聖女&勝利のシンボル キリスト教の「マグダラのマリヤ」

 

世界第二位の軍事力をもっているわりには、ロシアはウクライナを相手に大苦戦の最中だ。
その理由には、祖国防衛に燃えるウクライナ人の戦意の高さや、対戦車ミサイル「ジャベリン」の存在がある。
兵士一人で持ち運ぶことができるし、おおよその狙いで発射すれば、あとはミサイルが戦車を見つけて正確に撃破してくれるから、いまジャベリンはロシア軍の戦車の天敵になっている。
ただしお値段、一発2000万円ナリ。

 

 

このジャベリンを抱えている女性は、キリスト教の聖書に出てくる聖女「マグダラのマリア」という。
ウクライナ国旗をバックにジャベリンと聖女の「聖ジャベリン」がSNSでよく使われていて、ウクライナ人にとっては”勝利の象徴”として勇気をもたらしている。
ということで今回はこの聖女について紹介しよう。

 

 

まず「マグダラ」ってなに?
マリアといえば、何つってもイエス=キリストを生んだ聖母マリアが有名だ。
マリアという女性は何人もいたから、どのマリアさんか特定するために、名前と出身地がセットで呼ばれることはよくあった。
彼女はマグダラという町の出身だったから、「マグダラのマリア」になったというのが通説。
「イエス」という名前も複数あったから、ナザレ出身のイエス=キリストは「ナザレのイエス」と呼ばれることもある。

 

さて前回、キリスト教で大事な大事な祭りの「イースター」(復活祭)について書いたのですよ。

欧米の春の風物詩:イースターの祭り・卵に色を塗るワケ

キリスト教では処刑されたイエス=キリストは、その3日後に復活するという奇跡を起こしたという話があって、それを祝う祭りがイースターになる。
このイエスの復活という超重大事に、深く関わっているのが「マグダラのマリア」。
彼女はイエスが十字架に磔(はりつけ)にされて殺され、死体が埋葬されるのを現場で見ていた。
そして、復活したイエスを初めて見たのもマグダラのマリアだった。
処刑されたあとイエスの墓に行ったら、中がカラッポで、天使からイエス=キリストは復活したことを知らされる。
「まじですか!」と驚きよろこんだマリアは、急いでイエスの弟子たちに主の復活を告げた。

ということでキリスト教では、マグダラのマリアは「イエスの死と復活を見届ける証人」という重要な役割を持つ人物として描かれている。
そんな彼女には、もとは娼婦だったという説があって、イエスに会ったことで心を入れ替えたとか。それでいまでは、改心した娼婦の守護聖人になっている。
ほかにもイエスと結婚して子どもを産んだという話もある。
「マグダラのマリア」は純粋無垢な聖女とは違い、どこか”闇の部分”があるから、物語で使うキャラとしてはけっこう魅力的。

欧米人がイースターエッグに色を塗ることについても、彼女が関係しているという話がある。
イエスの復活を聞いたローマ皇帝が「ないない。そんなこと、赤い卵と同じぐらいありえんわ」と言うから、マグダラのマリアが赤い卵を見せたという。
(白い卵が皇帝の前で赤くなったらしい。)
イースターエッグの起源をこの話に求めることがある。

マグダラのマリヤをフランス語では「マリー・マドレーヌ」(Marie Madeleine) という。
マドレーヌは女性の名前で焼菓子のマドレーヌは、フランス人のマドレーヌ・ポルミエがこれを作ったことにちなんでつけられたとか。

 

いまウクライナでは物質的にはジャベリン、精神的にはマグダラのマリアが「勇気と勝利の象徴」となって、軍の戦意を高めてロシアの進軍を阻止している。
それはわかるとしても、この聖女が選ばれた理由がイマイチ不明。
ウクライナで高い人気があることは間違いないけど、マグダラのマリアはウクライナの守護聖人ではない。
背景はよく分からないけど、「聖ジャベリン」を掲げて祖国を守り抜いてほしい。

 

 

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1 個のコメント

  • > そんな彼女には、もとは娼婦だったという説があって、イエスに会ったことで心を入れ替えたとか。それでいまでは、改心した娼婦の守護聖人になっている。

    この話ですが、どうやら西欧カトリックを中心に拡がっているエピソードのようです。ウクライナを含む東方正教会(オーソドックス)においては、必ずしもそのような「元は娼婦だった聖女」という見方はされていないらしい。ただ「イエスの復活を目撃した聖女」としての扱いが主流みたいです。
    マグダラのマリアは、特に東方正教会エリアにおいては、昔から代表的な「聖女」として「両手を合わせた上半身像」がしばしば絵画に描かれています。
    そのような背景事情があって、「ジャベリンを抱えたマグラらのマリア」が広まったのかもしれません。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。