「三千里の美しい山河が地獄となって」
「わが民族を分裂させた日帝」
「貧しさは日帝がもたらした唯一の産物」
韓国の中学生用の歴史教科書では日本の朝鮮統治をこう表現し、当時の民衆の苦しみについてこんな説明をしている。
何も持つもののない、だから自分の身体を売って生計を維持するしかない人々が故郷を離れなければならなかった。
彼らが行く所は多くはなかった。日帝の経済侵略によって工業発展が遅れ、どこでも働き口を探せなかったからである。「躍動する韓国の歴史 (明石書店)」
でも同時に、そんな“圧政”に抵抗する力強い人々を描くから、「あれ?」と思うような記述もある。
例えば、日本企業の工場で働いていた朝鮮人労働者が「飢え死にしても屈することはない」と『餓死同盟』を形成し、労働条件の改善を訴える運動をはじめると、事業主側は「賃金引上げ、ボーナス支給を約束した」という。
結局は事業主側が折れて、給料の増額に応じたのを見ると「言うほど地獄か?」という気がするのだけど。
こんなことなら現在の韓国の工場でもよくあるだろう。
日帝(大日本帝国)の経済侵略によって、働き口がどこでもないほど、工業発展が遅れてしまったという見方はもはや韓国の常識だ。
だから、世界最高峰にある米ハーバード大学で使われている教材で、韓国の歴史認識と真逆の内容があると分かり、韓国メディアが「わい曲されている」と報じる騒ぎになった。
Record Koreaの記事(2022年9月13日)
「日本のおかげで韓国は発展」と教える米名門大を韓国メディアが批判=韓国ネット「間違いではない」
統治時代についてハーバード大で使われている教材に、「日本は1910年に韓国を武力で合併した」との記述があって韓国メディアのJTBCが問題視する。
(“武力”って具体的に何のこと?)
「植民地」ではなく併合や統合という言葉を使っているのは、「日本政府の立場に近い」からいけないと。
さらに、慰安婦・徴用工問題について何も書いてないと不満そうだ。
なかでもこの記述は認められない。
「韓国はその期間に産業化し、交通や電力インフラも改善し、教育、行政、金融システムも現代化した」
韓国の視点でこれは、「日本の支配のおかげで韓国が発展したという植民地近代化論に偏った内容」だから看過できない。
だからこの記事には韓国のネットユーザーから、「日本から一体いくらもらったのか」「それなら『米国が覇権国家になれたのは日本の真珠湾攻撃のおかげ』と教えるべきだ」といった怒りの声が続出中だ。
これは経済侵略によって工業発展が遅れたという、韓国の歴史観を全否定するような内容だから、こうした反発は、蚊に刺されたら痒くなるというレベルの当然もの。
でも、こんな指摘が複数あったというのは想定外。
「日本のおかげで発展したのは事実」
「韓国にとっては不都合な事実だけど間違いではない」
「ハーバード大学を批判できない。韓国にも『日本統治下で韓国は発展した』と堂々と主張する人がたくさんいるから」
あの統治について、日本と韓国で見方や評価が分かれるのはアタリマエで、完全一致するのは1910年から45年までという期間ぐらいでは?
戦後、国交を回復するために行われた日韓の話し合いでも、このことについてモメにもめた。
1953年10月の会談で韓国側が、日本の支配下での愛国者の虐殺、韓国人の基本的人権の剥奪、食料の強制供出、労働力の搾取などへの賠償を請求する権利を持っていると述べると、日本側の保田貫一郎はこう言い返す。
植林し、鉄道を敷設し、水田を増やし、韓国人に多くの利益を与えたし、日本が進出しなければロシアか中国に占領されていただろうと反論し、また米国による日本人資産の接収は国際法に違反していないと考えるし、違反してたとしても米国への請求権は放棄したと回答した。
このいわゆる「久保田発言」に対し、「植民地支配は韓国に害だけを与えた」と考えていた韓国側は妄言と激怒し、日韓会談は中断した。
いまの慰安婦・徴用工問題を見ても、日韓では歴史認識の相違はよくある。
でもハーバード大学で「日本のおかげで韓国は発展した」と教えているというのは意外で、それに共感する韓国人も一定数いるということには驚いた。
どんな理由や過程であれ韓国からすれば、日本に併合されて国が亡くなったのだから、屈辱的で、精神的な苦痛を受けたというのは理解できる。
でも、「害だけを与えた」「貧しさは日帝がもたらした唯一の産物」というのは行き過ぎ。
そんな歴史観から距離を置いて、悪いもの悪い・良いものは良いと冷静に判断できる人たちが増えているのなら、それは未来を明るくさせる。
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