20年ほど前、インドを旅行していて「なるほど、これがウワサに聞いた地獄か」と思ったのが列車の三等席。
日本の「最大積載量 つめるだけ」のトラック・ジョークが現実になった状況で、座席や通路、荷物を置くスペースまで、人々がギッシリと詰め込まれていた。
一番大変だったのは目的駅に着いたとき。
大きな荷物を背負って、すし詰め状態の人々をかき分けて列車の外に出るだけで、1000calは消費した気がする。
こんな「ヘル体験」があったから、個人的にインドの鉄道には、暑い・汚い・くさい・キツイ、けど面白い、といったイメージを持っていた。
でも最近、知り合いのインド人がSNSにアップした写真を見てたまげた。
「魂消た」と書くように、一瞬、魂が口から出るかと思った。
インドの最新鋭の高速鉄道「ヴァンデ・バーラト・エクスプレス(Vande Bharat Express)」は別次元レベルで違う。
ボクの持っていたインド鉄道の概念を一変させる破壊力があった。
この電車に乗ったインド人は、以前日本に住んでいた経験がある。
そんな彼の話によると、インドが誇るこの「ヴァンデ・バーラト・エクスプレス」なら、清潔さと快適さで日本の電車に引けを取らない。
つまり、この点では、日本の普通はインドの最高水準になるらしい。
こうした写真を見ると、インドは発展して豊かになっていることがわかる。
でも、日本に住むインド人に言わせると、インドが日本に見習うべきポイントはそこじゃない。
彼らは、日本人の平等な価値観や人権意識をインド人は学ぶべきだと主張する。
話は変わって、サッカーの日本女子代表と日本人のサポーター(観客)に注目しよう。
「日本の常識は世界の非常識」というように、日本人ならアタリマエの行動が、外国人から驚きや賞賛の対象になることがある。
一例を挙げると、お掃除だ。
いま行われているサッカー女子ワールドカップで、日本代表はベスト8で敗退したが、試合後にロッカールームをピッカピカに掃除し、日本のファンもゴミ袋を持ってスタジアムのゴミを拾い始めた。
こんな日本人の常識的行動に、国際サッカー連盟(FIFA)のジャンニ・インファンティーノ会長が感動し、「すべての選手、スタッフ、そしても素晴らしい模範を示してくれたファンに感謝する」と公式に感謝の言葉を述べた。
同じ現象は去年も起きた。
カタールで行われたサッカー男子W杯でも、日本代表チームは試合後に、ロッカールームをキレイに掃除して、折り鶴を残して去っていく。
この振る舞いに対して、FIFA公式が「Domo Arigato.👏」と感謝の言葉と拍手を送った。
After an historic victory against Germany at the #FIFAWorldCup on Match Day 4, Japan fans cleaned up their rubbish in the stadium, whilst the @jfa_samuraiblue left their changing room at Khalifa International Stadium like this. Spotless.
Domo Arigato.👏🇯🇵 pic.twitter.com/NuAQ2xrwSI
— FIFA (@FIFAcom) November 23, 2022
国際大会でのこうした日本人の姿を見て、米メディアの「Deseret News」は、日本はピッチの内外で、世界にお手本を示していると報じた。(August 2, 2023)
日本代表チームとファンが掃除や整理整頓をすることは、単に良いマナーを示し、良いゲストでいるだけではない。
アメリカの視点では、それは日本人の文化の一部だ。
The Japanese teams and fans tidying up is more than just practicing good manners and being good guests. It’s part of their culture.
How Japan’s World Cup team is teaching the world a lesson — on and off the pitch
世界的にみても、日本人が良いマナーを身につけた理由について、記事では次の2つを指摘する。
まずは、日本の教育だ。
学校では毎日掃除をする時間があるから、日本人は、自分が使った場所をキレイに掃除したり、片付けたりする習慣を身につけている。
そしてもう一つは、意外なことに仏教の影響だ。
日本では掃除も仏教(仏道修行)の一部とされていて、それは瞑想に匹敵するとお坊さんが語る。
人間と環境は密接に結びついていて、切り離すことはできない。自分の身の回りを清潔に保つことは、周囲の世界に対する敬意を表している。
だから、日本の仏教では、掃除をすること自体が目的になるとこの僧は主張する。
日本人がスタジアムやロッカールームを掃除することは、学校教育だけでなく、日本の伝統的な考え方にも由来していることは間違いない。
このまえ、日本の会社で働いている2人のインド人と会って話をした時、W杯での清掃が話題に上がった。
彼らは日本人の考え方や行動パターンを知っている。
だから、日本代表やファンが試合が終わった後、掃除をしたことにはまったく驚かなかったし、インド人や外国人がそれに驚いて、賞賛することは十分理解できると話す。
この日本の文化について、1人のインド人がネットで印象的な絵を見たと言う。
その絵には、母親と小学生くらいの息子がいる。
彼らの視線の先には、路上で掃き掃除をする痩せた男性がいた。
日本人の母親はその男性を指さして、子供にこう言う。
「あの人のおかげで、私たちは快適に暮らすことができるのです」
一方、インド人の母親はこう言った。
「一生懸命に勉強しなさい。でないと、おまえも将来、あんな人間になってしまいますよ!」
この話を聞いたもう一人のインド人は、「そのとおりだよ、すごくわかる」と深いため息をつく。
2人の見方によると、日本の社会では、他人への敬意・配慮・感謝の気持ちがとても大切にされていて、そこがインドの社会と“決定的”といっていいほど違う。
いまのインドでは、カーストの違いによる差別は憲法で禁止されているが、カーストの存在自体は認められている。
昔のインドには、生まれた時から、掃除をすることを運命づけられた「清掃カースト」の人たちがいた。
(たぶん現在も田舎にはいる。)
「不可触民」と呼ばれた彼らは、カースト制度の中で最下層に置かれ、厳しい差別を受けてきた。
4年前、そんなカーストに属する人間が、上位カーストの人たちと同じように椅子に座って食事をしていたところ、集団リンチを受けて死亡する事件が起きた。
現代でも、地方の村ではまだこうした悲劇が発生する。
英BBC(2019年5月20日)
殺されたのは、身分の高い人の前で食事をしたから……インドに根強く残るカースト制度
カースト差別は社会制度としては無くなったけど、その影響はいまも残っていて、先ほどの母親のような考え方をしている人はまだまだ多い。
インド人はフレンドリーでポジティブな考え方をしていて、いろいろな素晴らしい長所がある。
でも、人権意識や平等の感覚については、インド人は日本人に学ぶべきだという点で2人は完全に一致していた。
近ごろの日本では、これまで無かったような凶悪事件が発生している。
でも、「身分の違い」から、人が集団に襲われて殺害されるという出来事はない。
現実感がなさ過ぎて、日本ならアニメの最初のシーンでありそう。
日本に住む彼らは、こういう日本人の価値観や考え方を受け入れることで、インドはさらにもっと発展できると考えている。
国民の意識を変えるには、政府がそれを目的に、計画的に教育を行うことがもっとも効果的だ。
でも、日本の常識をインドで普及することは、非常識なほどむずかしい。
バーラト・エクスプレスを開発するよりも、教育によって人々の意識を変えることには時間がかかる。
日本人が世界にレッスンをしても、それが重要だと理解していても、違う歴史や伝統を持つ国では、それを実現する見通しさえつかないことがある。
インドでも、W杯や五輪で日本人が掃除をして、世界から賞賛されたという報道はされている。
でも現状では、2人はため息をつくしかない。
「世界ベストツーリスト」の日本人が、外国でしてはいけないこと
【日本人の民度】“暴徒”もいれば、世界に称賛される一般人もいる
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