プーチン大統領によるウクライナ侵攻が始まってから、「戦争犯罪」という言葉をよく聞くようになった。
東京新聞(2022年3月3日)
ロシアのウクライナ侵攻は「戦争犯罪」 ジョンソン首相が国際刑事裁判所の捜査開始を支持
バイデン大統領もつい先日、プーチン氏を公式の場でこう呼んだ。
AFP(3/17)
米大統領、プーチン氏は「戦争犯罪人」
これについて米大統領報道官は、「残忍な独裁者による外国への侵攻を通じた野蛮な行為」を見たバイデン大統領の「心から出たもの」と述べる。
一方、ロシア大統領府は「戦争犯罪人」発言に激怒し、「世界中で大勢の人を空爆で殺害してきた国の元首がそのような発言をするのは容認できず、許し難い」と大反発だ。
戦争の目的は勝つことにある。
といっても何をしてもいいワケではなく、その”ルール”は国際法(戦時国際法)で定められている。
戦闘員を殺害することは合法でも、市民にそれをするのは違法。
基地などの軍事施設を攻撃してもいいけど、アパートや病院などにミサイルを打ち込むのはアウト。
市民の生活にとって欠かせないインフラを、”わざと”攻撃するのもダメ。
基本的に非戦闘員を巻き込むことは国際法で禁止されていて、それをすると「戦争犯罪」の対象として、後で裁かれることになる。
殺人やレイプ、集団処刑などは「人道に対する罪」と呼ばれる戦争犯罪になり、ナチスのホロコーストがこれに該当する。
いまのウクライナ侵攻でいえば、ロシア軍が病院を空爆して、死傷者を出したことが戦争犯罪に当たるとウクライナ政府は主張している。
対してロシア政府はそれを”フェイクニュース”とし、ウクライナが核兵器や生物兵器の保有を目指していると主張する。
また、欧米を中心としたロシアへの制裁を、ナチスのユダヤ人に対する集団的な破壊・虐殺行為を想起させるものだとプーチン大統領は非難した。
つまり戦争犯罪をしているのはウクラナイナであり、欧米諸国だと。
誰だって「戦争犯罪人」なんて呼ばれたくない。
それでいま焦点になっているのがコレだ。
イギリスBBC(2022年3月15日)
戦争犯罪とは? プーチン大統領を裁くことは可能なのか
結論からいうとこれは、容疑者の逮捕は各国に任せられているとか、ロシアが拒否権をもつ国連の常任理事国だからいった理由で、プーチン氏を戦犯として裁くことはとてもむずかしい。
それにこれは、一般市民を殺害したという行為よりも、戦争に勝ったかどうかが重要になることもある。
アメリカの国防長官を務めたこともあるマクナマラは太平洋戦争のとき陸軍にいて、東京大空襲にかかわっていた。
空を覆うほどのBー29が木造住宅に焼夷弾を投下すれば、とんでもない数の市民を焼き殺すことは誰だって想像できる。それを心配するマクナマラに、上官のルメイにこう言う。
毎日新聞のコラム「余禄」(2022/3/10)
日本の都市への焼(しょう)夷(い)弾攻撃を命令したルメイの下僚だった。都市焼き打ちの非人道性に懸念を示したマクナマラに、ルメイは語ったという。「負けたらわれわれは戦争犯罪者だよ」
1962年のキューバ危機で…
結果、死者10万人以上という、一度の空爆としては人類史上最大の「虐殺」となった。
「世界中で大勢の人を空爆で殺害してきた」と、ロシアが非難したことのひとつが東京大空襲だ。
でも、ルメイやほかの米軍人が戦争犯罪人として裁かれなかったのは、アメリカが戦争に勝ったから。
1945年8月15日に日本ははポツダム宣言を受諾し、連合国へ降伏を通達すると、イギリス・アメリカ軍は即座に戦闘行為を停止した。
でもソ連軍は8月22日に、潜水艦で多くの民間人が乗った船3隻を攻撃して、1700人以上を殺害したけど(三船殉難事件)、戦争に勝ったからこの罪は問われなかった。
いまのウクライナ侵攻でも、民間人を殺害した、病院にミサイルを打ち込んだ、原子力発電所を攻撃した、としてもロシアが戦争に勝てば、プーチン大統領が戦争犯罪人になることはまずない。
逆にいうと、負ければそうなる可能性が高いから、ロシア側はその運命をまぬがれるためにこれから攻撃を強めて、さらに多くの市民が犠牲になるかもしれない。
いまロシア軍が首都キエフを包囲しているし、そうなる可能性は残念ながら高いと思う。
「容認できず、許し難い」と激怒するほど、「戦争犯罪」という言葉は重いのだ。
さすがにプーチン大統領が核のスイッチに手を伸ばすことはあっても、押すことはないと思うが。
国際法は世界における正義の象徴で、勝った側の道具でもあるから、けっこういい加減だったりする。
インドで尊敬されるチャンドラ・ボースと日本軍のインパール作戦
カンボジア人ガイド「日本人と韓国人の違いは、見た目で分かる」
コメントを残す