インド人が美白を重視する理由、日本人の行動に驚いたワケ

 

最近、アメリカの有名ファッションデザイナーがやらかした。
彼がインスタグラムで、ロサンゼルスで行われたファッションショーの写真を公開すると、その中で、台湾系アメリカ人のモデルの顔が白く加工されていた。
アジア人女性を白人女性のように見せたことに、そのモデルは「dehumanizing(人間性を奪い取るような)」ひどい行為と怒りをあらわにする。

英紙ガーディアンの記事(Sat 4 Nov 2023)

Model says her face was edited with AI to look white: ‘It’s very dehumanizing’

アメリカ社会において、顔や肌の色を変える行為は人種差別につながるから、絶対的なタブーとされている。

モデルが指摘するように、今回の「白人化」は AIの判断に原因があるらしい。
AIが人類のぼう大なデータから、美しさの基準を学び取った結果、肌の白さが重要な要素と考え、アジア人モデルが白人のようにされた可能性があるという。
そのモデルは、顔を切り取られたようだとショックを受け、美しいものをつくり出すのが人間の大切な能力なのに、機械が「醜いものに変えるというのは恐ろしい」と話す。

日本を含む世界中の国で、「肌の白さ」が美の条件とされている。
最近は人種差別に対する意識が強くなったから、以前ほど強調されなくなったが、それでも AIが自然と学習したように、その考え方は今でも強くある。
個人的な経験から言うと、「美白」には特に敏感で、それをとても尊重するのはインド人だ。

 

インドを旅行中、ホテルのテレビで、女性が美白クリームを塗って肌を白くすると、たちまち意中の男性がホレて、2人で手を取って踊りだすようなCMをよく見かけた。

イギリスBBCの記事によれば、インドで色白の肌を求めることは今に始まったことではない。何世紀にもわたって、南アジアの女性たちは「肌の色が白い=美しい」という信念のもとに育ってきたのだ。(6 June 2012)

The desire for lighter skin is nothing new in India. For centuries women in South Asia have been raised with the belief that a fairer complexion equates to beauty.

Has skin whitening in India gone too far?

 

インドではコカ・コーラよりも、美白クリームの方が多く販売されているという報告もある。

 

サリーを着たインドの女性

 

インド人の白い肌へのこだわりは、日本人の比ではない。
以前、インドに駐在している日本人と出会って、こんな話を聞いたことがある。
1980年代に、日本のサラリーマンがインドで働くことになり、家族全員でインドへ引っ越した。
彼らが住むことになった地区はわりと裕福なインド人がいるところで、あいさつをしたらすぐに友だちになって、夕食に招いてくれた。

インドでの生活に慣れてきたころ、ビーチか自宅の庭で、母と娘が日光浴をして肌を焼いた。
その後、近所のインド人の家に遊びに行くと、インド人夫婦が2人の肌を見て驚き、「何があったの?  何があったの?」とたずねた。
この夫婦の価値観では、日本人の白い肌は憧れの対象なのに、それを焼いて小麦色にすることは本当にもったいない。
もう、正気の沙汰じゃないというレベル。
夫は冷静な口調でこう話す。

「私は他人の家族には口を出すつもりはありません。でもね、それはいけませんよ。子どもへの虐待ですよ」

日本人の夫と妻はひなたぼっこをして、肌を適度に焼くことは健康に良いと考えていた。
(昭和の時代、こんな考え方は一般的だったと思う。)
だから、このインド夫婦との常識や感覚の違いには衝撃を受けたらしい。

「インドの人たちって、本当に美白を重視するんですよ。特に女性は肌の色によって、結婚する条件が大きく変わってきます」と日本人駐在員は話していた。

 

インド国旗にある白は平和と真実をあらわしている。

 

ひなたぼっこが“虐待”になるーー。
この話を聞いてから、「インド人と美白」というテーマに興味がわいた。
それで、これまで日本で知り合ったインド人に話を聞いたから、彼らの意見をまとめて紹介しようと思う。
ちなみに、彼らのほとんどは20代のインド人の男女だ。

 

たしかに、今でもインド社会では白い肌が「美の条件」とされ、肌の白さと社会的な成功は結びついている。
逆に、浅黒い肌にはネガティブなイメージがあるけど、そのギャップはだんだん小さくなっている。
日本人が日焼けをすることに驚いたというのは古い考え方で、年齢が高くなるほどそういう人が多くなる。
自分はひなたぼっこを“虐待”とは思わない。
でも、両親が子どもの白い肌をあえて黒くしようとすると、きっと祖父母は怒ってやめさせる。

最近では、特に若い人たちの間で愛国心が強くなって、インド的なものを尊重しようとする考え方が支持を集めている。だから、自分の素の肌の色を愛し、「白い肌=美しい、成功」といった伝統的な見方に批判的な人が増えている。
企業がそんなイメージを作り出して金儲けをしているから、それに反発し、美白クリームに反対する運動まで起きた。

 

インド人が白い肌を尊重する理由には、カースト制度の影響もある。

*日本では、バラモン、クシャトリヤ、ヴァイシャ、シュードラの四つからなる身分制度を「カースト」と呼んでいたが、現在の教科書には「ヴァルナ」と書いてある。
ここでは大ざっぱに「カースト=ヴァルナ」とする。

ヴァルナはもともと「色」を意味していた。
古代インドでは、白い肌をもつアーリヤ人がそれ以外の有色人種を区別するために、この言葉が使われていた。
しかし、時代とともに混血が進むと、ヴァルナは「色」ではなく、種姓やカースト制度を指すようになっていく。
こんな歴史的な背景から、インドでは、高いカーストの人間は低いカーストよりも肌が白いという先入観が生まれる。
インドがイギリスの植民地になったころには、「白人が支配者になるのは当然のこと」と受け入れる人もいた。
でも、実際にはイギリスの植民地政策によって、「白い肌」を尊敬する雰囲気が作り出されたと思う。

独立した後でも、インドの広告や映画では色白の人物が主役に選ばれ、キラキラした人生を生きるイメージが強調されていた。
一方で、浅黒い肌の俳優に光が当たることはなく、彼らには田舎や貧困といった属性が付けられたから、美白信仰が強化されていく。

最近では、インド人が自国を大切にし、インド的なものに自信を持つようになったから、浅黒い肌を「美しい」と考える見方広がっていて、美白への過剰な憧れは少しずつ崩壊している。
自分もそんな考え方に賛成だけど、それでも、肌を焼いて黒くしようとは思わない。

*アジア系アメリカ人のモデルが顔を白くされたことに対し、「醜いものに変えるというのは恐ろしい」と話したように、「白≠美」という意識は世界的な傾向になっている。

 

ということで本日のまとめ

日本もインドも「色白=美しい」という見方はあるが、最近はそんな単純な発想から抜け出しつつある。
でも、日本と比べると、インドではまだ美白への憧れが根強く、社会的なメリットもありそうだ。
これはカースト制度やイギリスの植民地政策と結びついているから、ある意味、当然のことか。

 

この動画の中でもインドでは歴史上、ペルシャ、ムガール、イギリスの白い肌(light skin)の人間が支配者になったと説明している。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。