先週、奈良で演説中の安倍元首相が暗殺された。
この事件で不思議に思ったはあの距離。
いま日本で最も影響力があるような大物政治家に、なんで犯人がわずか5mのところにまで近づくことができたのか?
もちろん警察も要人警護については厳しい訓練を行っている。
でも、その事情にくわしい警察関係者の話を聞いてビックリした。
テレ朝ニュース(2022/07/09)
今回のようにいきなり銃を取り出して撃つのは今までない。多くの訓練は思想をもった人間などが『安倍!』などと叫んで撃つといった想定が多い。
凶行を防げなかったのか?映像より見えた「警備体制や警護の限界」とは
暗殺を目的とする人間なら、黙って近づいて突然攻撃するのでは?と首をひねったら、ネットの反応もそんな感じだ。
・そんな親切なテロリストいるかよw
・撃つ前に技の名前を言うべき
・小学校の避難訓練じゃないんだから…(´・ω・`)
・一礼も必要やないか?
・「無言で襲撃するのは良くない」
内閣はこれを閣議決定しろ!
ただこれは発言の一部だから、警察のしている要人警護の訓練が全体的にどんなものかは分からない。
にしてもやっぱり、名前を叫んでから襲うという設定はドラマの世界のような。
さて、ネットのコメントを見ていると、「名乗りをあげよって鎌倉時代かよ」「やあやあ我こそは~!の時代からほとんど進歩してないやん」とボクと似たようなことを思った人が何人かいた。
ということでここから話はガラリと変わって、平安時代末期~鎌倉時代に行われた日本の合戦のルールについて。
源平合戦のころの戦いは「勝利こそ至高、そのためなら何でもアリ。」というワケではなく、一定のルールがあって、敵も味方もそれは守っていた。
まず事前にメッセンジャー(軍使)を送って、合戦の日時や場所を決める。
そして当日、決戦の地にやって来て両軍が向かい合ったあと、馬に乗った軍の代表が前に進み、自分たちは誰であり、この戦いをする正当な理由を大声で述べて自軍の士気を高める。
いわゆる「名乗り」をあげるってヤツ。
このとき相手をバカにしたり、挑発するようなことを言う場合もあった。
そしてそれが終わると、大きな音がする「鏑矢(かぶらや)」が空に向かって放たれ、それが合戦開始の合図となって全軍が突撃する。
ちなみに『進撃の巨人』のOPの「反撃のこ・う・し・さ」で一世を風靡した「嚆矢(こうし)」は基本的に鏑矢と同じものだ。
「名乗り」を上げるのは合戦を始める直前だけではない。
戦っている最中に名のありそうな武士を見つけたら、自分の名前や身分、家系などを伝えて一騎打ちを申し出ることもある。
こうした「名乗り」が行われている間は攻撃を控えるのがお約束で、敵もそれに応じたら一騎打ちが始まる。
平安時代末期の源平合戦では、平氏の藤原景清がした「遠からん者は音に聞け、近くば寄って目にも見よ」の勝ち名乗りは伝説的に有名でもはやテンプレ。
これが「名乗り」の代表格になって、いまでもマンガやアニメでたまにこのセリフを聞く。
「我が名はゆんゆん!アークウィザードにして上級魔法を操る者。やがて紅魔族の長となる者!」の元ネタも、さかのぼっていくと藤原景清の名乗りに行きつくかも。
で、名乗りをする理由はナニか?
当時の合戦では、獲得した首を証拠に報酬をもらっていたから、自分が倒した相手は何者かを把握することはとても重要で、そのため「名乗り」が必要だったという。
自分の名前を周囲に知らしめたうえで勝つことで強さをアピールし、知名度を上げる効果もあっただろう。
戦いは世界中の歴史にあるとしても、こんな文化は日本以外には知らない。
源平合戦で源義経が無双できた理由の一つに、この当時の合戦のルールを無視した攻撃を行なったことがある。
1184年にいまの神戸市のあたりで、とつぜん崖の上からポニョポニョ、ではなくてドドドドドっ!と軍馬の奇襲をかけて平家の軍を蹴散らした「一ノ谷の戦い」は、事前に合戦の日時を知らせるというセオリーを無視したものだった。
ほかにも義経が別の戦いで、戦闘員(武士)でなくて船の漕ぎ手を攻撃したこともあって、これも合戦の常識を無視する行為だ。
でも、滅亡した平家が源義経の「ルール違反」を非難するのは無意味。
命をかけた戦いなら、想定外が起こることも想定しておくべきだった。
それは21世紀の警察の要人警護も同じこと。
そもそも暗殺する直前に、ターゲットの名前を叫んで、注意を自分に集中させるテロリストなんて一体どれだけいたのか。
合戦の合図として、鏑矢が放たれる鎌倉時代のころの戦いじゃないんだから。
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