【中国の端午節】日本と違う点/粽を食べる理由は屈原の悲劇

 

10年ぐらいまえ中国人から、日本に来て初めておにぎりを食べたと聞いて、「中国にはおにぎりがない?」と意外な気がした。

無知蒙昧だったそのころのボクは(今は浅学非才にランクアップ)、おにぎりが日本人の大発明とはつゆ知らず、コメ大国の中国にも当然もあって、ひょっとしたらこれは中国由来の食べ物かと思っていたけれど、その中国人は母国でおにぎりを見たことないと言う。

その人いわく、中国人は基本的に温かい料理が好きで冷たいものは嫌い。
特にお米は温かいのが常識で、おにぎりのように冷たいお米は食べたくない。
知人の日本人の家に行ったときにおにぎりを出されたのは、中国人的には「あり得ない」と失礼に感じた。
でも、日本人はおにぎりが好きだし、いまでは文化の違いと理解している。

そう話す中国人に、中国にも日本のおにぎりのような食べ物がないか聞いたら、少し考えてから「粽(ちまき)ですね」と答える。
あれはおにぎりのように米を固めて中にいろんな具材を入れた食べ物で、温かいからみんな大好きで中国の広い範囲で食べられていると言う。

そんな中国には一年に一度、「粽の日」といえる重要な日があるのをご存じだろうか。

 

 

 

これは京都の祇園祭で売られる縁起物の粽で食べられない。

 

2日まえにネットを見ていたら、中国人の知人から「你们过端午节吗」というメッセージをもらったけど、意味がわからないから教えてほしいという書き込みを発見。

これは「端午の節句(端午節)を祝っていますか?」という質問らしい。
旧暦の5月5日(2020年は6月25日)は中国の端午節で、この日に粽を食べることが中国の伝統文化になっている。

端午節について詳しいことはここをクリックしたまえ。

昔、中国では五月は悪い月とされ、薬草をとって悪い気をはらう行事があり、かおりの強いアオイや菖蒲には、魔よけの力があると信じられていた。

端午

もともとこの日は女性が大事にされる日だったけど、日本では武士が支配する江戸時代に、菖蒲が「尚武(武を重んじること)」に変わって男の子のための日となった。
鯉のぼりもそうだけど、日本人は中国由来のものを自分好みに変えてしまう。

 

端午節の歴史はとても古く、紀元前3世紀の楚の国で始まったという。
そのころの楚には西の大国・秦とどう付き合っていくかがいかが死活問題と言っていいほど大事な問題だった。

 

前286年の楚(紫)と斉(白)

 

楚には屈原(くつげん)という優秀な政治家がいて、「秦は信用できないから東の斉と同盟を結びましょう。そして一緒に秦に対抗するのです」と王に進言したけれど、バカな王はそれを聞き入れない。
そして秦と同盟を結ぶことを決め、王自らが秦に出向いて行ったら、捕まって監禁されたでござるの巻。

その後屈原は左遷された先で秦軍によって首都が落とされたことを聞き、愛国者だった彼は悲嘆して石を抱いて川(汨羅江:べきらこう)に飛び込み命を絶った。
その命日が5月5日で、人望のあった彼のために、多くの人が汨羅江に供物を投げ入れて供養するようになる。

でもこの川には竜がいて、屈原のための供物を食べてしまうことから、人びとは厄除けの葉(楝樹)でもち米を包み、それを供物として川に投げ入れた。
こうして生まれたのが粽ですわ。
いまでは端午にこれを食べるのが恒例行事となり、ある中国人は端午を「チマキの祭りです」と表現していた。

日本では国民が一斉におにぎりを食べる日はないから、その意味では恵方巻きに似ている。

日本の粽についてはここをどうぞ。

ちまきは柏餅と並ぶ端午の節句の供物として用いられる。(中略)北海道から関東甲信越、九州の一部では中身がおこわ、東海から九州では中身が甘い団子との回答が多数を占めた。

ちまき#日本のちまき

 

ちなみに端午節のときには龍の体に見立てた手漕ぎの船、ドラゴンボートで競争するイベントも中国のお約束。

 

これは川に身を投げた屈原を助けるために船を出したという故事にちなむ。

 

5月5日の端午節を祝う習慣は東アジアに伝わって、いまでも行われている。
これは台湾に住んでいる日本人のコメント。

「端午節快樂!
今日は旧暦5月5日で、台湾では端午節の祝日です。
中華圏では端午節に粽子(ちまき)を食べる習慣があって、台湾では南部粽(生米を蒸して作る)、北部粽(おこわに近い)の他に客家粽、原住民の粽、東南アジアの粽など色々な粽が食べられているそうです。」

 

これは日本語ペラペラのベトナム人。

「今日、旧暦5月5日端午の節句
ベトナムでは、端午の節句ことを殺虫節と呼ばれています
殺虫節になると、竹の葉っぱかバナナ葉っぱで包んだ粽(バインチョー=Banh tro)や酒に漬けたもち米(コムズオウ=Com ruou)、蓮の実入りぜんざい(チェーハットセン= Che Hat Sen)、果物などを食べる習慣があるよーん。
粽は竹の葉っぱで包むことによって爽やかな香りがするのよ灰汁につけた餅粉を使うため、少し透き通るような茶色に仕上がりに出来立てはぷるんぷるんモッチリ中に緑豆の餡が入っていますが、伝統的な作り方では餡子を入れないだってこの粽は甘すぎず、何個でも食べられるよ」

 

「殺虫節って、なにそのパワーワード?」と思って調べてみたら、この時期は虫がわきやすいから、ベトナムでは農作物や樹木の虫を殺す「殺虫の日」と呼ばれている。
文化は生き物で、伝わった地域で独自の進化をとげるものらしい。

 

 

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2 件のコメント

  • >昔、中国では五月は悪い月とされ、薬草をとって悪い気をはらう行事があり、かおりの強いアオイや菖蒲には、魔よけの力があると信じられていた。

    >「殺虫節って、なにそのパワーワード?」と思って調べてみたら、この時期は虫がわきやすいから、ベトナムでは農作物や樹木の虫を殺す「殺虫の日」と呼ばれている。

    この2つを比べてみると、もしかすると、昔の中国でもベトナムでも、同じ意味の記念日(でいいのか?)だったんじゃないですかね?

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。