【ザ・多様性】日本人はまだインドの“深さ”を知らない 

 

インド人の知り合いはわりと多いから、あるとき、日本人からよくされる質問を聞いてみた。
すると、

「インド人は毎日カレーを食べてますか?」(そんなワケない)
「いまでもカーストの差別はありますか?」(場所や人による)

ということのほかに、「あなたはタージマハルへ行ったことはありますか?」という質問をよく聞かれるという。
カレー・カースト・仏教は超有名で、インドに対する日本人のイメージもこの「CCB」に集約されると思う。
「世界一美しい墓」といわれるタージマハルも、日本では知っててアタリマエの常識になっているから、「あなたはタージマハルへ~」という質問が出てくるはずだ。
それでインド人が「いいえ、行ったことはありません」と答えると、「え?」と意外そうな顔をして、「なんでです?」と質問を重ねる日本人もけっこういるらしい。

タージマハルがインドを代表する建築物だからといって、それを見に行くことはインド国民の義務じゃない。あれはインドの誇りだから、死ぬまでに一度は見てみたいという人がいれば、1ミリも関心のない人もいたし、なかには憎悪する人もいた。
いろんな民族・宗教がごちゃ混ぜになっているインドの多様性を考えれば、インド人にとってはタージマハルは、日本人にとっての伊勢神宮や清水寺とはまったく違うのだ。

 

マータ・ハジマータ(Mata Hajmatal)
こんな aaが作られるほど、この建築物は日本で知られている。

 

個人的にいままでインド人に聞いた答えをまとめると、7割の人がタージマハルを好き、2~3割は特に関心ない、1割未満の人がキライ。
例外的な「大嫌い」という人にその理由を聞くと、彼はヒンドゥー教徒でタージマハルはイスラム教の建築物だから。

17世紀にムガル帝国の皇帝シャー・ジャハーンが、亡くなった妻のために建てたお墓がタージマハルだ。
ムガル帝国はイスラム系の王朝で、白い外壁にはアラビア文字でクルアーン(コーラン)の言葉が刻まれているから、タージマハルはイスラム建築といえる。
ただ、ヒンドゥー教の影響もあるから、ウィキベテアには「インド・イスラム文化の代表的な建築物」と紹介されている。

ヒンドゥー教とイスラム教の違いが殺人事件に発展することもあるほど、宗教深刻な対立のあるインドでは、タージマハルを憎悪するヒンドゥー至上主義者もいる。
5年前には、現地のウッタルプラデシュ州が作った観光ガイドブックから、タージマハルが削除されて物議をかもす。

産経新聞の記事(2017/10/19)

タージマハルが観光ガイドから消えた! イスラム系王朝の建造物なのでヒンズー至上主義勢力が反発か

ここでは「か」と疑問形になっているが、これは断定していい。
ヒンズー至上主義勢力の反発が原因であることは、13億のインド人が同意するはずで、むしろそれ以外の理由がない。
もとはヒンドゥー教の僧侶だったインド人民党(BJP)のヨギ州首相は、かつて「(侵略者が建てた)タージマハルはインド文化を代表するものではない」と発言した。
同じくBJPのサンギート・ソン議員は「シャー・ジャハーンはヒンズー教徒を抹殺したいと思っていた」と述べて、タージマハルを「インド文化の汚点だ」とこき下ろす。
インドを「ヒンドゥー教の国」と考えている人の中には、イスラム建築をインドのシンボルとは絶対に認められない人もいる。

 

 

南部出身のインド人の場合、これまで10人ぐらいに聞いたなかでは、タージマハルを見た人は1人もいなかった。
これは予想外。
その理由はみんな同じで、好き/嫌いは関係なく、単純にとても遠いから。
日本の約9倍の面積のあるインドはとにかくデカい。
南部のタミルナドゥ州からタージマハルのあるアグラまで、いまネットで見たら 2,234kmもある。
青森から鹿児島までが 1,899kmだから、もしタミルナドゥの人(タミル人)がタージマハルを見に行くとしたら、鉄道やバスは苦行だから、ふつうは飛行機を使う。
で、どうせ飛行機で行くなら、言葉や文化が違う北インドよりも、同じタミル人がたくさん住んでいるシンガポールやマレーシアに行きたいという人が多くて驚いた。

首都デリーとシンガポールに行ったことのあるタミル人の話では、彼はヒンドィー語がわからなかったから、タミル語が通じて同じ食べ物のあるシンガポールに親しみを感じた。
こういうインド人からすると、お金と時間をかけてわざわざタージマハルへ行く理由はなくなる。
*言葉がわからない場合、インド人は英語での会話を試みる。
どちらかが英語もわからなかったら、同じ国民同士でも話をすることはできない。

ということで、宗教対立や距離、旅行先の魅力や優先度といった理由から、タージマハルを見たことないインド人はふつうにいる。

日本では伊勢神宮や清水寺への見方はだいたい同じで、「日本を代表する建築物」といってもきっと異論は出てこない。
でも、多様性がはん濫しているインドでは、タージマハルに対する見方は宗教や地域などによって、インドの誇り・文化の汚点・どーでもいいといろいろある。
「タージマハルに行ったことがないの?なんで?」と聞く日本人はそんな事情を知らない。
カレー・カースト・仏教のCCBはインドの入り口で、その先は底なしに深くて、ハマったら出られなくなる。

 

首都デリーの旧市街

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。