日独伊で、東條英機・ヒトラー・ムッソリーニをどう思う?

 

第二次世界大戦が終わった翌年1946年のきょう6月2日、イタリアで行われた国民投票によって、王制を廃止し共和制として新しい国づくりを始めることがきまった。
結果、イタリア最後の王・ウンベルト2世は国外追放となり、ポルトガルへ亡命。
これがいまにつづく戦後イタリアの誕生日だから、イタリアでは「共和国記念日」になっている。
で、それにあやかって日本では「イタリアワインの日」になっていて、イタリアワインをPRするイベントが行われるらしい。

日本はドイツ・イタリアと組んで、第二次世界大戦で連合国と戦うも、1945年にそろって敗北した。
でも、イタリアだけはその後の扱いが違う。
日本はずっとGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)、実質アメリカに支配されていて、1952年(昭和27年)にやっと解放され、自分たちの手で国づくりを始めることができた。
ドイツなんか連合国によって東西に引き裂かれて、再統一できたのは1990年になってからだ。
対してイタリアは日本やドイツと同じ敗戦国なのに、連合国の統治を受けることなく、自分たちで選挙を行って、国王を排除し新生イタリアの方向性を決定した。

 

日独伊三国同盟のイメージから、外国人と話をしていると、東條英機・ヒトラー・ムッソリーニを「戦争を起こした最大の責任者」とひとまとめにして考えている人がけっこういる。
東條英機ではなくて“昭和天皇”とカン違いしている、残念な外国人もわりといるのだが。
東條英機は太平洋戦争を始めたときの日本の首相で、戦後、その責任を問われ戦争犯罪人として処刑された。
大学で歴史を学んだアメリカ人の知人は、日本における東條英機はドイツにとってのヒトラーと同じレベルのタブーになっていて、全国民が忌み嫌うような存在だと勝手に思い込んでいた。
だから、

「いや、日本で東条英機は、ヒトラーのような悪魔とは思われていない。東條の孫にあたる東條 由布子(とうじょう ゆうこ)は2007年に、参議院議員選挙で東京で立候補したぐらいだから。落選したけど。」

と話すと、「ええっ!本当ですか?」と驚がくする。
ドイツではカギ十字やナチス式敬礼とか、ヒトラーやナチスを連想させるものを公の場で見せることは法律で禁止されている。
いまの日本で旧日本軍はそこまで嫌われてないし、息子に「ヒデキ」と名付ける親も普通にいる。
ヒトラーの名前、アドルフとは「高貴なる狼」といった意味で、ドイツ人の話では、第二次世界大戦まではドイツでめずらしくない名前だった。が、いまはありえない。
「もし子供にアドルフと命名する親がいたら、どうなるのか?」と聞くと、「それはね、冗談でも言っていいことじゃない。」と言われてしまった。
それほどアンタッチャブルな存在だったとは。

 

国家ファシスト党を組織してドゥーチェ(統領、指導者)となって、ナチスのヒトラーと組んで国を“滅亡”させたムッソリーニ。
イタリア人の手で処刑された後、死体を駅前の広場に放置されて、蹴飛ばされたりツバを吐かれたりして、民衆からリンチされた彼は、いまイタリアでどう思われているのか?
京都で出会った20代のイタリア人女性2人の話によると、ムッソリーニはヒトラーのような絶対的なタブーではないし、東條英機のような“忘れられた人”でもない。

「わたしたちはキライ。彼は独裁者で国を間違った方向へ導いて、多くの国民を苦しめたから。でも、彼の考え方が好きで支持する人もいる。」

ムッソリーニについてそんな話をする。
実際、国レベルでは、イタリア政府はムッソリーニの思想や行動を否定して、彼を公の場で称賛することは共和国憲法で禁止されている。
にもかかわらず、ムッソリーニを好ましく思うイタリア国民はめずらしくない。

現在イタリア国民の間でムッソリーニの存在は好意的に受け止める人間は少なくなく、故郷プレダッピオの記念碑には花が絶えず捧げられている。

ムッソリーニ・評価

ムッソリーニ
マフィアを弾圧して大ダメージを与え、それだけ市民の生活が安全になったことから彼を高く評価する人もいる。

ムッソリーニの善政 マフィアも怖れた「モーリ」という男

 

ということでいまのイタリア社会には、ムッソリーニを称賛する人が一定数いる。
そうした人たちの支持を受けて、ムッソリーニの孫娘のアレッサンドラ・ムッソリーニが選挙に立候補すると、東條由布子とは違い、当選してイタリアの下院議員になった。
これを含めて下院議員には5回当選し、上院議員にも1度当選したし、欧州議会議員にも2回選ばれて2019年までその職を務めていた。
それを考えるとイタリアでのムッソリーニは、日本での東條英機よりも広く受け入れられているようにみえる。
だけど、先ほどのイタリア人はこんなことを言う。

「いまの日本の首相は、戦争犯罪者のいる“ウォー・シュライン”(靖国神社のこと)に参拝していると聞いて驚いた。イタリアでは一部の右翼議員がムッソリーニの墓に行くだけで、首相は絶対にない。」

首相の靖国参拝は2013年に、当時の安倍首相が行ったのが最後でもうなくなっている。
岸田首相はことし4月、靖国神社の春の例大祭にあわせて「真榊」を奉納したから、靖国神社にネガティブなイメージはなく、一定の敬意があるのだろう。
だからといって、これであの戦争を賛美していることにはならないけど、宗教観の違いもあって、そう理解してしまう外国人はいる。
にしても「戦争神社」って…。

 

ちなみにアレッサンドラ・ムッソリーニの母親は、女優ソフィア・ローレンの妹だ。
それと、どういう経緯か知らんけど、彼女は1980年代に日本語で歌って日本でレコードを出している。

 

 

とうことで本日のまとめ

日独伊では現在、東條英機・ヒトラー・ムッソリーニをそれぞれどう見ているのか?
これまでの情報から、個人的にまとめるとこんな感じだ。

東條英機:いまの日本ではあまり関心がなく、話題にも上がらない。もう過去の人。
ヒトラー:いまのドイツでは最大の汚点、最悪の悪魔。触れるな語るな。
ムッソリーニ:イタリアでは公式にはタブーの存在だけど、国民の間では好き・嫌いに分かれる。

 

 

 

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2 件のコメント

  • > 日独伊では現在、東條英機・ヒトラー・ムッソリーニをそれぞれどう見ているのか?
    > これまでの情報から、個人的にまとめるとこんな感じだ。
    > 東條英機:いまの日本ではあまり関心がなく、話題にも上がらない。もう過去の人。
    > ヒトラー:いまのドイツでは最大の汚点、最悪の悪魔。触れるな語るな。
    > ムッソリーニ:イタリアでは公式にはタブーの存在だけど、国民の間では好き・嫌いに分かれる。

    これは素晴らしい。3国それぞれの国民感情が簡潔にまとめられています。
    日本を訪れる外国人にとって、日本社会を理解するための効果的なガイドラインになると思います。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。