ムッソリーニの善政 マフィアも怖れた「モーリ」という男

 

ほんじつ3月30日は1282年に、イタリアのシチリアで「シチリアの晩祷(ばんとう)」が起きた日。
当時フランスの王族、アンジュー家の支配下にあったシチリア王国で、この一族に不満をもっていたイタリア系住民が暴動を起こして、4000人ものフランス系の住民が虐殺された。
このとき暴徒が使った合言葉「Morte alla Francia Italia anela!」(フランス人に死を、これはイタリアの叫びだ!)の略語が「MAFIA(マフィア)」の語源になったという説があって、きょうは「マフィアの日」になっている。

 

「シチリアの晩祷」を描いた絵

 

この事件がきっかけになって戦争がぼっ発し(シチリア晩祷戦争)、シチリア王国はスペイン(アラゴン王国)のペドロ3世が支配するシチリアと、シャルルの治めるナポリ王国とに分裂する。
こんなふうにフランス人やスペイン人などの外国人によって支配されていた経験から、シチリアの人たちは政治や政府といったものを信用せず、それとは距離を置いて、住民同士の横のつながりを大切に考えるようになったという。
それで「これはイタリアの叫びだ!」みたいにシチリア人同士が団結して、外国人支配者に反発することもあった。
こうした為政者への不信感や仲間意識の強さが、その後にマフィアが形成されるうえでの重要な要素になったと思われ。

この犯罪者集団はいまでもイタリアにいる。
土地の明け渡しを拒否した女性がマフィアに殺されて、ブタに食べられたというニュースがきょねんAFPにあった。(2021年1月7日)

女性を殺して「ブタの餌」に、マフィアの大物のしわざか 伊報道

最近でも中日新聞が、シチリア島の市民団体が「マフィアにみかじめ料を払うのは止めよう」という運動を行っているという記事を載せている。

中日新聞(2022年1月19日)

マフィアのみかじめ料に「NO」 イタリアの市民団体が悪弊と格闘

 

こんな悪の組織に強烈な「正義の一撃」を与えて、壊滅的なダメージを与えたのがチェーザレ・モーリ(1871年 – 1942年)という政治家だ。

 

チェーザレ・モーリ

 

人類が生んだ悪魔ヒトラーにはムッソリーニという仲間がいた。
第一次世界大戦のあとイタリアの政治的・軍事的な権力を握った彼は、ヒトラーと組んで第二次世界大戦に参戦するも敗北して、多くの国民の怒りや恨みを買って最期は銃殺された。

いまイタリア人は“あの”独裁者、ムッソリーニをどうみるか?

そんなムッソリーニがした”善政”に、マフィアの撲滅がある。
ムッソリーニは、優秀な警察官で県知事の経験もあったチェーザレ・モーリに目をつけて、彼をマフィア撲滅のためにシチリアに送り込む。
シチリアの県知事となった彼は、妻や子どもを人質にとって山賊に自首させるとか、「どっちが犯罪者ですか?」というような強引なやり方をとって150人以上を逮捕するなど実績を上げていく。
刺客に暗殺されそうな危機を乗り越えて、モーリはマフィアの関係者をビシバシ逮捕していき、殺人や強盗を激減させることに成功。
「鉄の知事」と呼ばれたモーリは、マフィアもドン引きするほど強引で無慈悲なやり方を断行し、シチリアマフィアを壊滅寸前にまで追い込む。
でもムッソリーニから知事を解任されると、マフィアが恐怖した「モーリの時代」も終わった。
ヒトラーと並び称される悪の独裁者でも、こういう良いこともしたのだ。というか、ムッソリーニのような強大な化け物にしかできないコトもある。

このあとシチリアマフィアは再び息を吹き返して、住民に闇の時代をもたらす。
するとパオロ・ボルセリーノという裁判官が友人のジョヴァンニ・ファルコーネ判事と一緒にマフィア撲滅のために活動を始める。
そしたらまず1992年5月23日、ファルコーネが高速道路を走行中にマフィアに爆殺され、その2か月後の7月に、今度はボルセリーノも自動車に仕掛けられた爆弾で殺された。
2人の英雄を記念して、シチリアの最大都市パレルモの空港の名称は「ファルコーネ・ボルセリーノ国際空港」に変えられた。
でも、マフィアとの戦いはまだまだ終わらない。

 

 

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1 個のコメント

  • > 1992年5月23日、ファルコーネが高速道路を走行中にマフィアに爆殺され、その2か月後の7月に、今度はボルセリーノも自動車に仕掛けられた爆弾で殺された。
    どちらの事件も、1972年のハリウッド映画「ゴッドファーザー」そのままで怖いですね。映画では、アル・パチーノ演じるマイケル・コルレオーネが敵対するマフィアに狙われて、シシリー島で結婚した新妻が巻き添えになって自動車爆弾で爆殺されるシーンがありました。シシリアン・マフィアって、自動車に爆弾を仕掛けるのが得意なんですかね?

    > 土地の明け渡しを拒否した女性がマフィアに殺されて、ブタに食べられたというニュースがきょねんAFPにあった。(2021年1月7日)
    こちらで思い出されるのは、1991年の映画「羊たちの沈黙」です。その続編だったかな? アンソニー・ホプキンス演じる殺人鬼ハンニバル・レクター博士が、気に入らない相手を殺すために、薬で眠らせておいて豚小屋へ投げ入れて豚に食わせてしまうシーンが出てきました。あれも怖かった。
    殺人ではないが、その手の事故(あやまって豚小屋に足を踏み入れて豚に食われてしまう)は、現在でも世界中でちょくちょく起きているらしいです。日本人にはちょっと信じがたい。安全管理とか意識が薄いのかな?

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。