【避諱の文化】北朝鮮について、イギリス人がビックリしたこと

 

世界には奇妙な法律がある。
フランスでは豚に「ナポレオン」と名付けることは違法だ。

英雄すぎて、仏では豚に“ナポレオン”と名づけるのは違法です

フランス人の価値観からすると、豚に国民的英雄の名前を付けることは、ナポレオンの名誉を汚すことになるらしい。
ただし、この法律は過去のもので、現在では死文化されているかもしれない。

高貴な人の名前を軽々しく扱ってはいけない、という考え方は世界中であり、日中韓の東アジアでは「避諱(ひき)」という文化があった。
諱(いみな)とは「本当の名前」の意味で、貴人の実名を避ける習慣があった。
たとえば、古代の日本にいた氏族の「大伴氏(おおともうじ)」は、9世紀に淳和天皇が即位すると、淳和天皇の諱が「大伴」親王だったため、それを避けて「伴(とも)氏」と改姓した。(大伴氏
こんな「避諱」の考え方から、平安時代には貴族を呼ぶ際には、名前の代わりに官位などを使うことがよくあった。
だから、源氏物語の中では、本名がハッキリ書かれているのは藤原惟光と源良清などごく一部で、ほとんどのキャラは「呼び名」で表現刺されている。
現代の日本人が上司の名前を言わず、「部長」「課長」と言うのも、この古代の習慣の名残かもしれない。

北朝鮮はこの文化を特に大事にしているようだ。

朝鮮日報の記事(2023/02/13)

「ジュエの名前は使うな」…北朝鮮、金正恩氏の娘と同名の住民に改名を強要

北朝鮮で「最高尊厳」とされる金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長の娘を「金主愛(キム・ジュエ)」という。
空に太陽が2つもいらないように、一般国民が「尊貴なご子弟」と同じ名前を持つことは許されない。それで、全国にいる「主愛」さんに改名を命じたという。
これは「北朝鮮あるある」だ。
過去にも、金日成(キム・イルソン)の時代には「イルソン」という名前の使用が禁じられ、金正日(キム・ジョンイル)の時代にも、「ジョンイル」という名の国民は別の名前へ変更させられた。
現在の北朝鮮では、正恩(ジョンウン)の名前を持つ人間は「最高尊厳」の1人しかいない。

 

北朝鮮では、国民が指導者へ最高級の敬意を払わないといけないから、指導者と同じ名前を使うことが禁じられているーー。
イギリス人にそんな話をすると、「えっ?」と彼女は驚いた顔をして絶句する。
イギリスでは反対に、親が王室メンバーにあやかって、自分の子供に同じ名前を付ける習慣があるという。

ウィリアム王子夫妻が子供に「ジョージ」「シャーロット」という名前を付けると、その2つはイギリスの名前ランキングで急上昇した。
2019年にヘンリー王子とメーガン妃の間に生まれが子供が「アーチー(Archie)」と名付けられた際には、この名前がこれから国民の間で人気となると予測された。

英BBC(8 May 2019)

Family history website Ancestry said it expects the name Archie to become even more popular, having analysed the impact of other royal baby names.

Archie Harrison: The meaning behind the royal baby’s name

 

国民が子供にロイヤルメンバーと同じ名前をつけることは、王室への親しみの表れだとして、英王室もこの動きを歓迎しているという。
それは王室の尊厳を汚すどころか、むしろ名誉になる。
これが常識となっている国の人間からしたら、政府がそれを「不敬」とし、国民に改名を強要するような世界は考えられない。

「特定の人間がそこまで神格化されるのなら、民主主義人民共和国(Democratic People’s Republic)という国名も変えたらどう?」

イギリス人の知人は、あきれてそんなことを言う。
イギリス国民なら問題ないが、北朝鮮の国民だったら、名前ではなく存在が消される予感。

 

続報

この記事を書いた数日後、北朝鮮当局が、朝鮮労働党の機関紙である「労働新聞」の転売の取り締まりを強化したというニュースを見た。
この新聞には、金正恩氏党の写真などが掲載されている。
だから、転売された後、人々が商品の包み紙などで使用することは「将軍様への敬意が足りない」と当局が問題視しているらしい。
イギリス人には小説の世界の話だ。

 

 

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2 件のコメント

  • 韓国戦争に国連軍として参戦した老兵たちが韓国を訪問して言う言葉の中で一番感動的なのは、”この国のために血を流しながら戦ったことを誇らしい”ということです。
    韓国と北韓の違いを彼らは知っているからです。一つの国でしたが、日本帝国主義から解放されてからは南と北に分かれ、北には共産主義、南には自由民主主義国家が樹立されました。
    同じ国でしたが、今、北韓は事実上の王朝国家です。李氏朝鮮から金氏朝鮮に変わったのと同じです。しかし韓国は、たとえ未だに政治的に不安はあるものの、自由民主主義を花咲かせ経済的にも世界と肩を並べるほどになりました。北韓は中国とロシアが後押ししていますので、簡単に崩れません。王朝国家は、共産主義が地球上から完全に消える瞬間まで続く可能性が高いです。

  • 北朝鮮は事実上、確かに王朝国家ですね。
    イギリスと真逆の発想と対応をしている。
    日韓が協力関係を築かないといけない理由です。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。