はじめの一言
「幾つかの金属製のボタンを与えると・・・『大変有り難う」と、皆揃って何度も繰り返してお礼を言う。そして跪いて、可愛い頭を下げて優しく微笑むのであったが、社会の下の階層の中でそんな態度に出会って、全く驚いた次第である。(リンダウ 明治時代)』」
「逝き日の面影 平凡社」
オーストラリア英語を紹介するおもしろい動画があります。
ぜひ、本場のオーストラリア英語を聞いてください。
向かって左の人が話す英語が正式な英語で、右の人の英語がオーストラリア英語です。
Manterの動画から。
さて、イギリスの特徴といえば、なんといっても「階級」。
例えば、イギリス人ジャーナリストのコリン・ジョイス氏はこう書いている。
イギリスに「階級制度」があることは世界の誰もが知っている。
「『イギリス社会』入門 日本人に伝えたい本当の英国 (NHK出版新書)」
イギリスでは、上流階級と労働者階級のちがいが食事の仕方で分かるという。
・・・ということを前回までに書いた。
今回はその続きっす。
今回の内容
・階級は、発音で分かる。
・オーストラリア英語のなまり(発音)の理由。
・「お母さん」は、下品な言葉?
・階級は発音で分かる。
イギリスでは、英語の発音からでもその人の「階級」が分かるらしい。
誰かの家にお茶とスコーンに招かれたら、階級を探るヒントがたくさん見つかるはずだ。
上流階級は「スコン」と発音するが、労働者階級は「スコウン」のように発音する。「『イギリス社会』入門 日本人に伝えたい本当の英国 (NHK出版新書)」
イギリスの階級を説明するときに、たまに、映画のマイフェアレディ(1964年)の発音を例に出す場合がある。
けど、このイギリス人の本によると、さすがにそれは古すぎ。
現在のイギリスとは違うという。
マイフェアレディの中では、ヒギンズ教授が相手の英語発音を聞くと、その人がどこの階級の人か言い当てることできた。
でも今は、そこまではっきりとは分からないらしい。
いまのイギリス社会はマイフェアレディの時代とは違う。
・オーストラリア英語のなまり(発音)の理由。
「オーストラリア英語はなまっている」と聞いたことはないだろうか?
オーストラリア人の英語には独特の特徴がある。
「オーストラリア留学協会」のHPで、その具体例を見てみよう。
有名なオーストラリア英語の発音はA(エイ)を(アイ)と発音することです。例えば、Day(デイ)が(ダイ)や、Mate(メイト)が(マイト)、Name(ネイム)が(ナイム)になります。
他にも単語の語尾をieにしたがります。例えば、朝食「breakfast」は「brekkie=ブレッキー」、バーベキュー「barbecue」は「barbie=バービー」、蚊「mosquito」は「mozzie=モジー」といった感じです。
カンボジアを旅行中に、これで失敗した。
オーストラリア人と話していたとき、思いっきりかん違いをしてしまった。
会話のなかで、オーストラリア人が「スリーダイズ」と言う。
上の例から分かるように、これは「3 days(3日間)」のこと。
でも、オージーイングリッシュを知らなかったボクは、「3dies(3人死ぬ)」と理解した。
「地雷か何かで、その3人が亡くなったのか?」
と質問したら、そのオーストラリア人は意味不明な顔をする。
後になってから、オーストラリア英語ではA(エイ)を(アイ)に発音するということを知る。
失敗したっていいじゃない。人間だもの。
それにしても、なんでオーストラリア人の英語はなまっているのか?
それを友人のイギリス人に聞いてみたことがある。
でもその前に、オーストラリアという変わった国について説明したいと思う。
イギリスの植民地時代、オーストラリアは、イギリスで犯罪をおかした人間が行く流刑地だった。
言ってみたら、巨大な「刑務所」。
「刑務所」が独立して国になったのは、世界でオーストラリアだけ。
オーストラリア人の知り合いに、「オーストラリアって、もとはイギリスの刑務所だったの?」と聞いても、「ああ?」と怒ることはなかった。
先祖の多くが「労働者階級」だったせいか知らないけど、オーストラリア人はイギリス人よりフレンドリーで細かいことは気にしない。
「そのとおりだ!オーストラリアには砂漠があって、周りの海にはサメがいる。最高の『ナチュラル・プリズン』だよ」と笑顔で言う。
そのオーストラリア人は「オーストラリア人=クロコダイル・ダンディー」というイメージを嫌っていた。
先ほどのオーストラリア英語の質問について、イギリス人はこう話す。
まずその当時、イギリスで犯罪をする人は労働者階級の人が多かった。
イギリス社会では、労働者階級と上流階級の人間では、話す英語も違っている。
労働者階級の人が話す英語は「コックニー」と呼ばれている。
コックニーを話す人たちが、オーストラリアに囚人としてたくさん流されていた。
そのコックニーが現在のオーストラリア英語になったから、今のイギリス人の英語とは発音が違っている。
イギリス人はそんなことを言っていた。
ウィキペディアを見ても、確かにその影響がある。
オーストラリア英語の発音は、初期のオーストラリア移民の多くが話していたコックニー(ロンドンの下町訛り)の継承と考えられているが、英国領であったアイルランドの影響も含まれる。
(ウィキペディア)
さらに、イギリスに住んでいる日本人によると、今でも労働者階級の英語「コックニー」は使われている。
階級差は、その人がしゃべる英語のアクセントに現れます。
ロンドンの労働者階級の人々は、コックニーとよばれる強いなまりのある英語を話します。
サッカー選手として大成したデビッド・ベッカムの英語は、コックニーです。
彼は、大金を稼ぎ、豪邸に住んでいますが、労働者階級に属します。
ベッカムの英語がコックニーだったというの初耳だ。
・「お母さん」は下品な言葉?
いまこの記事を書いていて、あることを思いだした。
日本でイギリスの「上流階級」に近いのは、むかし東京の「山の手」にいた人びとじゃないか?
この人たちは「山の手言葉」という「上流階級の日本語」を使っていた。
山の手言葉
東京語のうち、主として山の手方面で話される言葉。江戸の旗本・御家人・の言葉の流れをくみ、明治以後主に山の手に住む知識階級が使う言葉。
(大辞泉)
現在ではだれもが使う「お母さん」という言葉は、明治時代に生まれたらしい。
このとき、「『お母さん』という言葉が『品がない』と反発したのが、山の手言葉を使う人たちだった」ということを、司馬遼太郎の本で読んだことがある。
上流階級の日本人からしたら、「お母さん」という言葉は「コックニー」に当たる言葉だったのだろう。
時代が変われば、人々の意識も変わる。
「お母さん」はその一例。
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90年代にロンドンに行った時、そこらへんの人達の発音が「今日」が「トゥダイ」「メイン」が「マイン」で、すごく聞き取りにくかった記憶があります。それより前にオーストラリアへ行ったことのある人からトゥダイの話は聞いてたので、「何故豪州訛り?」と一瞬驚いたものですが、ルーツを思えば納得ですね。
モンティパイソンでもコックニーと、オーストラリアはさんざんネタにされてますが、狭い日本でも聞き取り不可な程の方言があるわけで、ホントに言葉は面白いですね。
数十年前の学級文庫にあった江戸川乱歩シリーズは山の手言葉で、地方の子供には異世界でした…
知り合いもオーストラリア人の「ダタ(データ)」が最初わからなかったと言ってました。
「オレたちは元囚人だから、身分なんて気にしない」なんて言うオージーがいました。
たしかにオージーはフレンドリーだと思います。
「ベッカムが下町英語(コックニー)を直している」という話もありますし、英語で見方が変わってしまうのかもしれませんね。
日本人で良かったです。
「お母さん」という言葉は明治時代にできたのですが、そのときは、山手言葉を話す人たちから「下品な言葉」と嫌われたそうです。
日本は上流階級が庶民化したと思います。