ビスマルクとかいう超有能:エムス電報事件で普仏戦争へGO

 

パリ市内では食べ物がなくなって、人々は寒さに震え困窮している。
パンの質は極めて劣等で、パリの犬、猫、ネズミの7~80%は食べつくされた。

1870年に「ドイツ(プロイセン) vs フランス」の普仏戦争が始まったとき、パリで学んでいた渡 正元(わたり まさもと)は市内の様子を日記(巴里籠城日誌)にそう書いた。
この戦争に勝ったドイツは念願だった統一を達成し、フランスでは第二帝政が崩壊して明暗が残酷なほど分かれる。

ほかにドイツはフランス領のアルザス=ロレーヌを手に入れた。

「私がここで、フランス語の授業をするのは、これが最後です。普仏戦争でフランスが負けたため、アルザスはプロイセン領になり、ドイツ語しか教えてはいけないことになりました。これが、私のフランス語の、最後の授業です。」

そう聞いて、アルザス地方にいたフランツ少年は大きな衝撃を受けたという『最後の授業』を知ってる人も多いのでは。
でも、もともとアルザスはドイツ語圏にあったところだ。
住民のほとんどがドイツ語方言のアルザス語を話していたから、この物語はかなりフランス寄り、ナショナリズムを刺激する方向に盛られてる。

「国民のナショナリズムをあおる」といえば、普仏戦争の始まりもそうだった。
日本の高校世界史では太文字レベルの重要な「エムス電報事件」がきっかけとなって、両国は戦争に突入したのだ。
ということで、この事件について見ていこう。

 

この舞台となったバート・エムスは、ドイツにある温泉で有名な保養地。
1870年にプロイセン王ヴィルヘルム1世がエムスを訪れて温泉に入り、ひょっとしたら卓球もして、とにかく静養していた。
リラックスしていた王にきょう7月13日、フランスの大使が「ボンジュー、湯加減はどうですか?」と訪ねてくる。(たぶん)
この直前、フランス側の要請を受け入れてヴィルヘルム1世は、スペインの王にはならないと約束していた。
でも、フランスはさらに欲をかいてしまう。
今後もドイツのホーエンツォレルン家から、スペインの王位候補者を出さないことをヴィルヘルム1世に文章で約束させようとする。
この要求を不愉快に思ったヴィルヘルム1世は丁寧に、でもハッキリと拒否した。

そんなことがあったとヴィルヘルム1世は首相のビスマルクに電報で伝えて、このことを新聞を通じて公表すべきかどうか、その判断をビスマルクにまかせた。

「御意(ぎょい)」とうけたまわったビスマルクは、もともとフランスとの戦争を望んでいたらしく、それを見たら全国民が立ち上がるような内容に変えてしまう。
フランス大使がプロイセン国王に無礼な要求を迫り、その態度に怒った国王が拒否し、大使を強く追い返したような文章に編集する。
そしてビスマルクがそれを国民に公表すると、予想通りの展開に。

ベルリンでは、国王に対する非礼に怒りの声が上がり、それは北ドイツ連邦だけでなく、バイエルン、ヴュルテンベルク、バーデンら南独諸邦にまで波及した。こうしてビスマルクの思惑通り、「全ドイツ」がフランスへの怒りで一体となった。

普仏戦争

 

フランスはフランスで大使が侮辱を受けたと国民が激怒し、プロイセンとの戦争を求める声が急速に高まっていく。
そしてフランスが7月19日にプロイセンに宣戦布告し、普仏戦争へGO。

 

ビスマルクが受け取った文章をすぐに変えた結果、両国民のナショナリズムを刺激し、反フランス・反ドイツ仏の感情に火をつけて戦争を起こさせたことになる。
そしてパリの犬、猫、ネズミの7~80%は食べつくされるという惨状が生まれ、フランスは第二帝政が崩壊し、アルザス=ロレーヌを奪われた。
ここまで予想してたか知らないが、やっぱりビスマルクの現状と未来を読む力、とっさの判断力とスピードはワールドクラスだ。
幸運の女神は前髪しかない。
だからチャンスという女神が通り過ぎた後に、あわててつかもうとしても後ろ髪がないからムリ。
まさに「機を見るに敏」の体現者でこのあとすぐれた外交手腕を発揮し、「ビスマルク体制」と言われる国際秩序をつくり出したのも納得だ。

 

ドイツの温泉地・エムス

 

ヨーロッパ 目次

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。