日本とブラジルが「友だち」になってから、今年で130年をむかえた。
1895年にフランスで「日ブラジル修好通商航海条約」が結ばれたことで、現在につながる両国の関係がスタートした。せっかくなので、今回は国交成立130周年というビッグウェーブに乗っかろう。
知人のブラジル人は日本の大学を卒業し、そのまま日本に残って会社で働いている。ここでは彼の名前を「アントニオ」とする。日本語ペラペラのアントニオと某有名カフェに行って、両国の社会的な価値観の違いについて話を聞いた。
「モーニング・サービス」
ーーここ『コメダ珈琲』ではモーニング・サービスというのがあって、午前11時までに入店すると、飲み物にパンや卵が無料でついてくる。でも、これは和製英語だから外国人には意味不明。
でしょうね。英語の「サービス」には「無料で提供する」や「オマケを付ける」という意味はありませんから。バイキングが「食べ放題」の意味になるとか、外国語が日本に来ると不思議な意味になることがあります。
ーーカナダ人もそんなことを言ってた。クリスマスにフライドチキンを食べる日本の習慣は面白いんだって。
で、日本のモーニング文化なんだけど、あるアメリカ人が「Morning Service」と聞いて、「朝の礼拝」と思ったんだって。ブラジル人が聞いてもそんな誤解をすると思う?
う〜ん、言葉だけを聞けば、そうカン違いする人もいるかもしれないですね。ブラジルにもキリスト教徒が多くて、日曜日に教会で朝の礼拝がありますから。
ーーそっか。ブラジルの最大宗教はキリスト教だったか。アントニオもクリスチャン?
一応、キリスト教徒ですけど、実際には無宗教です。でも、パンや卵が無料でついてくるそういうモーニング・サービスがあるなら、「コメダ教」なら信者になってもいいかなって、いま思いました。
ーーいいんじゃない? 教義は「コーヒーを味わえ」で、入信も棄教も超簡単だし。

日本で保守/リベラルを分ける基準は「天皇」
ーーアントニオから見て、日本とブラジルの違いにはどんなものがあると思う?
いろいろありますけど、「宗教が社会に与える影響の大きさ」は違うと感じますね。だいたいどの国でも、政治的な立場は大きく「保守」と「リベラル」の2つに分かれますけど、日本の場合、その基準は何ですか?
ーー天皇と憲法9条に対する見方だね。
保守の人たちは天皇の権威を尊重して、伝統的な男系継承を維持すべきだと考えている。それに対して、リベラルの人たちは女系天皇を認めるべきだと主張していて、中でも極端な人は日本から天皇を無くしたいと考えている。
ブラジルには君主がいないので、それは政治的な論点になりません。そういう観点や価値観はブラジルとはまったく違います。
ーーあとは憲法9条。保守の人たちは、今の安全保障環境に合っていないから、憲法9条をアップデートして自衛隊の存在を明記するべきと主張している。
リベラルの人たちは、憲法9条は日本の平和主義の「核」となるもので、絶対に変えてはいけないと考えている。改憲が保守で、護憲がリベラル。
そこもまったく違います。ブラジルの憲法は時代に合わせて何度も変更されましたし、軍隊は憲法に明記されていて、そこに議論が生まれる余地はありません。
ブラジルで保守/リベラルを分ける基準は「キリスト教」
ーーじゃ、ブラジル社会では保守とリベラルをどう分けるんだぜ?
その大きな基準はキリスト教です。保守はとくにカトリックの考え方を尊重して、それをブラジルの伝統的な価値観として守ろうとします。対してリベラルは「個人」を重視して、時代に合わせてカトリック的な考え方を変えようとしています。
ーーその具体例は?
よく論争になるのが中絶です。保守の人たちはカトリック的な考え方からそれに反対しますが、リベラルの人たちは「女性の権利を守る」という意味で中絶を支持します。これは選挙のたびに大きな論争を呼びます。
ーー日本で中絶は一般的に認められているから、それは選挙の争点にはならない。
日本における「天皇」が、ブラジルでは「キリスト教」になるのか。どっちも国民が大きな関心を持っていて国のあり方を決めるから、社会でさまざまな議論が生まれる。
中身は違いますけど、存在感や影響力の大きさは同じくらいじゃないですね。
ーー天皇の権威は神道に由来しているから、天皇と宗教を切り離すことはできない。ほとんどの日本人は無宗教を自称していて、宗教に関心がないから、モーニング・サービスと聞いて、「朝の礼拝?」とカン違いする日本人なんて聞いたことない。
でも、気づかないうちに宗教の影響を受けているんだろうな。
わたしから見ても、日本の社会に宗教色は見えないくらい薄いんです。でも、世界中の国で宗教と伝統はセットになっていますから、日本でも根幹ではつながっていて、そこはブラジルと同じですね。

コメント