明治時代のドイツ貴族が見た日本の変化
明治時代、ドイツの外交官オットマール・フォン・モールが日本政府からオファーを受け、皇室にヨーロッパの宮廷儀式を導入することとなった。
彼は日本で見聞きしたことを『ドイツ貴族の明治宮廷記』(講談社学術文庫)に記している。
それを見ると、当時の日本について、ヨーロッパ人にはまったく同意できなかったものがあったという。
それは衣装だ。
宮中で行事がおこなわれる際、女性は和服ではなく、西洋式のドレスを着ていた。
その様子を見て、このドイツ貴族は「まるで絵のように美しい宮廷衣裳」から、「いかにも俗悪な洋風衣裳」に代わってしまったと嘆いた。

やっぱり、日本人には「和装」がいちばん似合うのだ。
しかし、西洋諸国をモデルに近代化を急いでいた日本は、伝統にこだわり続けることもできなかった。

オットマール・フォン・モール
それから約150年後、ドイツからシュタルク(仮名)という留学生がやってきた。
日本への興味をおさえきれなかった彼は、本格的に日本語を学び、文化や歴史なども知りたいと思って来日してもう半年ほどが過ぎた。
最近、そんなシュタルクと「異文化トーク」をしたので、今回はその中から、以下のテーマを紹介しようと思う。
・招き猫はどこの文化? 外国人のよくある勘違い
・災いの原因は「鬼」か「神」か:魔除けと宗教観の違い
・ドイツ人から見た日本の生活|良いこと&嫌なこと
招き猫はどこの文化? 外国人のよくある勘違い
ーーなあショタ、おっと間違えた、シュタルクに「文化」について聞きたいことがある。
シュ:その間違いは、ねらわないとできないヤツだよな。
まあいい。で、何を聞きたいんだ?
ーー日本の店には、よく入り口で客を手招きしてる『招き猫』が置いてある。シュタルクはそれを知ってる?
シュ:もちろん。昔、好きだったゲームに『ネコマリオ』ってのが出てきて、そこで初めて知ったんだ。
ーーアニメが好きで日本に興味をもって、ゲームで日本の文化について知る。21世紀にはそんな外国人が多いんだろうな。
ちなみに、右手を上げてる猫は「金運アップ」で、左手を上げてるのは「人(客)」を招いてるらしいぜ。
シュ:へ〜、それは初耳。
ーー「猫マウント」を取れたところで聞きたいんだけど、ドイツにもそういう「商売繁盛の縁起もの」ってある?
シュ:ラッキーアイテムねぇ……。いや、何も思い浮かばない。
ーーそうなのか?
どの国だって店のオーナーは、たくさんの客が来てくれることを願っているはずだろ。
ドイツの店でも「お客さまー!!!! はやくきてくれーっ!!!!」って叫んでいるんじゃないのか?
シュ:ナッパと戦ったクリリンかよ。店がそんな絶望的な状況になったら、もう「招き猫」を置くぐらいじゃ意味がないだろ。
でも、ドイツでも店のオーナーが客を心待ちにしていることは間違いない。
ーーだろ?
それなら、「招き猫」みたいな縁起ものを飾ったりしないのか?
シュ:そうやって「特定のモノ」に願掛けをする文化って、ドイツというかヨーロッパ的じゃないな。
ドイツの中国料理店で「招き猫」を見たことある。
やっぱりあの文化はアジアっぽい。
ーー……それは、俺にとって嫌な予感しかしない。
前にフィリピン人の知り合いが、母国の中華料理屋で「招き猫」を見たせいで「アレは中国の文化だ」って完全に誤解していやがった。
シュ:え? 違うの!?
俺は今この瞬間まで、ずっと中国のモノだと思ってた!
ーーやっぱり、お前もそんな勘違いをしていやがったか。
それにしても中国人の拡散力は本当にスゴいな。
「招き猫」は日本生まれで中国へ伝わった文化だから、正しく覚えるように。

シュ:お、おう。俺の脳内情報をそうアップデートしておく。
でもさ、ヨーロッパから見たら、日本も中国も韓国も全部『東アジア』ってひとまとめにしがちなんだよな。
ーーそれはお互いさまだな。
日本人だって、ドイツとフランスとイタリアの文化的な違いなんてよく分からなくて、「あのへん」ってフワッと考えてる人が多いし。
イタリア人がドイツのケルンで作り出して、「オーデコロン(ケルンの水)」というフランス語で有名になった香水なんてどの文化かわからない。
シュ:あれはドイツの文化だ。
ーーってドイツ人なら言うよな。

災いの原因は「鬼」か「神」か:魔除けと宗教観の違い
ーーこの前は節分で、各地で「豆まき」がおこなわれた。
シュタルクはそのイベントを見た?
シュ:見た見た。
キャンパスの中で、学生たちが鬼のお面をつけた学生に豆をぶつけてた。
鬼の顔がかわいらしかったから、豆をぶつける学生の方が「鬼」に見えたね。
でも、なんで豆を投げるんだ?
ーー日本では昔から、病気とかの不幸を運んでくるのは「鬼」のしわざだと信じられてきた。
「豆」は「魔滅(まめ=魔を滅する)」に通じるってことで、豆をぶつけて追い出すらしい。

日本はそんな文化が発達しているんだ。ほかにも節分のときに、魔除けとして玄関に「ヒイラギイワシ」をつける家もある。
ドイツでは縁起かつぎがあんまり無さそうだけど、「魔除け」の文化は何かある?
シュ:ヨーロッパの文化では、人に禍をもたらす邪悪な存在は悪魔や魔女になるな。
でも、豆まきのように魔物を追い出す儀式や、魔物が入ってこないように玄関にお札を貼るのは「アジアの文化」というイメージがする。
いわゆる「魔除け」は知らないな。
ーーなるほど。
14世紀に「黒死病」が大流行しただろ? あのときには数千万人が死亡して、人口が50%以下になったという説もある。
ウイルスの存在を知らなかった当時、ヨーロッパ人はその厄災の原因を何だと考えた?
シュ:「神の怒り」だな。
当時はキリスト教の影響が圧倒的に強くて、この世で起こることはすべて「神の意思」だと信じられていたから、「これは神の怒りだ……」と考えて恐れたはずだ。
ーーそれはまさに「一神教」の発想だな。
多神教の日本とは全然違う。
日本にはそんな考え方がなかったのか?
ーーないね。
神さまが人間に激怒して、感染症を広げて「大量虐殺」したなんて話は神道では聞いたことがない。
でも、恨みを残して死んだ人間が「怨霊」になって人間を不幸にさせる……みたいな発想はあった。

ドイツ人から見た日本の生活|良いこと&嫌なこと
ーーシュタルクが半年ほど日本で生活してみて、『ここはいいネ!』って思うことは?
シュ:街も建物の中も、日本はどこでも清潔なこと。
完璧ではないとしても、ドイツに比べたら明らかにキレイだから、気持ちよく過ごせるね。
ーーアジアなどの発展途上の国から来た人は、「必ず」と言っていいほどそう言う。
ドイツ人目線でもそうなんだ。それは日本人として素直に嬉しいね。
じゃあ逆に、不満なところは?
シュ:日本の生活にはだいたい満足しているけど、あえて文句を言うなら「パン」だな。
ーー「ヨーロッパ人あるある」の回答だ。
シュ:ドイツではスーパーに行くと、本当に色んな種類のパンが並んでいる。ドイツに比べて日本は選択肢が少なすぎるんだよ!
俺はズッシリ重いパンが好きなのに、日本のパンは「密度」が薄くて物足りないんだ。
※ドイツではパンの種類は1300種類以上もあり、一人当たりのパンの消費量は世界最大(Bread in culture)。
ーーへ〜、ドイツでパン食がそんなに発達してるのは知らなかった。
でも、ここは日本。米の国ではおにぎりで我慢しようか。
シュ:我慢どころか、それで満足してるよ。
おにぎりの種類は食べ切れないほどあるし、何よりハズレがないしな。
ーーだろ?日本の米は美味しいんだよ。
ある香港人が「中国の米は温かくないとマズいけど、日本の米は冷めていても美味しい!」と喜んでいた。
シュ:俺は日本に1年しかいられないから、問題はない。それに、日本で食べる寿司はドイツより安いのに美味しすぎる。
そういうアドバンテージはパンの軽さをずっと上回るからな。
おまけ:ドイツのラッキーアイテム
ネットで調べてみると、ドイツにもラッキーアイテムがあるらしい。
それは「Glücksbringer(グリュックスブリンガー:幸運を運ぶもの)」と呼ばれ、具体的には「幸運の豚、四つ葉のクローバー、てんとう虫」などがある。

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