歴史責任と多様性 イスラエルに対するドイツの複雑な立場

 

「ガザの人たちは地獄の底をのぞいている。」

国連のグテーレス事務総長はそう言って、ガザでの戦闘を終わらせるために、国際社会が最善の努力をしなければいけないと強調した。
しかし、国連の無力化は深刻だ。
ロシア軍のウクライナ攻撃を止められないように、イスラエル軍に歯止めはかからず、ガザでの死者はもう2万人近くに達した。
その多くが子どもや女性と言われる。

この戦闘のきっかけは、ことし10月、イスラム組織ハマスがイスラエルに奇襲攻撃をしかけ、多くの民間人を殺害し、拉致したことにある。
これにより、イスラエルによるハマス壊滅作戦がはじまり、いまガザは地上の地獄と化している。

 

国際社会の反応も分かれた。
イスラム教の影響が強い国々はパレスチナを強く支持していて、欧米はどちらかというとイスラエル寄りだ。
欧米の国内では、イスラエルとパレスチナの支持者が対立し、日本でも双方の支持者によるデモ活動が行なわれた。
そのような状況で、ドイツの立場はほかの国とはちょっと違う。

 

 

ドイツの歴史には封印したいけど、それは絶対に許されない闇がある。
第二次世界大戦中、ヒトラー率いるナチスがユダヤ人を「劣等民族」と決めつけ、彼らを絶滅させることを計画し、実行した。
そんなムゴイ人種差別的な考えから、600万人のユダヤ人が虐殺され、国民はいまもその暗い歴史を背負っている。
そんなホロコースト(ユダヤ人虐殺)の過去を持つドイツでは、今回の問題についてどう思っているのか?
知人のドイツ人(30代・男性)に聞いてみた。

 

ーー日本から見ると、パレスチナは地理的に遠いし、ユダヤ教やイスラム教の影響もとても薄い。
だから、日本ではこの問題については、欧米みたいに支持者が分かれ、対立しているという話は聞かない。
ドイツはどんな感じ?

「イスラエルはユダヤ人の国家で、彼らが自分たちの国を持ちたかった理由にはホロコーストの悲劇がある。だから、パレスチナ問題ではドイツはずっとイスラエルを支持してきた。というか、イスラエルの批判ができないんだよ。ドイツでそれをすると、『極右』のレッテルを貼られかねないから。でも、最近は変わってきたよ。」

ーーというと?

「いまのドイツにはたくさんの移民が住んでいるから、そのへんの状況が変わってきているんだ。たとえばトルコから来た移民の2世や3世は、ドイツ国籍を持つドイツ人だけど、彼らはイスラム教徒だから、イスラエルを嫌ってパレスチナを支持している。」

ーー社会構造が変化しているから、人びとの意識も変わってきていると。
そう言えば、サッカー・ドイツ代表のキャプテン、ギュンドアンは
トルコ人の両親を持つトルコ系ドイツ人だったっけ。
彼はの名前は「イルカイ・ギュンドアン」だから、日本では「牛丼」とか「イナイヨ」とか呼ばれているのは豆。

「そんな情報はいらない。いまのドイツには中国人やベトナム人もたくさん住んでいて、ボクがよく行くラーメン屋のオーナーはベトナム人なんだ。ボクらはホロコーストの重荷を背負っているけど、彼らはその責任を感じていない。歴史の反省を求められたら、『オレたちとユダヤ人虐殺は関係ない!』って反発するだろうね。ドイツでは、そのへんの意識の違いがいろいろなところで表れているんだ。」

ーー同じドイツ国民といっても、トルコ系やベトナム系ではバックグラウンドがまったく違う。だから、価値観や考え方も違うと。
そういうニュータイプのドイツ人が増えてくると、ホロコーストに対する伝統的な“罪悪感”も薄くなってくるのかな。

「それはあると思う。メディアや若いドイツ人には、パレスチナ寄りの姿勢が目立つ気がする。もちろん、イスラエルを支持する人も多い。だから、ドイツは分裂している 。」

ーーで、きみはどう思う?

「ハマスはこれまでにも、10月の攻撃ほど大規模ではないとしても、イスラエルに何度も攻撃をしていた。だから、イスラエルの報復は当然だ。それに、ハマスの戦闘員は一般人と同じ格好をしていて見分けがつかない。これは国際法に違反している。」

ーーつまり、イスラエルを支持すると。

「話を最後まで聞けって。イスラエルの攻撃は仕方ないけど、それが激しすぎて、民間人の死者が多すぎる。だから、もう戦闘はストップしないといけない。でも、過去の歴史を考えると、それをイスラエルにそれを強く言うこともできない。いまのガザの問題について、ドイツの立場は本当にむずかしいんだ。ボクみたいに、どっちを支持するかハッキリ決められなくて、距離を置いて見ている人がいちばん多いと思う」

 

話を聞いていて感じたのは、ボクが持っていた「ドイツ人」の概念を変えないといけないってこと。
たくさんの移民がやってきて、多民族国家になったいまのドイツでは、ホロコーストの負の遺産とは“無関係”の国民もめずらしくない。
こんなドイツはボクの頭の中になかった。
現在のイスラエルとハマスの戦いについて、欧米ではどこの国でも意見が分かれている。が、歴史責任と多様性がからみ合っているという点で、ドイツが抱える悩みはほかの国とは違う。

一方で、ガザの人たちは地獄の底に叩き落される寸前にいて、「悩んでいる」というレベルではないのだけど。

 

ドイツで行なわれたパレスチナを支持するデモで、イスラエルの国旗を燃やされ、一部が暴徒化して警官隊と衝突している。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。