日本は1985年から1945年まで台湾を統治していた。
小説家の豊島 与志雄がその時代の台湾を訪れ、気候について日本との違いを実感し、『台湾の姿態』にこう書いている。
「その雨期と乾燥期との時期に於て対蹠的であるが、その変化目の――例えば四月頃の気候は、病的というの外はない。冬服の気温から単衣一枚の気温に至る間を、幾度も往復する。」
台湾では雨季と乾季の変わり目になると、1日ごと、または朝夕の寒暖差が激しくなり、当時の日本人からすると「ヒステリック」に感じるほどだった。これは北部の台北でも、南部の高雄でも変わらない台湾の気候の特徴だという。
それから時代は流れ、知人の台湾人(20代・男性)が今年の8月まで静岡の大学で留学生活をエンジョイしていて、今は台湾に戻って桃園市にある大学に通っている。
桃園市は台湾の北西部にあり、人口は200万人を超える大都市だ。
先日、彼と話したのでその内容を、台湾の基本情報を確認した後に紹介しよう。
面積:3万6千平方キロメートル(九州よりやや小さい)
人口:約2,342万人(2024年)
主要都市:台北、台中、高雄
言語:中国語、台湾語、客家語等
宗教:仏教、道教、キリスト教
ソース:外務省HP「台湾(Taiwan)基礎データ」
ーー今日は11月27日で、時間は午後10時で静岡の気温は13度。台湾ならいま午後9時で、気温は何度ある?
えっと18度です。日本に比べるとあったかいですよね。台湾の気候は南北で分かれていて、北部は亜熱帯気候、南部は熱帯気候だから南部はもっと暖かいです。
ーー南北では気象だけじゃなくて、気性も違うと台北人から聞いたことがある。南部の人は情熱的で、北部の人はクールなんだって。
その分析は合っていますね。南は暑いし熱いです。
桃園は北部にあるから、南部に比べたら四季はありますけど、日本ほどはっきり分かれていません。今、友だちが日本旅行をしていて、紅葉の写真をSNSにアップしています。台湾ではあんな赤い光景は見られませんから、ヤツらがうらやましいですよ。
ーーちょうど今、知り合いの台湾人カップルも京都でもみじ狩りをしていて、この前もSNSに写真を載せて、「真的好美(本当に美しい)〜」と感想を書いていた。台湾では紅葉はないの?
場所によります。ぼくが住んでいる地区では紅葉は見られません。葉っぱは今でも緑が多くて、ほとんど変化がありません。
山に行くと寒くなるので、そこならオレンジや赤くなった葉を楽しむことができます。でも、やっぱり日本の方が「本場」って気がしますね。
日本の紅葉を見ることができなかったのは本当に残念です。

台湾人が「好美」と感動した日本の秋の風景

冒頭の豊島与志雄は台湾の東部を訪れ、山々を見た際、日本との大きな違いを感じた。
日本では、山に向かって歩いていくと、山の麓(ふもと)や中腹が人に迫ってきて、頂上は後方に逃げていく(遠ざかる)が、台湾の山はまったく違い、次のような印象を受けたという。
「台湾の印象は、まず山と川から来る」
「麓や中腹と共に、頂までがじかに人に迫ってくる。寧ろ頂が真先に人に迫ってくる。」
「それらの山々は、裾から頂上まで、密林の濃緑をまとって、頂から真先に人にじかに迫ってくる。」
現代の桃園市に住む台湾人は、山にこんな威圧感を感じていないらしい。
ーー「残念です」って言うけど、台湾でも山間部では紅葉を楽しめるんでしょ? 山に行こうとは思わない?
これまでは思いませんでしたけど、今は違います。日本にいたとき、初めてハイキングに行って、「自然っていいな」って感じたんです。自分の中では、これは日本に行った大きな「成果」なんですよ。
ーー人生で初めて山に登ったのが日本?
はい。日本では「台湾には山が多いから、台湾人は登山が好き」というイメージがあるみたいで、「いえいえ、ぼくは登ったことがないです」と言うと、意外な顔をされることがありました。
やろうと思えばできるんですけど、ぼくが住んでいるところだとアクセスが悪くて、その気が起こらなかったんです。
ーー日本に来て、「やる気スイッチ」が入ったと。
押されましたね。山の空気はこんなにきれいで、自然はとても気持ちが良いんだな、と思いました。
日本に行く前は、バイク(原付き)で移動できるところが生活圏で、基本的にそこから出ませんでした。平日は学校へ行って、休みの日は家でゲームや動画を見たり、友だちとご飯を食べに行って、たまにジムで体を動かすだけで、ほとんど自然を感じない生活をしていました。日本に行って目覚めたんです。
ーーそう言えば、東京に住んでいる台湾人からもそんな話を聞いた。
彼女が高尾山で人生初の登山をしたら、自然の素晴らしさに覚醒して、いろんな山に登り始めたんだって。
台湾の自然は豊かだけど、市民からは遠くにあって実感していないのかも。
紅葉もそうですけど、都市部に住んでいる台湾人は季節の移ろいを感じにくいです。日本に住んでいて、日本人のほうが自然を身近に感じて暮らしていると思いました。
ーー「台湾の印象は、まず山と川から来る」という日本人の感想は昔話で、今では桃園から入るとコンクリートジャングルから来るのか。
おまけ
日本統治時代、宮原武熊という眼科医が台湾中部で病院を開いた。今でも「宮原眼科」という名前を残していて、当時の雰囲気を伝える観光スポットになっている。

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