タイパ重視の日本語
日本語を学ぶ外国人がよく戸惑うのが「省略」だ。
あるドイツ人は「おおきに」について、それが「おおきにありがとう」の後半をカットした言葉だと知り、「“Thank you very much”から、なんで“Thank you”を消すの? 」と驚いた。
また、あるアメリカ人は「あけおめことよろ」を気に入った。
日本語の省略で究極の進化系にあるのが、「り」と「マ?」だ。日本語がペラペラの韓国人でも、それが「了解」と「マジで?」を意味するとは最後までわからなかった。
しかし、タイパを重視して、「短さ」を追求する精神は日本人だけにあるわけではない。
世界の歴史には、可能なかぎり言葉を削ぎ落とし、「究極のコミュニケーション」に到達したと言っていい有名なエピソードがあるのだ。
世界一短い手紙の正体
19世紀、フランスの作家ヴィクトル・ユーゴーが『レ・ミゼラブル』を書き上げた。21世紀の今でも、「不朽の名作」として語り継がれている傑作だ。
そんな未来を知らない彼は、休暇先でその売れ行きが気になって仕方がなかった。
「あの本は読まれているだろうか?」「世間の評判はどうなんだ?」……居ても立ってもいられなくなった彼は、出版社に電報を送ることにした。
しかし、彼がそこに書いたのは、たった一文字だった。
「 ?」
すると、これを受け取った出版社も、たった一文字で返信した。
「 !」
作家は、「売れ行きはどう?」という不安と期待を「?」の記号ひとつに込めた。出版社はそれを理解して「驚くほど売れている!」という興奮を、一文字で返したのだ。
言葉を短くする作業は、逆説的に余白に多くの意味を込めることを意味する。さすが世界的な作家のすることは違う。
このやり取りは「世界一短い手紙」として知られている。日本人もビックリの究極の「以心伝心」だ。
まぁ、「?」と「!」のやり取りはユーゴーが一番早かっただけで、ほかの人でも思いつきそうな気はするのだが。
「短さ」と「長さ」の二刀流
この「世界一短い手紙」を残したユーゴーは、同時に「世界最大級に長い一文」を書いたことでも知られている。
同じ『レ・ミゼラブル』の中で、彼は823文字を使って1つの文を書いた。当時の世界では、これが最も長い一文だっただろう。
読むには忍耐と一杯のコーヒーが必要だが、すべて読むと、作品全体からみてこの一文に無駄はなく、必要な情報だとわかるらしい。
歴史に名を残す作家はあらゆる面で「その他大勢」とは違う。
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