2022年の夏、オレたちのガストがウナギで勝負に出た。
「土用の丑の日」は中国にもあるが、この日にウナギを食べて、夏の暑さに負けないエネルギーを手に入れるのは日本だけの食文化。
「夏こそウナギ!」の食習慣は江戸時代に生まれたもので、平賀源内説が仕掛け人と言われている。
同じかば焼きでも関東と関西では調理法が違っていて、関東では一般的にウナギを蒸すけど、関西では直火焼きにする。
「開き方」にも東西で違いがアリ。
関東はウナギの背中を切る「背開き」で、関西は「腹開き」だ。
江戸時代のサムライにとって、うなぎの腹を開くのは「切腹」を連想させて縁起が悪いということで、背開きになったとか。
2019年に日本でラグビーW杯が開催された時、ラグビー大好きのイギリス人が日本へやってきた。
初めて日本の地を踏んで浜松にも足を伸ばした彼が、「ここで有名な食べ物を食べたいんだが?」と言うから、げんこつハンバーグや遠州焼きもウマイのだけど、この時は餃子とウナギをチョイス。
それで市内屈指のウナギ料理の人気店へ連れて行く。
席に座ってメニューを見た彼はまず、3千~7千円ほどの値段設定を見て「マジかよ!」とビックリ。
客を連れて行くと、店からコミッションをもらえるインドのボッタクリ店ではなくて、浜松でこれはノーマルだ。
浜名湖産のウナギならこれぐらいはするし、日本でウナギ料理にはお高いイメージがあると話すと、「それはイギリスの反対だね」と彼が言う。
関西と関東で違うウナギ料理は、東洋と西洋ではもっとさらに違う。
彼の出身地ロンドンにある「ウナギのゼリー寄せ」は、日本人のウナギ料理の概念をくつがえす破壊力がある。
酢・水・レモン汁でウナギを煮込んだ後に冷やすと、溶け出したゼラチン質が自然と固まってゼリー状になって、「おあがりよ!」となる。
百聞は一見に如かず、刮目せよ。
日本では「ゲテモノ」に分類される予感。
歴史を見てみると、むかしはヨーロッパウナギがテムズ川によくいて、ロンドン市民にとっては安くて栄養価が高く、手軽に食べられる食材だった。
Eels were historically a cheap, nutritious and readily available food source for the people of London; European eels were once so common in the Thames
そんなことから、ウナギはロンドンの貧困層の主食(a staple for London’s poor)だったという。
彼もウナギには「労働者階級の食べ物」というイメージを持っていて、「ウナギのゼリー寄せ」は知ってるけど食べたことはない。
だから彼は日本で生まれて初めてウナギを食べたことになる。
ご飯もタレも肉も想像を超えるオイシサで、心が震えるレベルだったから、「これで4千円はむしろ安い!」と絶賛する。
浜松が”聖地”と呼ばれるワケが、おわかりいただけただろうか。
だからといって(こそ)、ロンドンでウナギを食べようとは思わないらしい。
今日はウナギを食べる方も多いかと思いますが、ここでイギリスとフランスにおけるウナギの調理方法の違いについておさらいしてみましょう。 pic.twitter.com/FTf63mJRXS
— 未来に生きてるErroR(えらー)さん (@errorero) July 29, 2014
この人は物理学者の中谷 宇吉郎(なかや うきちろう)さん。
中谷 宇吉郎(1900年 – 1962年)
世界で初となる人工雪の製作に成功したことで知られる。
1928年にイギリスへ留学した中谷は、日本でウナギといえば「まず第一等の御馳走」なのに、欧米では「最下等の食物とされている」という事実に驚く。
イギリスやフランスでウナギは「最下級の貧乏人の食うものになっている」と、日本とは世界が逆転している。
ウナギ以下のものといえばタコぐらいで、「これは悪魔の魚デビル・フィッシュといって、犬も食わないものになっている」という状態。
あるときイギリスで料理自慢の女性から、日本で一番の御馳走を聞かれた中谷は、それはウナギだ答えると、「こちらにもあれは、場末の市場へ行けば、あることはあるが、よほど貧乏人でないと食べないのですよ」と驚かれる。
後日、あなたのためにウナギ料理を作ったと女性が言うから、中谷は歓喜雀躍したのだけど、目の前に置かれたブッタイを見て困惑する。
透明なコンソメスープに、輪切りにしたウナギの肉片がいくつか浮いているのを見て、中谷はウンザリしてしまう。
でも、せっかく自分のために作ってくれたものだから、彼は思い切って清水の舞台から飛び降りたという。
*到頭は「とうとう」。
こうなってはどうにもならないので、我慢して到頭食ってしまった。あんなまずいものは、一寸無い。嘘だと思ったら、一度ためしてみれば、すぐわかる。
これで中谷は、ここでウナギが敬遠されている理由が分かった。
イギリスのウナギ料理はシンプルに激マズなのだ。
いまの「ウナギのゼリー寄せ」は知らないけど、あのビジュアルには食指が動きそうにない。
イギリスのレストランが夏に、ウナギで勝負に出ることもきっとない。
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