【一貫道と禁葷食】日本旅行で台湾人が一番困ったこと

 

知人の台湾人女性から数年前に、近く彼氏と一緒に日本へ旅行に行くから、京都を案内してほしいと頼まれた。
それは、がってん承知の助(昭和感!)。
東日本大震災が起きた時、台湾は日本を全身全霊で支援してくれたから、今度はこちらがささやかなお返しをしよう。
「謝謝台湾 我愛台湾 期待再次相見」という文を見たら、日本人でもだいたい意味が分かるように、日本語が分からない台湾人でも、漢字の拾い読みでけっこう意味は理解できる。
だから、「なんて書いてあるのか、さっぱり分かりません!」というインド人やアメリカ人などとは違って、漢字民族である台湾人に言葉の壁は低いから、それだけ日本での旅行は楽になる。
それに知人は日常会話レベルの日本語が話せるから、困ってしまうようなトラブルが起こるとは思えない。
というフラグを立てる。

 

 

そんな台湾人が京都で困ってしまった。
それは「ぶぶ漬けでもどうどす?」で、「Get out of here(ここから失せろ)」を意味するという京都独特の言い回しのせいではない。
2人が困惑したのは食事。
一貫道」という宗教の信者である彼らはヴェジタリアンだから、牛肉も豚肉もチキンも寿司も食べることができない。

一貫道という名称は「吾が道は一もって之を貫く」(論語)に由来する。
仏教・儒教・道教を一貫する考え方を掲げ、キリスト教やイスラム教も取り入れたという、いろんな要素をぶち込んだ宗教で結局よくわからない。
一貫道では一切の肉食が禁止されているから、「野菜サンドウィッチ」と書いてあるのにもかかわらず、なぜかベーコンが入ってるような肉食大国の日本では、2人は食べ物に細心の注意を払っていた。
ちなみに台湾ではヴェジタリアンが多く、人口の10%ほどと言われる。

でも、「ヴェジタリアンのおもてなし」なら、ボクもインド人との付き合いで鍛えられたから、平均的な日本人以上の知識はある。
以前の失敗から、昆布だしのウドンならOKだけど、かつおだしはNGといったことは知ってるし、ヴェジタリアンへの対応はそれなりに慣れてるから特に問題はない。きっと大丈夫。
…と思っていた時期が私にもありました。

2人を嵯峨野に案内した時、そういえば近くに、値段のわりに美味しい豆腐を出す店があったのを思い出す。
彼らは日本で食事をする店は事前に調べて決めていたから、こういうイレギュラーは基本的に歓迎されない。
でも、豆腐なら大丈夫と言うから、その店へ連れて行って3人数分の豆腐を注文する。
で、出てきた豆腐を見て、「これは食べられません!」と言い出すからこっちはビックリだ。
豆腐に薬味のネギがちょこんとのっていて、しょう油がかかっているだけの豆腐の何がダメなのか?

 

これはイメージが象

 

答えはネギだった。
豆腐もしょう油もOKだけど、彼らはネギを食べることができなかった。
いやしかし、ネギは360度、どこから見ても野菜だろ!
こんなん、「アメリカでピザが野菜に認定された」と聞いた時と同じぐらいの衝撃だ。
(後にこれはデマと判明)

2人はほかにもニンニクやニラもダメだと言う。
理由を聞いても、彼らもそこまでは知らず、とにかくこれは避けないといけないと考えていた。
友人といたから決して孤独ではないけど、結局ボクが1人で3人分の豆腐を食べるという「孤立のグルメ」みたいな状態になってしまった。
「お金は大丈夫です。私たちの分は私たちが払いますから」と言われて打ちのめされた感。

 

「不許葷酒入山門」の石碑(東京・杉並)

 

なんであの台湾人はネギ、ニンニク、ニラを食べられないのか?
最近、たまたま京都・法然院にある「不許葷辛酒肉入山門」(葷酒山門に入るを許さず)と書かれた石碑を見てそのナゾが氷解。

葷酒(くんしゅ)とは五葷と酒のこと。
ニラ、ネギ、ニンニク、ラッキョウ、ショウガの五つの野菜には、辛みがあってニオイもきついから、食べると色欲や怒りといった悪い心が生まれると仏教では考えられている。
それで五葷の摂取は禁じられた。(禁葷食
だから、「不許葷辛酒肉入山門」の石碑を設置して、五葷や酒を口にした人間は寺に入ることはできないことを伝え、同時に僧への戒めにしている。

「ネギは無理!」と拒否した知人も理由は分からなかったが、それはこの「禁葷食」の考えに由来していた。
台湾版のネット辞書にも、一貫道では五戒と五葷の摂取が禁じられているという説明がある。

有五戒:殺、盜、淫、妄、酒。 不得食用五葷(大蒜、蔥、薤(藠頭、小蒜)、韭菜、興渠(中藥稱「阿魏」、菸草),合稱五葷或五辛。)

一貫道

 

帰国後に話を聞いたら、日本旅行は快適で最高に楽しかったと言う。
移動、食事、観光で困ったことは特にない。
あえて挙げるとしたら、やっぱりあの食事で「せっかくお店に連れて行ってもらったのに、豆腐を食べることができずに申し訳ないと思いました」と言われて、また心の傷をえぐられた。あの時、ネギの無い部分だけを食べようかと考えてけど、それも不安だったから、「どうぞどうぞ」となったらしい。

ヴェジタリアンといっても千差万別だ。
まさか、野菜もダメなヴェジタリアンがいるとは。
でもインド人と今回の台湾人で経験を積んだから、「ヴェジタリアンのおもてなし」でもう死角はない。

 

 

台湾 「目次」 ①

台湾 「目次」 ②

【ありがとう日本!】統治時代からつづく、台湾の良い関係

日本統治をどう思う?台湾人が驚いた、韓国人の常識・対日観

日本を旅行した台湾人の話①違い・驚き・好き/嫌いなこと

台湾人がアニメを見て感じた「日本と台湾の学校との違い」とは?

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。