伝統行事 vs 動物愛護 御頭祭のように“上げ馬神事”も変化の時

 

時代が進むと人々の意識も変わり、それまでOKだったものがNGか、判断のむずかしいグレーゾーンに見えてくることがある。
ファミマの「お母さん食堂」をジェンダー差別と批判するのは、グレーゾーン未満の過剰反応だとしても、現代の動物愛護の観点から見れば、三重県桑名市の伝統行事である「上げ馬神事」はどうなのか?

この神事は、青年が馬に乗って急な坂を駆け上がり、上にある高さ約2メートルの土壁を乗り越えた回数や順番によって、農作物の豊作や不作を占うというもの。
「上げ馬神事」は、680年以上前の南北朝時代から続く伝統的な行事だとか。
この神事は、馬にとっては超ハードモードで、過去15年間で4頭が骨折し、殺処分されている。
動物愛護団体がこれに怒り、主催者側を動物愛護法違反容疑で刑事告発した。

この神事は現代の価値観に合っているのか?
「伝統文化」というポジティブな言葉を使って、動物虐待を正当化していないか?

そんなことをめぐって、いま議論が起きている。
ちなみに、「上げ馬神事」で殺処分される馬が増加した原因として、日本の在来馬が減少したため、この神事には向かないサラブレッドを使うようになったことが挙げられる。

これにネット民の声は?

・人間が馬の着ぐるみ着てやれよ。
・ええ、、おらが町でもばん馬大会やってるんだが
・競馬の予後不良にも苦情してるの?この団体は
・そろそろバイクに変えていくべきだと思う
・信仰にケチつけるなよ

 

サラブレッド(Thoroughbred)とは、「thorough(完璧な、徹底的に)」と「bred(品種)」を組み合わせた言葉。
サラブレッドは速さを追及して生み出された競走馬で、「ガラスの脚」と呼ばれるほど細い脚で大きな体を支えているから骨折をしやすい。
そのサラブレッドを生んだイギリスでは、BBCが取り上げて、馬の死が日本古来の祭りを変えるかもしれないと報じたから、これはもう国内問題では済まされない。(30 June 2023)

How a horse’s death may lead to reform for ancient Japanese festival

国際馬術連盟が規程する障害物の最大の高さは1.6メートルというから、「上げ馬神事」は国際基準を超えている。

 

 

時代が進むと、新しい価値観や考え方が生まれる。
すると、ある行事や祭りがその影響を受けて、本質はそのままで、やり方を変えることは日本の歴史では何度もあった。

たとえば、長野県の諏訪大社で毎年4月に行われる「御頭祭(おんとうさい)」。
この神事では、シカやイノシシ、ウサギなどが殺され、その頭部や内蔵が神へ捧げられていた。
古代の日本で行われた祭りでは、獣や鳥を捕まえ、それを神への供物として捧げることがよくあったという。
御頭祭では、いつのころかやり方が変わり、動物のはく製が使われるようになった。
その理由として指摘されるのが、生き物の殺傷を禁止する仏教思想の影響だ。
もしそうなら、御頭祭は日本古来の祭祀と仏教のハイブリッドということになる。
70頭以上の鹿の頭部や棒で串刺しにされたウサギが捧げられるから、それを残酷に感じる人が増えた結果だろう。

ちなみに、諏訪大社には生きたカエルを串刺しにして、神に捧げる「蛙狩(かわずがり)神事」があり、これにも動物保護団体からクレームがきた。
現在、この神事がどんな形で行われているのかは分からない。

 

時代の変化を受けて、伝統行事のカタチを変えることも日本の伝統の一つだ。
殺処分する馬を出すような神事が、現代の動物愛護精神と共存できると思えない。
日本の馬からサラブレッドに変えて、すでに「上げ馬神事」は変化したのだから、この伝統文化を存続させるためにはもう一工夫が必要だ。
馬のはく製や着ぐるみを使うのは無理だとしても、壁の高さを低くすることはできるはず。

 

御頭祭の史料館

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。