ヒトラーが好き? ドイツ人が経験した“最大級の衝撃”

 

日本に住んでいるドイツ人(20代の男女)とご飯を食べに行ってきた。
その時、ドイツ人にとってはすごく衝撃的な出来事があったという話を聞いたから、今回はそれを紹介しようと思う。
でもまずは、そのショックの大きさが実感できるように、とても不幸な歴史を書かないといけない。

 

「ユダヤ人やスラブ人は劣等人種だ。そんな連中がいると、偉大で高潔なわれらアーリア人(ドイツ人)が汚れてしまう。だからヤツらは一人残らず、この世から滅殺しないといけない」

第二次世界大戦のころ、こんな人種差別を正義や当然と思うようなナチスから、「ウンターメンシュ」(劣等人種)として特に敵視されたのがユダヤ人。
それで、600万人といわれるユダヤ人の大量虐殺が行われた(ホロコースト)。
その責任者であるアドルフ・ヒトラーは、いまのドイツでは最大のタブーになっている。
ナチス政権の時代、ドイツ国民はヒトラーへの敬意を示すために肘(ひじ)をまっすぐ伸ばして、日本の学校で生徒がする挙手のような「ナチス式敬礼」をしていた。
「ハイル・ヒトラー(ヒトラー万歳)!」と言って国民がやっていたこのナチス式敬礼は、いまのドイツではヒトラーやナチスを支持する行為として法律で禁止されている。
だから友人のドイツ人は小学生だったころ、挙手をする時は肘を伸ばさずに90度に曲げたうえで、人差し指だけを上にしたという。
だから手をあげるのではなくて、指をあげる感じだ。

以前、ドイツ旅行をしていた中国人がこのタブーを知らずに、街中で写真撮影をする時、挙手をしてポーズをとったところ違法行為として警察に逮捕された。

日本人も’挙手’に注意!ナチス式敬礼で中国人観光客がドイツで逮捕

このすべての元凶がアドルフ・ヒトラーだ。

 

ナチスのプロパガンダ・ポスター「ウンターメンシュ(人間以下)」

 

ナチス式敬礼

 

話を冒頭のドイツ人に戻そう。
2人に日本で驚いたことを聞いていると、話がちょっとそれて女性のほうが、父親がエジプトへ行った時に体験した衝撃的な出来事を話しだす。

首都カイロを歩いていてお腹が減ったから、父親は食事をしようと近くにあった良さげなレストランに入った。
席に座るとウェイターが近づいてきて「やあ、こんにちは! どこから来たんだい?」とカジュアルに話しかけてくる。
「やあ。ドイツからだよ」と父親が答えるとウェイターは目を大きくして、喜色満面で「エジプトへようこそ! よく来てくれたね」と言った後、信じられない言葉を口にした。
「ボクはヒトラーが好きなんだ。彼はよくやったよ」と言うのを聞いて父親は硬直し、聞き間違いではないと分かると、ウェイターの笑顔が何かとてつもなく恐ろしいものに見えてきた。
動揺する父親にはおかまいなしで、ウェイターのエジプト人は持論を語り始める。

第二次世界大戦の後、エジプトはユダヤ人の国・イスラエルと戦争をして負けて、領土(シナイ半島)を奪われて国民はとても悔しい思いをした。
それにいまユダヤ人は同じイスラム教徒のパレスチナ人を迫害・虐殺しているから、それも自分たちには許せない。
そんなことで、ユダヤ人を殺したヒトラーを好意的に思うエジプト人は多くいて、自分もその一人だ。

「ちょっと何言ってるか分からない」というレベルを超えた、とんでもない話を聞かされてどんな反応をしていいか分からず、一刻も早くこの状況が終わってほしいと心から願う父。
一方的に好き勝手な話をしたウェイターは、メニューを聞いて去っていく。
話は聞こえたはずなのに店内の客は、内心ではどう思っているか知らないが、みんな普通に楽しく食事をしている。
ドイツだったら一瞬で空気が凍りついて、その場にいた人はみんな青ざめて、ウェイターは通報を受けて駆け付けた警察官に捕まっていたところだ。

 

人種差別主義者、破壊者、虐殺者…とヒトラーの関連ワードはいろいろあるけれど、どれもネガティブな言葉で、「好き」は絶対にない。あってはいけない。
ドイツ人からしたら、ヒトラーはその名を口にしたくもない悪魔なのに、それが英雄視されるというのは価値観が完全に逆転して、自分の知っている世界が崩壊している。
おいしいランチを食べようと思って食堂に入ったのに、そんな気分は吹っ飛んだ。
父親からそんな、人生で最大級の衝撃を受けたという話を聞いて娘も言葉を失った。
日本のレストランでその話を聞いたドイツ人も絶句したし、日本人のボクにもそれは考えられない。
ドイツにはいろんな考え方を持った人がいるとしても、海外で突然こんなことが起きたらきっと一生忘れられない。
これから日本で2人にどんな衝撃的なことが起きたとしても、これに比べたらすべて雑魚レベル。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。