日本語を勉強している外国人から、こんな質問をされた。
「なんで“虫”と“工”で、レインボーの意味になるんですか?」
言われてみれば、「虹」という漢字を2つに分けるとたしかにそうなっている。
物をつくりだす仕事や人を表す「工」と、昆虫を意味する「虫」が合体するとなんで「虹」になるなのか?
でも、そんなことを知らない日本人は日本語を読んで書いて、自由に話すことができるから無視したらいい。
SNSに「きのうは楽しいかった」とか書いちゃう君には、日本語学習でそれより先に、もっと知らないといけないことがある。
でも日本人なら、漢字の歴史や豆知識として知っておいていい。
もともと「虫」という漢字は地面をニョロニョロと這う、あの蛇の外見を模して作られた象形文字だ。
正確にはマムシで、「中」の部分はマムシのふくらんだ頭部、その下の部分は細長い胴体を表している。
だから古代中国において「虫」の字が意味する生き物は、アリやカブトムシなどの昆虫ではなかったのだ。
そうした昆虫を意味する漢字は、昔は「蟲」(ちゅう)と書いていた。
小さな虫どもが集まっている様子から、この「蟲」の漢字が爆誕したらしい。
*蟲の字はもう「うじゃうじゃ」と読んでいい。
そして「蟲」の略字として「虫」が使われるようになって、本来は別だった「蟲」と「虫(ヘビ)」の漢字が一体化していく。

古代ならこれを「虫」と表現してよかった。
ちなみに日本では地面の蛇が「朽(く)ちた縄」に似ていることから、「クチナワ」とも呼ばれる。
大昔の日本人は地面を移動したり、空を飛んだりする小さな生き物をすべてひっくるめて「ムシ」と呼んだ。
そのことは、マムシという古い言葉からも分かる。
この段階では、日本人の頭の中では蛇や昆虫の区別はついていなくて、同じ「ムシ」のカテゴリーに入れられていた。
だからアオダイショウもアリも、ハチもカタツムリもすべて「ムシ」と言ってよし。
日本人はこれを漢字で「虫」と表現していたと思う。
でもやがて、ヨーロッパ人と交流するようになって西洋の科学が入ってくると、日本人はその概念を取り入れて、生き物は「細分化」されるようになる。
そして現在のように、6本の脚があって、体が3つの節に分かれている生き物が「虫」と表現されるようになった。
「虫」が昆虫と蛇に分かれたのもこの時からだろう。
人・鳥・魚・獣などには分類されない、地面にいるヘビや小さな生き物を「むし」と一まとめにしていたから、ダンゴムシやゾウリムシは昆虫ではないのに「ムシ」が付いているし、「蛇」、「蛎(かき)」、「蛤(はまぐり)」、「蛙(かえる)」など昆虫ではない生き物の漢字にも「虫」がある。
話を「虹」に戻そう。
古代の中国人は、雨上がりの空に現れる7色のニジを龍(大蛇)と考えていた。
正確には雄の龍(虹)と雌の龍(霓)に分けていて、「虹霓」でレインボーの意味になる。
空のヘビである「虫」と、天地をつなぐ(または空を貫く)という意味の「工」をくっつけて、「虹」の漢字ができたとされる。
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