日本の大学で学んでいて、いまは母国のブレーメンに住んでいるドイツ人とこのまえスカイプで話をした。
そのとき彼が最近、日本についてのユーチューブ動画を見てめちゃくちゃビックリしたと言う。
ある欧米人ユーチューバーが「日本の夏祭りでは、ヤクザが活躍しているんだぜ。信じられないかもしれないが、オレも最初はそうだった。でもこれは事実だ」と言うのを聞いて耳を疑った。
きれいな花火とおいしい屋台の食べ物、それに伝統衣装の浴衣に身を包んだ人たちがいた夏祭りは、彼の中では日本のスイートメモリーのひとつ。
ただし屋台のフランクフルトは、何がどうフランクフルトなのかそのドイツ人には分からなかった。
とにかく、そんなカラフルで楽しい祭りを支えているのがヤクザだったとは!
この「夏祭りのヤクザ」については心当たりがある。
日本のアニメが大好きで、夏祭りにあこがれていたというトルコ人女性からも同じ話を聞いた。
彼女は祭りの屋台はヤクザが運営していると知って(これもまたユーチューブ動画)、「それってつまり、わたしの払ったりんご飴やお面のお金はヤクザの資金になったってことよね?」とショックを受けたという。
ドイツ人が言ったのもこれと同じで「的屋」のことだった。
もちろん2人とも「テキヤ」なんてことばは知らず、「ヤクザ」と言っていたし、そう思い込んでいた。
祭りや縁日など人が集まるところに屋台をだして、飲食物やいろんなグッズを売る彼らは、「当たれば儲かる」ということから「的矢」と呼ばれるようになる。
たしかに日本の警察も的屋を暴力団の起源の一つとしているし、戦後の一時代、的屋は覚せい剤の密売などの違法行為を行っていた。
でも、さすがにいまの時代でそれはないだろう。
少なくとも祭りの屋台でそんな話を聞いたことはない。
でも祭りと的屋とヤクザは無関係ではないようだし、地域によって事情もちがう複雑だ。
場所によっては、的屋が県の公認を受けた協同組合として活動している場合もある。でも、その理事長が替え玉で、実はヤクザが仕切っていることもあるようだ。
くわしいことはここでチェック。
暴力団排除の機運がたかまっているものの、暴力団関係者への名義貸しを黙認(推進)している団体もある。
「祭りのヤクザ」を正当化する気はないけど、力があって事情をよく知っている彼らがいることで、もめ事を素早く処理できるということもあるらしい。
英語版ウィキペディアには、現在のヤクザの多くは的屋や博徒のどちらかのグループに所属しているという説明があるから、そんなイメージをもつ外国人はきっとたくさんいる。
Although the tekiya/bakuto lines have been blurred with the emergence of the modern Japanese yakuza in the 20th century, many of today’s yakuza still identify with one group over the other.
こんな存在と華やかな祭りのギャップがユーチューバー的にはおいしくて、ドイツ人やトルコ人の「ビックリした!」という反応を期待していたはず。
でもドイツ人のほうが受けた衝撃は少なそうだ。
ドイツでもイタリア人のマフィアが祭り(カーニバル)の屋台でピザを売っていたり、自分がケバブを買ったのはトルコ人マフィアからかもしれない。
だから改めて考えてみると、ヤクザが夏祭りで”活躍”しているのはありえないことではないと言う。
祭りの屋台で金魚すくいをしたりカキ氷を食べると、それがヤクザの資金源になるというのは大げさだとは思うけど、このへんの闇は普通の日本人にはわからない。
おまけ
ヤクザを抜けたり犯罪行為をやめることを日本語では「足を洗う」と言い、中国語や英語では「手を洗う」と表現する。
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> たしかに日本の警察も的屋を暴力団の起源の一つとしているし、戦後の一時代、的屋は覚せい剤の密売などの違法行為を行っていた。
> でも、さすがにいまの時代でそれはないだろう。
> 少なくとも祭りの屋台でそんな話を聞いたことはない。
うーん、これ、それほど単純な話ではないのですよ。
たとえば今でも、田舎の神社の祭りなんかで、全国から集まってくる屋台運営者へ境内での場所を割り振る指図をしているのは、その地域の「顔役」だったり、地元の「的屋」だったりすることはあります。そもそも地元を色々と仕切っている町内会が、「顔役」や「村会議員」の支持母体だったりということも、今でもあると思います。
ただそれを、いわゆる現代の暴力団組織的な「ヤクザ」と一緒かというと、それは違いますね。
的屋がそのままヤクザとして、裏社会でも幅を利かせられるような時代はとっくに終わってます。今のヤクザや暴力団で生き残っている組織は、もっと効率のいい経営組織を運営しているものですよ。でないと、構成員達に与える「報酬」が稼げない。歌舞伎町のような大都会の盛り場なんて、外国人非合法組織との競争・抗争・連携といった活動をこなすためにも、それなりに資金と人材が必要だろうし。
マンガやドラマじゃないんだから。
わたしの感覚ですが、いまの日本で祭りの屋台で覚せい剤の密売はないと思います。
> いまの日本で祭りの屋台で覚せい剤の密売はないと思います。
うーん、これはなかなか微妙なところですね。
田舎よりも、むしろ都会のど真ん中でのお祭り的な「イベント」の場で、外国人による密売が摘発されたこともあったし。日本国内でも西の方へ行くほど、その辺の裏事情(?)は異なるみたいですよ。
まあ、何にしても、行政などの公的組織が主催する「完全に健全な祭り」っていうのは、得てしてつまらないものになりがちですよね。商業主義に走りがちとか。
東京都の武蔵野地域の祭りなんて、平将門の時代から戦前まで「既婚者も含めた乱交パーティー」が当たり前だったそうですし(府中市の大國魂神社)。日本の祭りは、どこか猥雑な、胡散臭い、いかがわしさを感じさせてこそ、ふさわしい気がします。
外国人のイベントについてはよく分かりません。
うわさ話については根拠と真偽を確認したほうがいいでしょうね。
> うわさ話については根拠と真偽を確認したほうがいいでしょうね。
うーん、若い頃に住んでいた府中市大國魂神社に関する記憶なので、そう言われるとあやふやな気も・・・。
ということで、もう一度ネットを漁ってみました(便利な時代になったものです)。
その結果が、たとえばこれ。
この話、私も若い頃に、ずっと昔から住んでいた地元の人に聞きました。
どうやら、大國魂神社そのものではなくて、本当に「夜這い祭り」が行われていたのはその近隣の神社であり、その神社の伝承が今もって大國魂神社の「くらやみ祭り」に受け継がれてしまっているようですね。ちなみに、司馬遼太郎とか海音寺潮五郎とかの歴史小説の大家はいずれもこの伝承にこだわっていて、その風習に基づくシーンが作品中に何度も登場してきますよ。
多摩川の河川敷とか、京都鴨川の河原とか
江戸時代ならそういうこともあったと思います。
さすがに現代ではありません。