「世界の山ちゃん」とはコショウの効いた手羽先のことで、「静岡の梅ちゃん」といえば鈴木梅太郎のこと。
明治時代の1874年、いまの静岡県牧之原市に生まれたこの偉人は静岡の誇りで、静岡大学には鈴木の胸像があるし、県内ですばらしい理科研究論文を書いた中学・高校生には名誉ある「鈴木梅太郎賞」が贈られる。
東京帝国大学教授で農学者だった、鈴木梅太郎が残したこんな名言は有名だ。
「独創は学問といわず実業界その他あらゆる面で最高の指針だ」
独創性にこだわって研究を続けていた鈴木はきょう3月16日、世界で初めて「ビタミン」(ビタミンB1=オリザニン)の抽出に成功した。
その業績の根底には、彼のこんな熱い思いがあったに違いない。
「我々日本人をもっと立派なものにしたい。大和民族が世界に雄飛するには、先づ身体を良くしなければならない」
鈴木梅太郎
当時の日本では「脚気(かっけ)」という病気が深刻な問題になっていた。
古くは『日本書紀』にそれとみられる記述のあるこの病気は、神経障害によって足のしびれが起きて、最悪死んでしまう。
江戸時代には多くの人が白米を食べていた江戸や大坂で、この病気がよく発生していたから「江戸患い」や「大坂腫れ」と呼ばれていた。
明治時代になっても、毎年6500人~1万5000人が死亡したと考えられているマジで恐ろしい病気。
この状況を変えようと立ち上がったのが、静岡の梅ちゃんだ。
鈴木が動物を使った実験をしてみると、白米で飼育したニワトリとハトには脚気と同じ症状が出て死んでしまうけど、途中で米糠(ぬか)や玄米を与えると快復することに気づいた。
そして白米には欠けていて、米糠にあった新しい栄養成分を取りだすことに成功し、後にこれを「オリザニン」と名付ける。
この発見が発表されると、脚気に苦しんでいた日本中が歓喜した。
…というコトはなく、これは当時の日本の医学界の考え方(伝染病説と中毒説)ではなかったし、鈴木が医学者ではなく農学者だったことからこの説は受け入れられなかった。
そして彼の論文がドイツ語に翻訳されたとき、「これは新しい栄養素である」という重要な部分が訳されてなかったから、オリザニンは世界的にも注目されず。
そのあとオリザニンと同じ栄養成分を発見したポーランドの化学者フンクが、それを「ビタミン」と名づけて発表したことで、世界ではフンクが「ビタミンの第一発見者」として知られるようになる。
「これは新しい栄養素である」を訳さなかった人物は切腹モノだね。
タンパク質・糖質・脂質・ミネラルの四大栄養素に、ビタミンを加えて五大栄養素が確立した。
鈴木梅太郎が米糠からその第一号であるビタミンB1(オリザニン)を発見・抽出して以来、これまでに13種類のビタミンが見つかっている。
世界初ではなくて国内初になってしまったが、「科学や技術は政府当局や一部専門家の私有物でも独占物でもない」と言っていた鈴木梅太郎にとってはきっと小さいだ。
『日本書紀』以来の日本人の難病だった脚気の回復や予防に大きな貢献をして、彼はこの願いをかなえることができたのだから。
「我々日本人をもっと立派なものにしたい。大和民族が世界に雄飛するには、先づ身体を良くしなければならない」
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この人も理研に移った一人だけど、日本酒の3倍醸造の研究は美味しんぼ(の作者)に作中で叩かれたっけ。
静岡の中高生は部活や夏休みの理科研究発表会を経て梅太郎賞を貰った人も多いはず。
> 「これは新しい栄養素である」を訳さなかった人物は切腹モノだね。
鈴木梅太郎の発見したビタミンB1が多く含まれる「米糠」を食事に取り入れることによって、戦前の日本海軍は脚気をほぼ完全に撲滅することができました。
しかしながらこれと対照的に、陸軍では、海軍の予防活動が上記のように成功した時代になっても「米糠摂取療法」を全く取り入れることがなく、挙句に何千人もの犠牲者を出すこととになりました。そのように誤った医学的見解を強力に主張したのは、高名な文学者であり、ヨーロッパへの医学留学経験もあるエリート医師であった「森鴎外」です。つまり、戦前の日本で脚気による幾多の犠牲者を生み出したのは、鈴木梅太郎によるビタミンB1の発見とその効果を頑として認めなかった「森鴎外の犯罪行為」とも言える判断ミスが原因なのです。
このことから分ることは、文学だったら自己の主観に基づいて大きな業績も残せるだろうが、医学を含めたサイエンスの世界においては、たとえ一国を代表する偉大な権威者であったとしても、他者の業績と事実とを客観的に真摯に評価する姿勢を失えば、たちまち凡人以下の無能なエセ学者に陥るということです。理数系の学問とは、事実の積み重ねに基づいて構築されているのです。
私は歴史もそうであるべきだと思います。