【エポニム】米国人「日本には人に由来する言葉が少なくね?」

 

アメリカにでこんな感じに、人物名にちなんだ州の名前がいくつかある。

ニューヨーク州はイギリスのヨーク公
ジョージア州はイギリス国王ジョージ2世
ルイジアナ州はフランス国王 ルイ14世
ワシントン州はアメリカの初代大統領ジョージ・ワシントン

首都ワシントンD.C.も初代大統領のワシントンに由来しているし、「District of Columbia(コロンビア特別区)」のコロンビアはアメリカ大陸を“発見”したコロンブスのこと。

アメリカではこういう地名の付け方は普通&常識だから、まえに日本の歴史が好きなアメリカ人からこんな質問をうけた。

「日本では人物にちなんで付けられた地名がないですよね。長い歴史があって有名な人物もたくさんいるのに、それに由来する地名がないというのはちょっと不思議な気がします。この理由は何ですか?」

いやいや。日本だってそんな地名のひとつやふたつ…、あれ?意外とない。
東京の青山は武士の青山忠成、新宿区内藤町は内藤清成という武士に由来しているし、「日本の人名地名一覧」を見ると、潮干狩りのようにゴロゴロとそんな地名が出てくる。でもそれらは小粒。
都道府県や都市のレベルとなると話は別で、ネットで検索しても見つからない。
人にちなむ地名で最も有名なのは、オランダ人のヤン・ヨーステンに由来する八重洲(やえす)だったりして。

アメリカの場合は、そもそも国名がイタリアの地理学者アメリゴ・ヴェスプッチに由来しているから、日本とは事情がまったく違う。

さらに彼は、「日本では人にちなんだ空港もありませんよね。アメリカではよくあります」と言う。
たしかに、ジョン・F・ケネディ国際空港、アブラハム・リンカーン・キャピタル空港、それに日系アメリカ人のダニエル・イノウエに由来するダニエル・K・イノウエ国際空港(ハワイ)などなど、アメリカでは偉人が空港の名称になることは一般的だ。

日本では、あえて言えば「高知龍馬空港」が愛称としてあるだけで、人名を冠した正式な空港名はない。
2009年に開港したわれらの「富士山静岡空港」も、もし人名から付けるとした「長澤まさみ空港」しかないのだが、県民は賛成してもご本人が全身全霊で嫌がるはずだ。となると富士山しかない。

なのでこのとき彼には代わりに、日本史の偉人が命名した有名な地名を紹介しようと思い、織田信長が名付けたという「岐阜」の話をした。
それが前回の内容。

【天下布武】「岐阜」の由来・改名した織田信長の思い

この記事の導入でこのアメリカ人のことを書いていたから、のびのびに伸びてしまった。

 

 

このアメリカ人とは逆に「海外の国って、人にちなんで付けられた都市や国がおおくね?」と疑問をもった日本人もいると思う。

ロシアにはピョートル大帝にちなむペテルブルグ、ベトナムにはホーチミン市、韓国には世宗市(世宗特別自治市)がある。
ちなみに最後の都市名は朝鮮国王の世宗にちなんだもので、「世の中(世)の一番上(宗)」という意味もあるとか。

フィリピンの“元ネタ”はスペインの国王フェリペ2世だから、「植民地時代の名残」としてドゥテルテ大統領が国名変更を提案したことがある。

フィリピンが「マハルリカ」に国名変更?現地の人の思いは?

南米のコロンビアの由来はコロンブスだし、サウジアラビアなんて「サウード家によるアラビアの王国」と王族の所有地のような国名だ。

こんな感じに、ある人物に由来して名付けられた言葉を「エポニム」という。
この具体例を挙げると

アキレス腱、インゲンマメ、ギロチン、サンドイッチ、川柳、たくあん、、ケリーバッグ、ホチキス ブルマー、ボイコット

などなど山盛りある。
理科で習ったパスカルの原理、アルキメデスの原理、フックの法則もそうだし、モールス信号も「エポニム」の言葉だ。

 

インド・コルカタの国際空港は「ネータージー・スバース・チャンドラ・ボース国際空港」といい、これは第二次世界大戦中、日本軍とともに戦った国民的英雄チャンドラ・ボースに由来する。
*ネータージーは指導者の意。

 

ではここで話をアメリカ人に戻そう。よいしょっと。
彼は身分や生まれにこだわらず、能力を重視した織田信長が好きだし、岐阜県には何度も行ったことがある。
でもその「名づけ親」が信長という話は初耳で、「それは面白いですね」と笑顔を見せる。
でも信長のような絶対的権力を持った支配者でも、自分の名前を地名につけなかったというのは意外だったらしい。

日本語にも人物に由来する言葉はあるけれど、都市や空港の名称でこれが見当たらない。
もう、“ない”と言い切ってもいいレベル。
アメリカ人を含む外国人と違って、日本人の感覚では特定の人物を英雄視して“崇拝”することが嫌いなのかも。神さまにして神社で祀ることはあるが。

海上自衛隊では、沈むと縁起が悪いということで、人物にちなむ艦船名はつけないことがルールになっているという。
都市名についても、こういう縁起にかかわることがあるのかもしれない。

 

おまけ

この記事を書いているときに、世界中の国名や都市名の由来を表す地図があったから、そのリンクを貼っておこう。

Literal translations of cities around the world 

 

 

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2 件のコメント

  • 軍艦にの場合は明治初期に歴代天皇や武勲のある武将名を付けたいという意向を明治天皇が却下て以降、現在まで慣例になっているのも沈没や禍があった時に二重に不敬、穢れになるという考えからのようで。
    あのヒトラーもドイッチュランドと名の付いた軍艦を沈没すると縁起が悪いと艦名を変更させているけど人物名はそのままなので偉人の威光にあやかろうとしたかの違いの気がしますね。
    地名や施設名に無いのも、人の名がついた場所を土足で踏む事に嫌悪があったのではと。言霊の考えもある位なので。

  • > 都市名についても、こういう縁起にかかわることがあるのかもしれない。

    そりゃもちろんそうでしょう。何てったって「言霊」の国なのですから。
    地名として人物の名前をつけたりして、その地名を人々が呼ぶ度に地獄の底からご本人がお出ましになったのでは困っちゃいますよ。くわばらくわばら。この感覚、外国人には理解できないだろうなぁ。

    万葉集の昔から、人の名前はむやみと声に出して呼ぶものではありません。なぜならそれは、その人の自由を奪う「言霊の呪縛」でもあるからです。だからこそ、日本語は会話の相手を名前で呼ぶことが少ないのです。
    英米人のように「ねぇマイケル、・・・」「そうだろベティ・・・」「分かってるさ、ルーシー」なんて、とんでもない。会話の相手にはなるべく主語を省略して、命令形・依頼形で話します。また第三者のことは、名前ではなく役職(社長さん)や職業(センセイ)で表現する、家族だって役割や代名詞で表す(お父さん、お母さん、お姉ちゃん、ボクちゃん)、それが日本語のマナーですから。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。