さいきん放送されたテレビ番組でのこと。
「Kis-My-Ft2」のあるメンバーが、先輩である櫻井翔さんの使う一人称を”暴露”して話題になったというニュースをネットで見た。
ロシア軍のウクライナ侵攻を阻止するため、いま全世界が必死になっているのに、日本は今日も平和で何よりだ。
そのメンバーが言うには、いつもそうなのか特定の話題での話か分からないけど、櫻井さんは自分のことを「我々は」と言う。
ちなみに「我々は」は一人称複数代名詞で、つまり一人称の言葉。
まあこれぐらいなら、「宇宙人かよ!」と突っ込でオワリ。
日本語で自分を表す言葉には、
日常生活で聞くものでも、私、自分、ボク、おれ、あたし、わし、
古風なものだと、わがはい、ちん、それがし、小生、あっち、わらわ、せっしゃ、
ネット用語だと、俺氏、漏れ、僕君、
といろいろある。(日本語の一人称代名詞)
そんな日本語の中でも、トルコ人が使ってみたら、周囲の日本人が誰も分からなくて驚いたという一人称があるらしい。
子どものころに「セーラームーン」を見て日本アニメにドハマりし、そのころの夢をかなえて、日本の大学に通っていた20代のトルコ人女性が、自分のことを「やつがれ」と言った。
学食でトルコ人が「やつがれはコレにする」なんて言うのを聞いて、まわりの日本人学生は「え?」と全員目がテンになって「なにその“やつがれ”って?」、「初めて聞いた!」という反応が出てくる。
「なんで自分は時間を止めただんろう?」と不思議に思ったトルコ人が教授に聞いたら、「よく知ってるネ!あなたはそんな言葉を使ってるの?」と感心されてそのワケを教えてくれた。
「デジタル大辞泉」によると、「やつがれ」は「やつこ(奴)あれ(吾)」の音変化からできた一人称で、自分をへりくだっていうときに使う。
はるか昔の日本では男女が使う言葉だったけど、近世になってからは、男性が少しかしこまった場で使うようになった。
「やつがれ」を漢字で書くと「僕」だ。
そのトルコ人の元ネタは、アニメ『文豪ストレイドッグス』に芥川龍之介という敵キャラだった。
主人公のグループからは「こいつには遭うな 遭ったら逃げろ」と言われるほど、芥川は強力な攻撃力を持っている。彼は自分を鍛えてくれた太宰治(アニメキャラ)を敬愛しているけど、太宰には振り向いてもらえない。
「弱者は死ね。死んで他者に道を譲れ」なんて言う非情さをもった芥川は、強くて悲しいサウザーみたいなキャラでそのトルコ人を夢中にさせた。
その芥川龍之介の使う一人称が「やつがれ」で、「お初にお目にかかる。僕(やつがれ)の名は 芥川」なんてことを言う。
*リアルの芥川龍之介がこんな一人称を使っていたのかは知らない。
アニメで何度も聞いているうちに、トルコ人は英字幕の「I」とセットで「やつがれ」という言葉を自動的に覚えてしまった。が、それはきわめて特殊な日本語ということは知らなかったから、周囲を「は?」とフリーズさせてしまう。
この一人称はフツウなら、「あそこの信号に右曲がってください」なんて日本語レベルの外国人が使うものじゃない。
しかもこれは古風な男性一人称。
だから「やつがれ」を知っている人には、20代の女性が言うと「そんな言葉を使ってるの?」とギャップ感がすごい。
そのトルコ人は知らないだろうけど、『僕(やつがれ)!! 男塾』というマンガもあって、この言葉はホントにマッチョなのだ。
日本人でも知らないようなレア表現を、外国人に自然と覚えさせる日本アニメの影響力は相変わらずさすが。
やつがれも脱帽デス。
物を供養する独特の信仰。日本の”神”を表す最も正しい英語は?
そりゃ外国人の女の子がいきなり自分のことを「やつがれ」では、周りはびっくりするでしょうね。
> 一人称で、自分をへりくだっていうときに使う。
> はるか昔の日本では男女が使う言葉だったけど、近世になってからは、男性が少しかしこまった場で使うようになった。
うーん、それだけでもありません。明治期以降になって江戸期を描く小説で出てくる「やつがれ」という言葉は、少し乱暴な言い方の一人称(現代語の「オレ」に近いか?)であったかのように扱われるようになったのです。何と言うか、いつまでも所帯を持たない日暮らし三十男みたいな?
日本語の一人称は、バリエーションが多くてホント難しい。こんなの外国語にあるのかな?