ハンガリー人は日本の仏教に何を思う? 地獄・線香・哲学編

 

「ハングリー(腹へった)」と響きが似ているから、東ヨーロッパのハンガリーはわりと覚えやすい。
でも、日本での知名度は高くなく、ハンガリーがルービックキューブを発明した国であることを知ってる人は少ない。
いまでは、ルービックキューブを知らない人も多いかも。

最近、日本に住んでいるハンガリー人のカップルと知り合った。
彼らは日本の文化をリスペクトしていると言うから、見どころがあると思って、お寺へ連れて行くことにした。
そこでいろいろな話を聞いたから、今回はその内容を紹介しようと思う。
ハンガリー人の考え方や価値観について、少しは理解を深めることができるハズ。

 

「賽の河原」の地獄にいる子どもたち

 

ハンガリーで、最も信仰されている宗教はキリスト教のローマ・カトリックで、国民の約40%がその信者だ。
2人ともカトリック信者だから、以下の内容はその視点での話になる。

まず、彼らにとって衝撃的だったのは、日本の仏教では、親より先に死んだ子どもは地獄へ落ちると考えられていたこと。
特に女性の方は「それは残酷すぎる! 子どもは悪いことをしていないのに、なんで地獄へ行くの? それは理解できない」とドン引きだ。
日本では、そうした子どもは仏教的な善行を積むことができなかったし、先に死んで親を悲しませることは“罪”になるから、地獄へ行くと信じられていた。

ハンガリー人女性が言うには、罪を犯していない子どもはとてもピュアな存在だから、必ず天国へ行くことができる。
「早くに亡くなった子どもは、親不孝をした“罪深い”存在だから地獄へ行く」という発想はこの正反対だから、彼女としては、頭でも心でも受け入れることはできない。
男性の方はそんな話を聞いて、「そうだけど、ちょっと待ってほしい」と異議を唱え、こんな話をする。

「まず子どもの魂は煉獄(れんごく)へ行って、そこで清らかな状態になるんだよ。その後で、魂は天国へ行くことができる」

 

煉獄とは、天国に入る前にある特別な空間(や期間)のこと。
そこで死者の魂は火によって浄化され、完全にクリーンな状態になることで、天国へ入ることができる。
火に焼かれて苦痛を受けるが、天国行きは約束されている。
これは、子どもたちが「賽の河原」で責め苦を受け、そのあとで救われるという日本仏教の考え方と似ている。

*『鬼滅の刃』の煉獄杏寿郎は火を使って鬼を倒す。
あの元ネタは、きっと煉獄の炎で“穢れ”を焼滅するカトリックの考え方だ。

 

ドイツの教会のキャンドル

 

このハンガリー人カップルは、日本のお寺が好きだと言う。
その理由の一つが線香で、あの独特な香りをかぐと、気分が落ち着いてリラックスするらしい。
ヨーロッパでは瞑想が人気で、彼らは線香の香りがただよう空間で瞑想をしたいと考えている。
しかし、線香の意味はさっぱりわからなかった。

仏教で線香に火をつけることには、いくつかの意味や目的がある。
その中のひとつが「香食(こうじき)」という考え方だ。
死者の魂は香りを食べる(楽しむ)と信じられたから、線香の煙と香りを亡くなった人へのお供え物とした。
ハンガリーの教会であえてそれに似たことを挙げるなら、キャンドルに火をつけることらしい。
それには「祈りを捧げる」という意味があるという。(Votive candle

 

 

そこは禅宗のお寺だったから、上の「円相」が描かれていた。
円相が表していることは、

・描いた人の心
・終わりも始まりもない永遠
・執着から解放された自由な心

と言われている。
しかし、円相の解釈は見た人にまかされているから、自由に考えていい。

英会話を学ぼう 174 外国人に禅宗の「円相」を説明する

そんな円相の話をすると、彼らはこんな感想を口にする。

「ヨーロッパでは、仏教は宗教よりも哲学と見なされることがある。キリスト教では、すべての話がだいたい“罪と救済”につながるけど、円相はそれとまったく関係ない。特にカトリックでは、正しい解釈は一つだけで、信者が自由に理解していいという発想はないから、私たちには仏教が哲学のように聞こえる」

 

ということで今回のまとめ

親より先に亡くなった子どもの魂は地獄へ行くーー。
そんな日本仏教の考え方は、カトリック教徒のハンガリー人にはとても無慈悲に聞こえ、とても受け入れられない。
でも、線香はとても良い香りがするから好き。
「祈りを捧げる」という教会のキャンドルと役割も似ている。
日本の仏教は“自由度”が高く、信者が自分の頭で考える範囲が広いから、カトリックに比べると哲学的に見える。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。