大阪で開催される予定の関西万博で、いま「2億円のトイレ」が話題を集めている。
これは、若手建築家が設計を担当したデザイナーズトイレで、「いや高すぎないか?」という世間の声に対し、吉村府知事はこんなことを言う。
「建築家がトイレにも魂を吹き込んでいる」
ネット上では「魂を吹き込んだらトイレが2億円になるんか」、「魂の値段なら2億は安いな」と賛否が分かれた。
木や石など自然のものに神が宿るという考え方は、神道では基本中の基本。
万博に来た外国人に、日本古来の思想をお尻で感じ取ってもらうオモワクのようだ。
神社は聖域だから、よくこんなワードを見かける。
「初穂」とは、その年に初めて収穫されたお米のこと。
鳥居をくぐると、神々のいるゾーンに入るから、そこで“料金”や“値段”といった俗世間と同じ言葉を使ってはいけない。
神社でお金を“払う”ときは、初穂を神にささげるように、感謝や尊敬の気持ちを込めてお金を納めることから、「初穂料」という言葉を使う。
神社やお寺では、お守りを“買う”や“売る”と言うのもNGで、それぞれ「授かる(受ける)」、「授与する」と表現する。
神社がお守りを渡すときは「お守りを授けます」なんて、レッドブルみたいな言い方はしなくて、おそらく「お納め下さい」といった言い方をする。
「は? なんて?」と二度聞きしないように。
こんな聖域では、世間とは違う特別ルールが適用されるから、外国人がその壁とぶつかって戸惑うこともある。
以前、20代のアメリカ人女性を神社へ連れて行った。
もうすぐ帰国するだった彼女は、「家族と友だちのためにお守りがほしい!」と言い出す。
彼女はアメリカにいたとき、日本のお守りのようなものを見たことがなかった。
お守りはただのモノではなく、日本の思想や文化が込められている。
日本人の感性が反映されていてとてもカワイイものや、きれいなものがあるから、知人のお土産としてお守りはピッタリらしい。
ということで、お守り売り場ではなくて、「授与所」へ行く。
そこにあったお守りについて、健康、学問、恋愛、開運、金運などの効果を伝え、後は彼女に選んでもらった。
彼女が最後まで悩んだのは、母親に渡すお守りの色。
最近、母の体調は良くないから、健康のお守りを渡せばいいとして、母は赤色と青色のどっちのお守りをより喜ぶだろうか?
しばらく考えて、彼女は赤いお守りを選んだ。
すべて決まると、「全部で5つ買うから、少しは安くならない?」と言い出したが、「ここはビックカメラじゃない」と却下する。
一応、神社の人に聞いてほしいと言われたが、論外だから却下。
このアメリカ人は、神社を免税店と同じ感覚で考えているらしい。
一度、軽い神罰をくらえば理解できるかもしれない。
合計で 5000円ほどの初穂料を納めて、お守りを授かった彼女は、駐車場に向かって歩き出さない。
その場で足を止めて何かを考えている。
これは不幸フラグでは? という予感は的中し、「やっぱり、青いお守りのほうが良い」と言いやがった。
でもまぁ、ディスカウントは無理だとしても、受け取ってからまだ1分も経っていないから、お守りの交換なら問題ないだろう。
そう思ったボクは、まだ神道の考え方を理解していなかった。
「そういうことなので、たいへん申し訳ないのですが、青いお守りと替えてください」と頼むと、授与所にいた人は明らかに困惑し、こんな話をした。
「お守りには、一つ一つに神さまの魂が入っているんです。一度、お守りを誰かに授けると、もうその人にしかご利益はありません。ですから、もし、それを返してもらったとしても、こちらで神様の魂を抜いてから、燃やさないといけません。普通の商品と違って、“返品”ができないんですよ」
なるほど。
神の宿るものには、クーリング・オフという俗世間のルールは適用されないと。
横にいるアメリカ人に、「返品は無理っぽい。アキラメロン」と伝えると、彼女は困惑とやや怒りの感情を顔に浮かべ、面倒くさいことを言いはじめた。
「この赤いお守りをそこに戻しても、次に来た人は絶対に気づかない」という理屈は、神さまが見ているから却下。
神職にそんなお願いをしたら、「二度と鳥居をくぐるなじゃねえ!」とか怒られそう。
「これは母親用のお守りで、この中にいる神はまだ彼女と契約をしていない」という理論は、さっきよりはマシだけど、でも、そんなキリスト教的な考え方は神道には通じない。
「ちょっと待って。購入した人にしか効果がないってことは、お守りを他人にゆずることはできないってこと?」という意見については、ボクも同じ疑問を感じた。
結局、彼女はお守りを2つ買って、もう1つは誰かにあげることした。
すると、授与所の人は「それはこちらであずかります」と言って赤いお守りを受け取って、青いお守りを授けてくれた。
彼女はこの神対応に、「Have a nice day!」と笑顔で返す。
このアメリカ人は最後まで、日本の聖域をビックカメラや免税店と同じように考えていたらしい。
おまけ
この記事を書いていて、神社とお寺のお守りの違いを知った。
神社のお守りには「神さまの魂(心)」が入っていて、お寺のお守りには「仏様への祈り」が込められているらしい。
どっちも神聖なものが宿っているから、“返品”はできない。
2億円のトイレにはどんな魂が宿っているのか。
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