だから、太子が日本で仏教を広めたころ、アラビア半島ではイスラム教が広がったと覚えておこう。

 

Mohammed_receiving_revelation_from_the_angel_Gabriel

ジブリールとムハンマド

 

イスラム教徒を表すアラビア語のムスリムとは、本来は「アッラー(神)へ帰依した者」という意味になる。
唯一神・アッラーへの絶対的服従を誓ったイスラム教にとって、「インシャ・アッラー( إِنْ شَاءَ ٱللَّٰهُ‎,)」(神が望めば)はとても身近な言葉なんだが、まったく別の文化圏で育った日本人にそれは、約束を守らなかったときの言い訳に聞こえてしまう。
そんな記事を前回書いたワケですよ。

【日本人とイスラム教徒】インシャアッラーという“不幸フラグ”

 

日本の歴史には、そんな全国民がギアスにかけられたような状態は起こらなかったし、戦国時代にやって来たヨーロッパ人宣教師が伝えたキリスト教も結局は拒否された。
仏教と神道が仲良く共存し、八百万の神々のいる日本で「唯一神への絶対的服従」なんて考え方は絶対に合わないのだ。
国境の意味が薄くなった現代、「インシャ・アッラー」のような日本人とイスラム教徒との「文明の衝突」は個人レベルならいくらでもあるし、日本の国技・柔道でもそれは同じ。

ではここでクエスチョン!
『礼に始まり礼に終わる』といわれる柔道の大事なマナーの中で、イスラム教徒が「それはムリ!」と言ったことはなんでしょう?
って、タイトルでネタバレしているように、それはまさに「礼」。
国際支援の一環として、海外へ派遣された日本人がイスラム教徒のアフガニスタン人に柔道を教えたところ、相手に向かって頭を下げる行為を、このように解釈されてしまったと外務省ホームページにある。

アフガニスタンの訓練生は柔道の礼を宗教的な行為と勘違いし、「礼はイスラムの神にしか行ってはいけない」と教えられてきたため抵抗を感じたのです。

2014年版 政府開発援助(ODA)白書 日本の国際協力

 

柔道では道場に出入りするとき、練習を始め・終えるとき、相手と向かい合ったときに、頭を下げて敬意や感謝の気持ちを示すことがとても重要になる。
でも、まったく違う文化圏に育ったイスラム教徒の目には、礼は宗教的タブーに触れる行為に映るから、これを拒否する人もいる。
両手・両ひざを畳につけて頭を下げる「座礼」はイスラム教の礼拝と似ていたから、特に抵抗感が激しかったらしい。

この事態に直面した日本人は、段階的に不安を排除していく「系統的脱感作」の考え方でアプローチしていく。
まずは「柔道の礼は、教師や同僚への敬意を表するもので宗教的な行為ではない」と何度も説明してアフガニスタン人の理解を得て、はじめは立礼だけを行い、互いの信頼関係が築かれたころに座礼の指導をするようにした。
その結果、彼らは「徐々に礼節の意味を理解し始め、やがて率先して道場の出入口に立って礼をしたり」するようになったという。

まったく違う価値観を持つ人たちに柔道の指導を始めると、「礼」を教えることだけでもこれだけの苦労があるのだ。

 

知人のトルコ人に聞くと、両手・両ひざを床につけて頭を下げる行為は、イスラム教徒にとっては相手に敬意や感謝ではなくて、屈服や服従を示すことになるから、その対象はアッラーだけしかないという。
シリア人も同意見だ。
イスラム教徒のサッカー選手が試合でシュートを決めると、それはアッラーの思し召し(インシャ・アッラー)と思うから、ピッチ上に両手・両ひざをつけて神に感謝の気持ちを伝える。
イスラム教徒がその行為をしていいのは、アッラーに対してのみ。
柔道の座礼は礼拝と形がソックリだから、初めて見たイスラム教徒が拒否するのは自然の反応だとか。
それは宗教的な行為ではない、敬意を表すものだ!と納得させた日本人の忍耐力よ。

 

おまけ

2:28から「座礼」の説明がある。

 

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。