【感動が虐待へ】日米でかなり違う、“子どもの外出”への見方

 

ことし3月、ネットフリックスで『Old Enough!』という番組が配信されると、アメリカの主要メディアが取り上げて大きな話題となる。
「十分な年齢」というこの番組は、これまで働きつづけてきた初老の男性がやっと定年を迎え、これからステキな年金生活を送る…というものじゃない。
『Old Enough!』とは、日本の人気テレビ番組『はじめてのおつかい』の海外版のタイトルだ。
「もうできるモン!」といったニュアンス。

親から買い物を頼まれた小さな子どもが、そのミッションを達成するまでの様子を伝えるこの番組は、アメリカでも基本的に視聴者の受けはとても良くて、「It’s the cutest thing I’ve ever seen(最高にかわいい!)」といった好意的な声がSNSで上がっている。
でも、反応はそれだけじゃない。
保育園児や幼稚園児だけで買い物なんて行かせられない。日本でそれが普通ならすばらしいことだけど、アメリカでは何が起こるか想像もできない、といった懸念の声も上がって社会的に大きな議論(big debate)を巻き起こす。

米フォックスニュース(May 3, 2022)

Some, however, have said they can’t see themselves allowing nursery school-age children or kindergartners to take on such challenging tasks alone.

“Is this common in Japan?” said one person. “If so, that’s wonderful that children are safe enough to do this! In the U.S., I couldn’t even imagine what would happen to a child going off on their own like that.”

Should toddlers really run errands on their own? Netflix show sparks big debate

 

 

日本に住んでいたこともあって、日米の事情がわかるアメリカ人(20代・女性)とこのまえ話をしたんで、そのとき彼女に「Old Enough!」について意見を聞いてみた。
*これは一国民の意見であって、合衆国政府の公式見解ではない。

 

・違法のニオイ

まずこんな番組を制作し放送できる国は地球上で、日本を含む限られたスーパー安全な国だけ。アメリカではまず無理。
というのは、「1人でお使いできるかな?」とかお花畑みたいなコトを言うまえに、アメリカでは子どもに留守番をさせると児童虐待とみなされて、州によっては親が警察に捕まってしまうから。
*調べてみると、イリノイ州では14歳未満、オレゴン州では10歳未満、メリーランド州では8歳未満の子どもを家に1人にさせることは違法。

留守番すら法的に禁止されている国で、1人で買い物に行かせることなんて想像できない。
もし幼稚園児が外を歩いていたら、グループでいたとしても、それを見た大人はきっと警察に連絡するし、13歳ぐらいでも危険を感じて警察を呼ぶ可能性がある。

ちなみにアメリカは車内に子どもを残すことに超厳しい。
例えばワシントン州ではスーパーや高速道路にある店の駐車場に、大人が16歳未満の子どもを残すことが禁止されている。
日本なら中学生を車に置いて、親がコンビニに寄ることは常識の範囲内にあるけど、ワシントンでこれは違法行為で、再犯した場合は運転免許証を取り消される可能性もある。

 

・道が悪すぎ問題

アメリカは広大な国で、ニューヨーク市と田舎ではまったく環境が違うけど、日本に比べて道は悪いし歩道は少ないし、基本的に歩きにくい。
アメリカの道は車を中心に考えてつくられているから、自分も歩きたくはない。
運転の荒い人もよくいるし、子どもが歩くと交通事故にあいそう。

 

・誘拐

もちろん誘拐の危険性もある。
でも、アメリカ人は現実以上に怖がっていると思う。
1980年代に誘拐されたり、行方不明になった子どもの顔写真を牛乳パックに貼って、解決につながる情報を求めるキャンペーンが全国的に展開された。(Missing-children milk carton
冷蔵庫から牛乳を取り出すたびに、行方不明の子どもの顔を見ることになるから、誘拐の恐怖が誇張されたと思う。

*朝食のテーブルでそれを見て、「自分も誘拐されるかも!」と子どもたちが震えたという。
それと、そういうキャンペーンの対象となる子どもには白人が多かったから、人種差別の批判が上がったところもまさにアメリカ。

実際に誘拐されて殺害された子どももいたから、親は自分の子を外に出させないようになったと思う。
ただ身代金やいたずら目的の誘拐よりも、離婚して親権のない親が自分の子を連れ去るケースが多かった。
「Missing-children milk carton」の影響は大きかったから、子どもを外に出すのは危険というイメージが広く米社会に定着する。
日本の小学校では児童がふつうに集団登校をしてたけど、アメリカなら誘拐や事故の危険性を考えてスクールバスを利用したり、親が車で送り迎えをする。
高校生になったら、自分で車を運転して登校する。

 

・「ご近所」の違い

日本は、国民のほとんどが日本人という同一性の高い国だから、人びとの価値観や考え方が似ているから、お互いに信頼できる社会だと思う。
小学生の登校時、信号機のところに安全を見守る大人がいて、あれはすごくいいシステムだと思った。
近所の大人が子どもを見守る雰囲気があるから、『はじめてのおつかい』も成立する。
アメリカ社会はまったく違う。
白人・黒人・ヒスパニック系、キリスト教・イスラム教・無宗教といろんな種類の人で構成されているから、価値観は人それぞれで本当にバラバラ。
子どもの安全は親の責任で守らないといけない。
ご近所の人間でも、他人を簡単に信用することはできないから、子どもだけで外出させるという発想はなかなか出てこない。

 

・感動より非難

子どもに「はじめてのおつかい」をチャレンジさせた親には、日本なら共感や支持が集まるかもしれないけど、アメリカだったら「育児放棄している!」、「無責任だ!」と非難が集中することは避けられないし、親は警察に捕まるかも。
子どもを1人で外へ出させたことが分かったら、警察や当局が親の育児能力や、子どもの人権が守られているかを確認して、必要なら子どもを親から引き離す。
そんなことでアメリカだったら、親も制作した側も世間の十字砲火をくらうから、こんな番組は作るのはできない。
でも、放送することなら可能だ。
だからこそ、こういうファンタジーみたいなリアリティー番組は、アメリカ人にはすごく新鮮に感じる。

アメリカ人は割と視野がせまいから、自分の経験や価値観だけで判断して、日本の治安をアメリカレベルとカン違いする人もいる。
だからあの番組を見て怒る人がいたとしても、事情を知って問題ないと分かればきっと日本を見直す。

 

そんな話をしてくれた彼女はポーランド出身なんで、そちらの事情も聞いてみた。

自分のいた首都ワルシャワは大都市で学校は家の近くにあるから、小学生なら親が送り迎えすることもあれば、高学年だと自分で歩いて登下校することもあった。
日本のように集団で学校へ行くこともある。
アメリカに比べれば街は歩きやすいけど、日本には負ける。
中学生の女の子が友だちと公園で遊んでいる光景は、ポーランドでは何度か見たけどアメリカではその記憶がない。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。