1941年のきょう12月10日、イギリスの誇る戦艦「プリンス・オブ・ウェールズ」が、マレーシアの近くで日本軍によって撃沈された。
2日前に真珠湾攻撃があって太平洋戦争がはじまり、この日はマレー沖海戦で、日本海軍の航空隊がイギリスの東洋艦隊を襲撃した。
当時のイギリス首相チャーチルは、プリンス・オブ・ウェールズが沈められたことを知り、「イギリス海軍始って以来の悲しむべき事件がおこった」と議会で報告した。
彼にとってこの出来事は、第二次世界大戦でもっとも衝撃的だったという。
プリンス・オブ・ウェールズ
沈むプリンス・オブ・ウェールズから脱出する乗組員
個人的に不思議に感じるのは、イギリス人の命名センス。
戦艦プリンス・オブ・ウェールズの名称は、イギリスの皇太子に由来して付けられた。
戦艦だから、戦場で敵の攻撃を受けることは当然予想できるはずなのに、なんで次の国王となる超重要人物の名前を艦船名にしたのか?
実際、日本軍の攻撃を受けて、プリンス・オブ・ウェールズは海に沈んでしまった。
日本人の命名感覚なら、そんな不吉なことが起こる可能性のあるモノに皇族の名前を付けることはない。
海外の海軍を見てみると、その国の偉人にちなんで、艦船に名前が付けられる例は多い。
アメリカ海軍では、アイゼンハワーやセオドア・ルーズベルト、ジョン・F・ケネディなど、過去の大統領が戦艦の名前になっている。
イギリス海軍にクイーン・エリザベスという空母があれば、フランス海軍にも空母シャルル・ド・ゴールがある。
イギリスでは19世紀の女王に由来して、豪華客船がクイーン・ヴィクトリアと命名された。
その国の英雄や尊敬される人物から、艦船の名前が選ばれることは欧米だけでなく、韓国でもある。
韓国海軍の艦船には、ハングルを制定した「世宗大王」や、朝鮮出兵で日本軍を撃退したとされる将軍「李舜臣」の名前が付けられた。
また、潜水艦には伊藤博文を暗殺した「安重根」がある。
ちなみに、「独島」という強襲揚陸艦もあるのだ。
一方、日本ではこんなことは一切ない。
戦前の海軍でも戦後の海上自衛隊でも、人物名を艦船の名前にした例は一度もないのだ。
日本では、金剛や比叡といった「山」や最上や利根といった「川」など、自然に由来する艦船名前が多い。
もし、新しい艦船に「竹島」という名を付けたら、きっと隣国は大騒ぎになる。
ほかにも、めでたい動物にちなんで名前が付けられるケースもある。
海上自衛隊の潜水艦「おうりゅう(凰龍)」は、知識が豊富で縁起の良い龍を指す。
潜水艦の「そうりゅう」も、四神の一つ青竜の別名である蒼竜に由来している。
日本では、自然や想像上のめでたい生き物などにちなんで、艦船の名前が付けられることが一般的で、偉人の名前が艦船に使われた例はなかった。
その理由はハッキリしていないが、日本海軍が創設された明治時代、天皇が「日本の軍艦の名前に人名はふさわしくないのでは」と話したから、とよく言われている。
これがきっかけで、日本では軍艦に人名が使われないことになったという。
明治天皇がそう考えた理由は、人名を付けた軍艦が海に沈んでしまうと縁起が悪く、その人物に対して失礼になるからだろう。
こうした日本における命名文化には、言ったことが現実になる日本独特の「言霊信仰」の影響もあると思う。
皇太子の名前が付けられた艦船が撃沈されるというのは、日本人の価値観や文化とは合わないのだ。
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