洗うのは足か手か?日本語と中国語&英語の発想のちがい

 

人の家に忍び込んで物を盗んでいた男があるとき侵入した先で無垢の美少女と出会って、今までの自分を恥じてこれからは真っ当に生きようと決意する。
現実ならどんな人間でもいいけど、アニメやマンガなら美少女設定は外せない。

まぁそれはいいのだが、泥棒や詐欺といった悪い行いをやめるときに日本語で「足を洗う」という。

辞書(デジタル大辞泉)をみてみると、「悪い仲間から離れる。好ましくない生活をやめる。職業・仕事をやめる場合にも用いる。」という説明があって、やくざな稼業から足を洗うという例文がアリ。

これはもともと仏教の言葉で、修行中は外を素足で歩いていて、お寺に戻ってきたら泥で汚れた足を洗い、俗世界の煩悩を洗い清めるという意味から、それが転じて、悪いことをやめるといった意味なったという。

くわしいことは「語源由来辞典」でチェックされたし。

 

江戸時代の旅人も宿に入るときは足を洗った。

 

さて、国が違えば考え方や視点も変わる。
日本の「足」は中国では「手」になって、「足を洗う」を中国語では「手を洗う」(洗手不干)と表現する。
場所が足か手の違いで付いてる汚れを洗い落とし、心を入れ替えて清く正しく生きていくという意味は変わらない。

そういう意味の「足を洗う」は英語では 「wash someone’s hands of 〜」になるから、この発想は中国と同じだ。
ネットを見ていたら、マフィアが出てくる映画で「I decided to wash my hands of the shady business」というシーンがあるらしい。
「オレはいかがわしい仕事から足を洗うよ(やめるよ)」と言った意味だろう。

 

悪い行為を始めることを日本語で「(悪事に)手を染める」というけど、それから抜け出すときは「足を洗う」という。
モノを盗んだり人に危害を加えるとか、一般的に悪いことは手指を使ってすることを考えると、負のカルマは手に付くから、中国語や英語の表現のほうが理にかなっている気はするけど、日本語では足になっている。
韓国語も中国語や英語と同じく「手を洗う」と表現する。
日本の仲間はいないのか。

この「手を染める」の由来には、もとは「初(そ)める」と同じ語源だったという説がある。
この場合の「初める」は新年の書き初めと同じように「はじめる」という意味で、「そめる」を漢字変換すると「初める」が出てくる。
昔は「手を染める」は中立的な意味だったから、「米づくりに手を染める」という言い方でもまったく問題なかった。

言葉は使う人間の意識に応じて変化するものだから、場所や時代によって違うのだ。

 

さて、ここまで読んできて違和感を感じた言葉はなかっただろうか。

「修行中は外を素足で歩いていて」というのは間違いで、外を歩くなら「裸足」が正解だ。
裸足は「肌足」が変化してできた言葉で、足の裏の肌が地面に触れている状態なら裸足。
それに対して、靴下などを付けないで靴をはくと素足になる。
だから家の中を歩くときは「素足」が正解と思うけど、ネットでは「裸足」も出てくるからどっちでもいいらしい。

 

 

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1 個のコメント

  • > マフィアが出てくる映画で「I decided to wash my hands of the shady business」というシーンがあるらしい。

    米国マフィアの世界では「手を洗う」という言い回しには特別な意味があります。というのも、1930年代、米国東海岸で、最初期のイタリア系マフィアに「ブラック・ハンド(イタリア語でマーノ・ネーラ)」という有名な組織があったからです。Godfather Part II の映画では、若き日のヴィトー・コルレオーネ(演:ロバート・デ・ニーロ)が白いスーツとカウボーイ・ハットを被ったブラック・ハンドの一員を撃ち殺して、マフィアの世界でのし上がっていく姿が描かれていますよ。元々のPart I に勝るとも劣らない傑作です。

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