イギリスでフランス語が「支配階級の言葉」だった歴史

 

英語には、prince(王子)、government(政府)、salad(サラダ)、dance(ダンス)、please(どうぞ)などなど、フランス語に由来する言葉が山盛りある。
beef(牛肉)、pork(豚肉)、mutton(マトン:羊肉)もそうだ。
これらの「肉」を意味する英語の単語について、日本で英語を教えていたイギリス人から悲しい歴史を聞いた。

はるか昔、イギリスでフランス人は支配階級にいて、イギリス人は支配される立場にいた。
それでイギリス人が cow(牛)や pig(豚)、sheep(羊)を育てて、上級国民だったフランス人たちがその肉を食べていた。
だから、フランス人が使っていた buef(牛肉)、porc(豚肉)、moton(羊肉)が英語の単語になったという。

日本で1975年にインスタントラーメンのCMで、女性が「私作る人」、男性が「僕食べる人」と言った場面があって、「ジェンダー差別だ!」と大炎上し、すぐに放送中止となった。
私作る人、僕食べる人
数百年前の英仏がまさにそんな感じ。

なんでイギリス人がそんな屈辱的な立場に追いやられたのか?
そのきっかけは、1066年の「ノルマン・コンクエスト(征服)」だ。
この年、ノルマンディー公ギヨーム2世の軍隊が海を渡り、イングランド王国に攻め込み、イングランドを征服した。
そして、ギヨーム2世はノルマン朝を始め、現在のイギリス王室の開祖となった。
ギヨーム2世はノルマン人だが、フランス王家の家臣でフランス語を話していたから、彼は民族、文化的にはフランス人と言っていい。
だから、イギリス王室の始まりはフランス人だったことになる。
ギヨーム2世はイギリスでは、ウィリアム征服王(William the Conqueror)と呼ばれることが多い。

ノルマン征服によって、ノルマン系のイングランドの貴族たちは子供たちにフランス語を教えたり、フランスに留学させたりするようになる。
こうしてフランス語は支配階級の言葉となった。

Noble English families, most of them of Norman origin, taught their children French or sent them to study in France.

Influence of French on English

 

フランス語がイングランドで貴族の公用語となる一方で、民衆はアングロ・サクソン語(古英語)を話していた。
これが現在の英語となる。

 

さて、1356年のきょう9月19日、百年戦争で ポワティエの戦いが行われた。
百年戦争(1337年~1453年)は、フランス王国を治めるヴァロワ朝と、イングランド王国を治めるプランタジネット朝&ランカスター朝の戦いだ。
でも、この3つはすべてフランス人の王朝だから、百年戦争は実質的にはフランス人同士の争いと考えていい。
ポワティエの戦いはイングランド側が勝利する。
しかし、百年戦争は、「奇跡の少女」と呼ばれるジャンヌ・ダルクが現れたこともあって、フランス王国が勝利し、イングランド側は撤退した。

この長い長い戦争によって、フランス人とイギリス人のアイデンティティーが形成され、現在のフランスとイギリスの国境線も確定した。
百年戦争の最中、1362年に英語が公用語となり、1385年からはフランス語は教育の場で使われなくなった。

English became the official language in 1362 and French was no longer used for teaching from 1385.

Hundred Years’ War

 

それでも、フランス語がかつてイングランドで支配階級の公用語だった影響は、beef、pork、muttonといった言葉に残されている。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。