喫茶店でおなじみの「モーニング・サービス」や、家電のコードをつなぐ「コンセント」。
しかし、アメリカ人やイギリス人に言うと「なにそれ?」と首をかしげられてしまう。
これは、日本独自の「和製英語」だからだ。
「日本人は英語が苦手だから、間違えて覚えてしまった」と思うかもしれないが、実はまったく違う。
世界の色々な国と比べてみると、ネイティブに通じない英語が日本にあふれている理由には、歴史の授業で習う「ある出来事」が深く関わっている。
これから、なぜ和製英語が生まれたのか、その謎を歴史の背景から解説していこう。

日本は一度も滅亡したことがない。
世界史の年表を見ればそれが分かる。
和製英語の壁|モーニングもコンセントも通じない
日本でおなじみの喫茶店の「モーニング・サービス」を、アメリカ人は「朝の礼拝」と誤解してしまう。
前回、そんな記事を書いてみた。
アメリカ人と異文化交流|カフェと喫茶店の違い・和製英語の「サービス」
無料やおまけを意味する「サービス」は日本でしか通じない和製英語だから、外国人には言語明瞭、意味不明。
日本語を学んでいる外国人に聞くと、和製英語に戸惑う人が多い。というか、この「島国英語」に戸惑いを感じない外国人には会ったことがない。
ボク自身もそれで思わぬ壁にぶつかったことが何度かある。
たとえば「コンセント」だ。
アメリカ人やイギリス人に言っても「なにそれ?」といった顔をして、まったく通じなかった。そこから、やっとこれが和製英語であることに気がついた。
明治時代以降に、『コンセントリック・プラグ(concentric plug)』という英語が伝わり、この『concentric(集中的な、同心の)』を短くして、「コンセント」ができたという。
こういう経験をすると、日本人でも「なんで日本には、ネイティブに通じない英語があふれているのか?」と思ってしまう。
実は、和製英語が多い理由は「日本人は英語が苦手だから」ではない。
そこには、日本が欧米の植民地にならなかったという、世界でも珍しいユニークな歴史が深く関わっているのだ。
これから、和製英語の成り立ちから、日本の歴史と文化の強みを知っていこう。

これだと「降りろ!」と命令しているようで、外国人には失礼に聞こえる。
和製英語ではなく、これは単なる英語の表記ミス。
植民地だった国では言葉がそのまま広まる
日本に独自の進化をとげた英語が多く存在する理由は、世界の歴史を振り返ると見えてくる。
インドを旅行中、いっしょにいたガイドが電話にでるとき、「ハロー?」と何度も言っていた。
それを聞いて、「なぜ英語を使う? 俺にカッコいいところを見せても意味がないだろ」と思ったら、実はまったく違った。
後日、歴史にくわしいインド人から次のような話を聞いて、目からウロコが落ちた。
インドで電話という文明の利器は、イギリスの植民地時代に伝わった。だから当然、それまでのインドには、電話に出るときの言葉はなかった。
イギリス人が電話をとって「ハロー」と言っていたため、自然とインド人もその言葉を使うようになったという。
イギリスの支配を受けていたミャンマーでも、「ハロー」と言って電話に出る人を見た。
フランスの植民地だったカンボジアでは、人びとは「アロー」とフランス語のあいさつを使っていた。
理由は同じで、「支配者の言語」が日常の言葉になり、今でも何気なく使っているのだろう。
こうした経験をすると、自分が歴史に無知であることを思い知ると同時に、日本という国の特殊性にも気がついた。
欧米の植民地にならなかった日本
19世紀から20世紀にかけて、アジアやアフリカの多くの国々が、イギリスやフランスなどの欧米列強によって植民地として支配された。
植民地になると、支配する側の国の言葉を公用語として強制的に使わされることになる。
この過程だと、ネイティブの言語がそのまま入ってくるから、現地で言葉の意味が変わることがない。
しかし、日本は違った。
明治維新をへて欧米列強をモデルに近代化に成功し、独立を死守することができた。
欧米の植民地にならなかったため、英語を「強制される」ことがなかったのだ。
日本は外来語を作り直した
日本をバージョンアップさせるためには、新しい西洋的な概念や言葉を取り入れ、吸収して自分のものにする必要があった。
その際、日本人は英語などの外来語を翻訳し、主体的に取り入れた。
以下はその具体例だ。
「政府、政治、裁判、建築、交通、銀行、道路、鉄道、自転車、運動、体育、陸上、野球」
英語版ウィキペディアの「和製英語」の項目にも、その歴史的背景が書かれている。
英語の借用語(外来語)は、日本人によって意図的に導入されたため(言語接触などによる「自然な」拡散とは対照的に)、意味が本来の原義から離れることが多いという。
Since English loanwords are adopted into Japan intentionally (as opposed to diffusing “naturally” through language contact, etc.), the meaning often deviates from the original.
主体的に言葉を取り入れた結果の「ズレ」
明治時代、近代化を急いでいた日本に、大量の英語の外来語が流れ込んできた。
社会の変化があまりにも急速だったこともあり、実際の意味が十分に理解されず、誤解したり本来の意味から外れたりしたまま、日本社会に受け入れられた言葉も多かった。
「コンセント」はその一例だろう。
「サービス」という言葉は大正時代に日本人によって伝えられたから、これも本来の意味と違う形で社会に広まったと思われる。
インドやミャンマーの歴史はこの点が違う。
支配者だったイギリス人が実際に使っていた言葉が普及し、社会に定着していったから、オリジナルの意味から外れることがなかった。
「言語接触などによる“自然な”拡散」とはこの現象を指す。
※現代のインドには独特の英語表現がある。
現代の韓国語では日本と同じ意味で「コンセント(콘센트)」や「サービス(서비스)」という言葉が使われている。
その理由はインドやカンボジアと同じで、日本の統治時代に朝鮮半島へ和製英語が伝わった結果だろう。
日本は植民地にならないように、「富国強兵」のスローガンのもとで国を強くしていった。西洋の進んだ技術や文化を自分たちから進んで学んだため、英語を強制されることはなかった。
明治や大正時代、日本での主役は日本人だった。
自分たちの発展を第一に考え、「日本人のフィルター」を通して、自分たちが使いやすいように加工した。
英語を強制されず、自分たちから主体的に受け入れた歴史的背景が、結果的に細かい「意味のズレ」を生むことにつながったのだ。
日本は英語を「魔改造」した
先ほどの英語版ウィキペディアには、こんな興味深い指摘もある。
「日本によって意図的に採用された英語は、本来の意味から外れることが多い。それが日本語の語彙として深く定着すると、意味の実験や再構築(experimentation and re-fashioning)がおこなわれ、その結果として和製英語が生まれるのである。」
日本人は外来の文化を自分たちの好みや価値観に合わせ、好き勝手に変えることが得意だ。
英語も日本の社会に合わせてデザインし直し、「魔改造(再構築)」されてもおかしくない。むしろ、そうならなかったら不自然だ。
それらが和製英語になる。
カタカナという「便利ツール」
マレーシアを旅行していたとき、サウジアラビア人の留学生と出会った。
彼女に日本語の説明をすると、
「異なる文字(ひらがな・カタカナ・漢字)が3つもあって、それを1つの文の中で使い分けるの! そんなの想像できない。日本人は本当に頭が良い!」
と絶賛されてしまった。
しかし、彼女はアラビア語・マレー語・英語の3つの言語を話せる才女だったから、その賞賛は辞退させてもらった。
日本語では外来語をカタカナで表記する。英語の「魔改造」を可能にしたのも、その存在が大きい。
外国の言葉を無理にネイティブ発音で言おうとするのではなく、カタカナという日本語のリズムに当てはめてしまうことで、どんな外来語もすぐに日本語の一部にしてしまう。
そんな便利なツールが日本語にはある。
※カタカナ英語は別の問題を引き起こし、「日本人の英語下手」の原因にもなっている。
「日本人の受容性と創造力」から和製英語は生まれた
「英語を自分たち流にアレンジできた日本」と、「支配者の言葉をそのまま受け入れた国」。この歴史的な背景の違いを知ると、日本が外国の言葉を「独自のフィルター」で自由に選んで取り入れられたことが、いかに特殊な状況だったかが分かる。
外国の文化を100%そのまま受け入れるのではなく、自国の文化や生活様式に合わせて柔軟にカスタマイズする。
日本は植民地支配を受けず、独自の文化を守りながら近代化を実現したから、こんな芸当が可能だった。
独自のフィルターを通して作られた言葉たちは、日本人の日常にすっかり溶け込んでいる。
和製英語は本来の意味と外れているが、「間違い」ではない。
他国の文化をカスタマイズ(魔改造)する、日本人の受容性や創造力の証拠だ。この才能がなかったら、日本は近代化に成功し、第一次世界大戦後に「世界五大国」の1つになることはできなかっただろう。
外国人だけでなく、日本人も和製英語には苦労させられるが、世界を見渡しても、ここまでみごとに外国語を自国語に融合させ、再構築(re-fashioning)した言語文化はなかなかない。
和製英語が多い理由は、「日本人は英語が苦手で正しく理解できないから」ではない。
「植民地にならず、自らの意志で英語を取り入れ、日本人のフィルターを通して魔改造したユニークな歴史があるから」なのだ。
もちろん、理由はそれだけではない。
「SNS」を英語圏では「social media(ソーシャルメディア)」と言うように、最近になって生まれた和製英語もある。
それに、今は時代が変わったから、本来の正しい意味で英語を覚えることも大切だ。

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