韓国系オーストラリア人、日本人のステレオタイプに疲れる

 

世界中の客を乗せた豪華客船が航行中、事故を起こして沈み始めた。
船長はためらっている乗客へ、海へ飛び込むよう指示を出す。
その際、国際感覚のある船長はそれぞれの客にこう言った。

アメリカ人には「飛び込めばあなたはヒーローになれますよ」
ロシア人には「海にウォッカのビンが浮かんでいますよ」
イギリス人には「こういう時に海に飛び込むのが紳士です」
ドイツ人には「海に飛び込んでください。それが規則です」
イタリア人には「海には美女がいますよ」
フランス人には「飛び込まないでください」
中国人には「おいしい魚が泳いでますよ」

そして船長は日本人にどう言ったか?

 

「もうみんな飛び込んでいますよ」

これはネットでたまに見る国民性ジョークで、ネタのようなものだ。
でも、自由や権利を大事にする個人主義のアメリカ人に「みんながやってますよ」は通じにくいし、「和を以て貴しとなす」の日本人に、ヒーローになって目立つことはアピールにならないと思う。
世界の国にはそれぞれ歴史や伝統があるから、その文化圏の外側にいる人間から見ると「〇〇国の人は✕✕だ」といったイメージがよくできる。
そんな先入観、思い込み、固定観念、偏見をステレオタイプという。
これ自体は悪いことじゃないが差別につながりやすいから、内容と言う相手は選んだほうがいい。
「キャラ」が立っているとも言えるから、何のイメージもわかないというのは個性がない、空気も同然ということだからそれはそれでツライ。

海外へ行くと、外国人の持つ日本人のステレオタイプとよく出会う。
タイの安宿にチェックインした時、

「日本人は大歓迎だ。礼儀正しいしマナーがいい。部屋をキレイに使うし、ヨーロッパ人みたいに夜中に騒ぐことがない」

と言って笑顔を見せたスタッフもいた。
外国人が日本へくれば立場は逆転して、日本人のステレオタイプと接することになる。
それがポジティブなものならいいとして、悪意はないとしても、現実と違う勝手なイメージを強く持っている日本人にウンザリする外国人はたまにいる。

まえに韓国系オーストラリ人からこんな話を聞いた。というかグチを聞かされた。
韓国で韓国人の両親のもとに生まれた彼は小学生の時にオーストラリアへ移住して、その後、現地の小中高校に通って大学を卒業し、英語を教えるために日本へやってきた。
外国人が経営している英会話スクールの面接を受けて、合格して働き始めるまでは問題なし。
レッスンで初めての日本人生徒に自己紹介をすると、黒い目と髪をしたアジア人で、自分と変わらない見た目をしている彼にみんな戸惑う。
子どもより大人が特にそうだったというのは、それだけ強いステレオタイプが出来上がっているということだ。
オーストラリア国籍を持っていて完璧な英語を話すのに、日本人は外見で判断するから、彼がオーストラリア人と聞いてもなかなかそう認識できない。
でも、それは仕方ないと彼は思った。
韓国で日本系オーストリア人が英語を教えることになったら、生徒はきっと同じ反応をするだろうから。
ほかの外国人と違って彼の場合、アジア人のオーストラリア人もいるという現実を生徒に理解させてから、授業を始める必要があったから、新しい生徒がくるたびにそんな長い自己紹介をしないといけなかった。
「英語のネイティブ=白人や黒人」といった日本人の間違った先入観を壊さないと、英会話スクールの評判や自分の評価にもかかわってくるから、これは絶対にしないといけない作業だ。

面倒くさくても、仕事ならお金をもらっているから割り切れる。
問題はプライベートで会う日本人だ。
初対面の人に「わたしはオーストラリア人で、名前はキムといいます」とあいさつをすると、「え? なんて?」と必ず聞き返されるから、自分は韓国で生まれて小学生の時にオーストラリアへ引っ越して、そこで育って国籍も取得してそれから~、と話したにもかかわらず、「あなたは韓国人ですよね?」と自分を韓国系オーストラリア人と認識しない日本人もいる。
自己紹介をするといつも日本人のステレオタイプとぶつかる。
向こうに悪意や敵意はないから、こっちもそれなりに丁寧に「オーストラリア人=白人」の固定観念を破壊するとなると、相応の時間とエネルギーを消費するからそれを何度も繰り返すと疲れてくる。
自分と同じ見た目の人間が英語ネイティブと思えない人もいて、自分はオーストラリア人でいま英語を教えていると話すと、「あなたは英語を話せるの?」と聞かれた時は閉口したという。
そんなことで自己紹介をするたびに、いちいち自分史を語らないといけないから彼はうんざりして、初対面の日本人と会いたくなかった時期もあった。

 

オーストラリアを知っている日本人なら、ラクにスムーズに会話へ入っていけるけど、そんなケースは本当にマレ。
そして困ったことに、日本人の先入観や固定観念は相当強い。
以前会った時に説明しても、次に会った時には忘れてしまっている日本人も多い。
「ああ韓国人のキムさんでしたね」とオーストラリアの要素が抜け落ちていたり、「えっと、どこの国でしたっけ?」と聞かれたりすることも多々あった。
するとまた「韓国系オーストラリア人」を認識してもらうために、自分史を話してステレオタイプを崩さないといけないから、そんなことが何度もあるとストレスもたまる。
でもこれは日本人だけじゃない。
浜松市によくいるブラジル人にも、「君はオーストラリア人なの? そう見えない」と言われるとウンザリする。

 

日本でそんな数年を過ごした後、彼はオーストラリアへ戻った。
白人も黒人もアジア人もフツウに街を歩いているオーストラリアでは、外国人を外見で判断することが不可能。
オーストラリア人を海へ飛び込ませるには、ヒーローになれます、お酒(魚)があります、それが紳士(規則)ですと、それぞれにあった言い方をしないといけない。
でも、「もうみんな飛び込んでいますよ」は「だから何?」と言い返されて通じない。

ここでは簡単な自己紹介をすれば自然に会話へ入っていけるし、次に会った時は友人として接してくれる。
日本みたいにまずオーストラリアのイメージを崩して、少し時間があいてそれがリセットされていたら、また壊す必要がないからすごくラク。
オーストラリアに帰ってから改めて考えてみると、自分が日本を出たくなった理由には各種ステレオタイプとの戦いがあった。
解放感を感じればそれほど、フラストレーションの大きさに気づく彼だった。
といってもトータルでみれば日本での生活は楽しかったし、いまは日本食がすごく恋しいらしい。

 

以下、余談

フランスの大学に留学していた日本人からこんな話を聞いた。
フランス語が分からないドイツ人とレストランへ行ったら、ウェイターは最初はドイツ人に向かってフランス語を話して、通じないと分かると英語にスイッチする。
日本人は始めから彼の眼中にない。
それで自分がフランス語で「今日のおすすめは何ですか?」と聞くと、置き物がしゃべったようにウェイターがビックリする。
見た目で判断されることは世界ではよくある。
ただ日本はそれが激しいだけだ。

 

 

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ABOUTこの記事をかいた人

今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。