【移民問題】日本人の“スウェーデン絶賛”に、外国人が違和感

 

IKEAとミートボールの国スウェーデンで先日、選挙がおこなわれた。
その結果、反移民を掲げる極右政党が議席を伸ばして、マグダレナ・アンデションは辞任を表明した。

AFPの記事(2022年9月15日)

スウェーデン首相が辞意 総選挙で右派・極右勝利

スウェーデンは移民や難民を積極的に受け入れてきたことで、世界的にとても高い評価を得ている。
でも今回の選挙で、それを主張した与党から国民の心は離れていき、その反対側にある極右政党に支持が集まったことが判明した。
なぜなのか?

10年ほどまえ、日本の学校で英語を教えていたカナダ人女性から、「スウェーデンの移民政策はこのままだとマズい気がする」という不安そうな声を聞いた。
彼女がスウェーデンの大学に留学していたとき、至れり尽くせりの政府の手あつい移民政策に驚いた。
外国人の自分の授業代はすべて政府が出してくれたという太っ腹。
数年間の生活で、なんだかんだで500万円以上の支援を受けたから、自分としてはすごく助かったし政府には感謝しているのだけれど、こんな不安もあるという。

「温泉じゃないんだから、お金は自然に湧き出てくることはない。スウェーデン人に話を聞くと、外国人支援に多額の税金が使われることには、やっぱり不満をもってる人がたくさんいる。でもそれがスウェーデンの理念であり、いいところだと思う人も多いから、国民は葛藤している。」

スウェーデンの移民受け入れは、「直線」で進んできたわけじゃない。
60年代にほぼ無条件で大量に受け入れると、移民労働者に仕事を奪われるといった危機感が国民の間に広がって、70年代になると移民の流入に制限がかけられた。
こんな感じにアクセルとブレーキを踏みながら、これまでスウェーデンはやってきた。

 

それに善意を悪用する外国人もいる。
まず子どもをスウェーデン国内に送り込ませて、その子にスウェーデンの市民権をゲットさせる。そしてその後、(ホンモノかしらんけど)親が登場して、親権を理由にスウェーデンで生活しようとする。
家族と暮らす権利を利用したこんな偽装難民が、スウェーデンで大きな問題になった。
最近では「難民疲れ」を超えて、世界最高レベルの寛容が犯罪の急増を招く原因になったことに怒りを覚える人も多い。

ニューズウィークの記事(2021年11月24日)

この国では過去20年で銃による殺傷事件の発生率がヨーロッパ最低レベルから最高レベルに増え、今ではイタリアや東ヨーロッパ諸国より高くなっている。
北アフリカからの移民2世が中心メンバーのギャング団が密輸などで手広く稼ぐようにもなった。

多数の難民を受け入れたスウェーデンが思い知った「寛容さの限界」

 

この記事には、「長期服役者の53%、失業者の58%が外国生まれで、国家の福祉予算の65%を受給しているのも外国生まれの人々」というデータが載っている。
「寛容さの限界」を思い知ったスウェーデンでは、外国人を歓迎する声は小さくなっているという。
今回の選挙結果はその事実を裏付けた。

 

話をカナダ人女性に戻そう。
彼女が日本にいたとき、「日本は排外的でとても遅れている。先進国のスウェーデンに学んで、日本ももっと移民や難民を受け入れないといけない」と褒めたたえる人をよく見た。
でもそういう日本人はそれがもたらす負の面も、そもそもスウェーデン人の気持ちもあまり知らない。
「世界で最も寛容な国」というキャッチコピーに誇りを感じる人もいるけれど、彼女の肌感覚では、それを負担に思う人が増えている。
それにそんなイメージが確立されると外国人を呼び寄せる原因になるから、その評判を嫌がる人もいる。
彼女が日本の移民政策を調べてみると、その人物がどんな人間かを確認する「バックグラウンドチェック」がすごく厳しいことが分かって感心した。

家族ならいいけど、他人に対する愛や優しさは無限大ではない。
忍耐を超えた寛容は、スウェーデンの寛容さを滅ぼすかもしれないと考えるそのカナダ人は、スウェーデンこそもっと「バックグラウンドチェック」を厳しくして、受け入れ人数をしぼって一人当たりにかける時間とお金をもっと増やすべきだと思っていた。

「スウェーデン首相が辞意 総選挙で右派・極右勝利」のニュースを彼女が聞いても、「知ってた速報」とつぶやくだけだろう。
ただ今回はブレーキがかけられただけで、外国人を受け入れるという方向性は基本的には支持されていると思う。
あこがれや理想だけではなくて、もっと広い視野で日本はスウェーデンを見たほうがいい。

 

 

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1 個のコメント

  • <<<「日本は排外的でとても遅れている。先進国のスウェーデンに学んで、日本ももっと移民や難民を受け入れないといけない」と褒めたたえる人

    三浦 淳(新潟大学人文学部)
    「二流知識人の特徴は、言葉と行動が一致していないことだ。
     例えばサロン・コミュニストのように口では共産主義を讃美しながら決して共産主義国では暮らさず、自分の生活も改めようとはしない。」

    反捕鯨の病理学 (第1回)

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。