オランダは独特の寛容の精神から、いろいろな民族や宗教の外国人を積極的に受け入れてきた。
その結果、首都アムステルダムは世界中の人たちが集まる国際都市になる。
それがオランダの強さや豊かさの理由にもなった。
同時に、オランダの寛容性を否定することは「ダメ!」という空気もあった。
それまでのオランダ文化の「寛容性」は、異文化・異人種の人々に対する差別的な発言や態度は教養のない者のすることだと見なすにとどまらず、タブーであるとすら考えられていた。そうした社会的雰囲気のある国、それがオランダであった。
「オランダを知るための60章」
でも、今のオランダはだいぶ違う。
オランダでは今、極右政党の自由党が国民の大きな支持を集めている。
自由党は、オランダの極右政党。
党首は下院議員のヘルト・ウィルダース。イスラム移民の排斥を掲げ、トルコの欧州連合加盟に反対し、国際自由同盟や自由のための欧州同盟を結成している。
(ウィキペディア)
ウィルダースをリーダーとするこの自由党は、本当に自由勝手(過激)なことを言う。
「イスラーム諸国からの移民受け入れ停止すべき」
「コーランの発禁処分にするべき」
「スカーフを被っている人物に課税をかける」
こんな感じに、イスラーム教徒を敵視するような政策を主張している。
そして今のオランダでは、以前と反対のことが起きている。
前は、国内の外国人に対して差別的な発言をすることは「教養のない者のすることだと見なすにとどまらず、タブーであるとすら考えられていた」という社会だった。
けど今は、自由党のようなイスラーム教を敵視するような考えが国民の人気を集めている。
しかも、ひょっとしたら今年3月に行われるオランダ総選挙で、自由党はオランダの第1党に躍り出るかもしれない。
自由党は現在、議会で第3党だが、直近の世論調査では、下院150議席のうち自由民主党が23~27議席にとどまるのに対し、自由党は29~33議席を取ると予想される。
(ニューズウィーク 2017/1/31号)
今のオランダでは、極右政党がここまでの勢いがある。
もちろんそれは国民が自由党の考えに共感していて、後押ししているから。
オランダでこんな極右政党が国民の人気を集めるようになったのは、2000年のあたりがターニングポイントだったという。
「オランダを知る60章」では、その象徴として2人のオランダ人が殺害された事件をあげている。
この殺人事件がオランダ社会に大きな衝撃を与えて、人々の考え方が変わっていったという。
それが2002年のピム・フォルタイン氏と2004年のテオ・ファン・ゴッホ氏の2人の殺害事件。
この二人の殺害によって、この国は四〇〇年かけて創り上げてきた「寛容性」というオランダ文化をのアイデンティティを大きく問われることになった。
人々は、この国が歴史的に培ってきた寛容性と民主性の文化はすでに幻想にすぎないのではないかと震撼とさせられ、パニックに陥った。
「オランダを知るための60章」
このころからオランダ人の考え方が右傾化していって、極右政党がさらに支持が集めることになる。
今回の記事では、この事件の犠牲者であるピル・フォルタインという人物について書いていきたい。
今のオランダで極右政党が人気を集めるようになったのは、このフォルタインの影響がとても大きいから。
フォルタインの主張は「反イスラーム教」であったため、オランダ人が当然と考えていた寛容の精神や多様性を尊重するという考え方に反していた。
そのため、オランダのメディアは彼を「極右」と呼んでいた。
フォルタインの多文化主義、移民、イスラム教への率直な見解は、オランダで多くの論争となった。彼はイスラム教を「遅れた文化(a backward culture)」だと公言し、法的に可能であれば、イスラム系移民の流入を停止すべきだとした。
メディアらはフォルタインを極右ポピュリストとして扱かったが、彼自身はこのレッテルを強く拒絶していた。
(ウィキペディア)
フォルタインはオランダのメディアから嫌われていたけど、オランダ国民の人気は高かった。
その理由はなにか?
それは、彼がオランダ人の「隠れた本音をつかんだから」だという。
彼は何故かくも急激にカリスマ性を獲得し得たのか。
急激な移民の流入によって、激しく変化するオランダ社会を背景に、彼は寛容性というオランダ文化を踏まえながら、自身のカリスマ性によって、オランダ人の寛容性の奥深くにある本音の部分を引き出すことに成功したのである。
「オランダを知るための60章」
本音の反対は建前。
この場合のオランダ人の建前とは、外国人の移民に対する差別的な発言や態度は「教養のない者のすることだ」と考えることやそれをタブー視すること。
さらには、「オランダ人は寛容の精神を大切にする。そして、多様性を認める社会がオランダの自慢」といったことだったろう。
「この奥深くにある本音」とは、つまりこれらとは反対のもので、移民への不満や不安。
具体的にはこんなもの。
「移民がたくさんの税金を使っている」
「外国人移民のせいで治安がわるくなった」
「もう移民はいらない」
そんな排他性や排外主義のことだろう。
さらには外国人移民への敵意や憎悪。
多くのオランダ国民には、寛容という建前とその奥深くに潜む本音があった。
外国人移民への不満や不安があっても、それを解消してくれる政党がない。
だから、イスラム系移民の拒絶するようなフォルタインにそれを託(たく)すようになったのだろう。
こんな見方もできると思う。
オランダにには、お互いの違いを認める寛容の精神が強くあった。
でもそれがいき過ぎてしまって、結果的に外国人移民への国民の不満や不安を生んで憎悪や敵意につながっていった。
そして排外主義を主張するの極右政党が多くの国民の共感を呼んだ。
寛容の精神や多様性を認めることは大切なこと。
だけど、そのために生じる問題を解決していくことも同じぐらい大事。
国の政治家やリーダーたちが国民に対して、忍耐の限界を超えるような寛容さを要求したら、結果として社会の多様性を滅ぼしてしまう。
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