日本にいるムスリムの主張「犯罪行為は“神の意思”じゃない」日本にいるムスリムの主張「犯罪行為は“神の意思”じゃない」

日本人の考え方からすると、イスラム教徒が口にする「神の意思」というワードには、強烈な違和感を感じる人がよくいる。
でも、イスラム教徒に話を聞くと、彼らもそんな主張には違和感を超えて、怒りを感じることがあるらしい。
今回はそんな話を紹介しよう。

静かな海を航行している商船が突然、機関銃やロケットランチャーを持った戦闘員に襲われ、船を奪われてしまう。
そして戦闘員は船員を誘拐し、「開放してほしければカネを出せ」と要求する。
イエメンの親イラン武装組織「フーシ派」がいま紅海でそんな海賊行為をしやがるから、多くの国の人たちが頭を悩ませている。
きょねん11月には、日本郵船の自動車運搬船もこの被害にあった。

ただし、フーシ派は無差別に船を襲撃しているわけではなく、そこにはとっても身勝手な「イスラム基準」がある。
彼らは過激なイスラム思想を持ち、ガザ地区のイスラム教徒を支援しているから、「イスラエル寄り」と見なした国の船を襲っているのだ。
日本もその対象と認定されたらしい。
フーシ派のある幹部は「（日本は）神の罰を受けることになるだろう」と言っているから、また日本の船が襲われるかもしれない。

イスラム教徒にとって、アッラーは絶対的な存在で、この世で起こるすべてのことは「インシャアッラー」、つまり神の意思によるものだと考えられている。
この考え方によると、自分たちが船を襲撃しようとしても、もし神がそれを望まなかったら、それが実現することはない。逆算すると、襲撃することができたのは、それが神の意思の表れということになる。
フーシ派はそんな都合の良い発想で、犯罪行為を神の名で正当化していると思われる。

肌を見せないように、全身を覆うイスラム教徒の女性（イエメン）

もちろん、これは過激派の考え方であって、一般のイスラム教徒、特に教育を受けたムスリムたちの見方は違う。
母国の大学を卒業し、日本に住んでいて国際感覚のあるバングラデシュ人やインドネシア人のイスラム教徒に聞くと、民間船への襲撃はむしろ神の意思に反していると言う。
イスラム教では、異国から来た旅行者は歓迎すべきと説いている。だから、民間人に銃を突きつけるのは、反イスラム的な行為だと彼らはフーシ派を非難する。
そんなことを言えば、略奪でも殺人でも、あらゆる犯罪行為を正当化することができてしまう。
しかし、実際には、イスラム教ではそんな「後出しジャンケン」みたいな発想は認められないという。
たとえば、イスラム世界では物を盗んだ場合、その泥棒は手首を切断されたことがあるという。
この刑罰は、イスラム教の聖典「クルアーン（コーラン）」の次の記述が根拠になっている。

盗みをした男も女も、報いとして両手を切断しなさい。これはかれらの行いに対する、アッラーの見せしめのための懲しめである。アッラーは偉力ならびなく英明であられる。

ハッド刑

トップ画像は、イスラム国家・イエメンの首都サヌアにある旧市街の入口。
かつてこの門では、切断された泥棒の手が見せしめとして晒（さら）されていた。

このハッド刑の考え方に基づいて、イランでは2019年に、何度も窃盗をしていた男の手が切断された。
また、2020年には４人の窃盗犯に対し、右手の指４本を切断する刑が確定した。
とはいえ、物を盗んだ人間が必ず手を切断されるわけではない。
むしろ、実際に行われるのは例外的なケースで、20年に切断刑を言い渡された男が、本当に手首を失ったかどうかは確認されていない。
もし裁判で、「私が物を盗んだのは“神の意思”であり、盗まれた人間は“神の罰”を受けたのだ！」と主張したら、イスラム教を冒とくした罪で死刑になるかもしれない。

知人のバングラデシュ人とインドネシア人はそんな話をする。
同じイスラム教徒でも、彼らのような一般的なムスリムと過激派ではクルアーンの“解釈”が違うらしい。
知人たちは、フーシ派はクルアーンに書かれている言葉を誤解しているから、海賊行為を「神の意思」と主張するのだと考えている。イスラム教徒として、自分たちはそれを支持することは絶対にできないと言う。
日本で生活していると、イスラム教徒という理由で過激派と同一視されることがあって、彼らとしてはすっごく迷惑している。

このへんの話は、無宗教のボクにはよく分からない部分もある。
でも、海外でアホな日本人が迷惑行為をすると、日本人全体が風評被害を受けてしまう。関係ない人が事故に巻き込まれないように、火の粉を払おうとする気持ちは理解できた。