今回のゲストは、アメリカに住んでいる30代のタイ人女性だ。
彼女はカニが好きなので、ここでは「プー(カニ)」というチューレン(ニックネーム)で呼ぶことにする。
プーは日本の大学を卒業して日本の会社で働いて、一度タイのバンコクに戻った後、夫とアメリカに移住してミシガン州にある日系企業に就職した。今はその仕事を辞めて、子育てに全集中している。
そんなプーと話した内容がこちら。
日本で驚いたこと
ーープーは、日本について驚いたことはある?
タイは自殺がとっても多い国で、東南アジアでワースト1になったこともある。でも、日本の自殺率はそれより多いと知って衝撃を受けた。
※「微笑みの国」と呼ばれるタイのダークサイドが自殺率の高さ。
2024年の自殺者は約5000人で、人口10万人あたり約8人がみずから命を絶ったことになる。
同じ年、日本では約20000人が自殺し、10万人あたり約16人とタイの2倍を記録した。それでも、平成には3万人が自殺する年が続いていたから、少しはマシになっている。
ーーキリスト教やイスラム教では、自殺は神の意思に反する行為で「重罪」とされている。タイの文化ではどう考えられている?
タイも同じで、仏教ではその行為は「自分を殺す殺人」と見なされて、重い罪になるってお坊さんから聞いた。だから、その人の魂は輪廻することができなくて、地獄に行くんだって。
あと、これは驚いたというよりは意外に感じたんだけど、日本人はタイ人よりも自殺した人に対して同情的だと思う。
ーーほとんどの日本人は無宗教だから、「罪を犯した」という意識はなくて、「そこまで苦しんでかわいそう」という気持ちが強い気がするな。

10年以上前、バンコクのショッピングモールで見たキャンペーン。
タイ人女性の間で日本風のコスメは人気がある。でも、最近は韓流に押されて、「あった」と過去の話になっているかもしれない。
日本とタイの子育て
ーー日本で3年ほど生活していて、自分が変わったと思うことはある?
いちばん大きい変化は「わたし、たぶん一人でも生きていける!」っていう自信がついたこと。日本に来てからは、毎日大学での研究と家事をこなして、たまに発生する病気なんかのトラブルを乗り越えたから、自分に自信がついた。
ーータイの大人は子供に甘いんじゃないかな、甘々だと思う。前に、バンコクのわりと高級なレストランで、子供が走り回っているのを見たことがある。日本ならきっとマナー違反として怒られるけど、タイでは親も店員も客も「元気があってかわいい」みたいに微笑ましく見ていて意外に感じた。
その傾向は確かにあるね〜。わたしが日本に住んでいた時、公園で走っていた子供が転んだのを見た。親は離れたところから見ていて、子供は一人で立ち上がった。あの光景を見て、タイの親との子育ての違いを感じたな。
ーープーの親はどんな感じ?
あの人たちはタイの基準でも過保護。タイにいた時は親にまかせっきりだったから、一人暮らしをして「実は、やればできる子だった」って気づいたことは、わたしの中では革命なの。
日本語能力試験で1級に合格したことも自信になった。それで日本企業に就職できて今があるから、日本に行って世界が広がった。
ほかの国だったら、途中であきらめていたかもしれないし、日本を選んで本当に良かったって思うよ。
ーーノスタルジーな気分を壊すようで悪いんだけど、一時期タイで日本発の「オマカセ」が流行ったよね。レストランで「OMAKASE」と言ってシェフに作ってもらうってやつ。
ああ、あれは定着して、今でもバンコクのレストランでよくある。タイの食文化で、そんなものは無かったから新鮮だったね。
ーータイ人ってわりと他人まかせで、自分はラクをしようと企むよね。
それは否定できない…。たしかにタイ人はすぐに弱音を吐いて、周りの人に「おまかせ」しようとする。

バンコクの繁華街で見た「ひったくり注意」の看板。
こういうときは一瞬の「損切り」が大事で、ヘタに抵抗するとバッグを奪われるだけでなく、殴られたり刺されたりする。
日本の治安
ーープーはさっき、「日本じゃなかったら、あきらめていたかも」って言ったけど、それは具体的にどんなこと?
それは安心感。一人暮らしの女性にとって、日本の治安の良さは本当に助かった。
バンコクで実家はソイ(大通りにつながる路地)の奥まったところにあって、日が沈むと暗くなるから、一人歩きはできるだけしなかった。近くにスラム(貧民街)があって、たまに殺人事件も起こることもあった。
ーーバンコクへは観光で何度も行ったことがあって、夜でも人がたくさん歩いていたから、治安は良いと思ったけど、やっぱり観光客には見えない部分があるんだ。
今わたしはミシガン州の郊外に住んでいて、治安はそこそこ良いけど、中心都市のデトロイトは危ない。昼間でも雰囲気が怪しい場所もあって、怖い思いをしたから、デトロイトにはあんまり行きたくない。
深夜まで大学で研究して、何の不安もなく自転車に乗って帰れるのは日本は最高だった。
ーー日本に住んでいたアメリカ人女性も同じことを言っていた。街中のバーで飲んでいるうちに記憶が無くなって、気づいたら部屋のソファーで寝ていた。足にいくつかすり傷があったけど、どこで作ったのかまったく記憶がない。
ーー日本に住んでいたアメリカ人女性も同じことを言ってた。彼女が街中のバーで飲んでいるうちに記憶が無くなって、気づいたら部屋のソファーで寝ていた。足にいくつかすり傷があったけど、どこで作ったのかまったく記憶がない。
バンコクやデトロイトでそんなことをしたら、本当にゾッとする。
ーーさらに、彼女は財布が無いことに気づいて、「詰んだ…」と思った。でも、交番に行ったら、別の交番で預かっていることがわかって安心した。でも、自分はもうアメリカに帰国できないんじゃないかと不安になったんだって。
日本の治安の良さは別格だから、わたしでも一人暮らしができたと思う。

コメント