【鬼神信仰】19世紀の韓国で、英国人と日本人が感じたこと

 

韓国のある一族に奇妙なことが連続して起こり、男と女の呪術師(男巫と巫女)がその原因となっている鬼や悪霊を退治するーー。

そんな韓国の映画『破墓』がいま人気爆発中。
観客動員数はすぐに800万人を超え、1000万人突破は時間の問題とのこと。
モンゴル、台湾、アメリカ、オーストラリア、イギリスなどで公開されたり、これから公開される予定で、『破墓』が世界的なシンドロームを巻き起こすか韓国で期待が高まっているらしい。
では、この韓流オカルト映画の元ネタを探っていこう。

 

 

19世紀末、イギリス人女性のイザベラ・バードが朝鮮半島を旅行した。
西洋文化圏から来た彼女にとっては、朝鮮の人びとが鬼神の存在を深く信じ、日常生活で起こる不幸な出来事を鬼神のせいにしていることが印象的だった。

朝鮮人は自分を苦しめる災難をすべて鬼神のたたりに結びつける。取り引きの失敗、官僚の悪行、慢性・急性の病、貧困、地位や権力の失墜といったものは鬼神の悪意から生じるのである。

「朝鮮紀行 イザベラ・バード(講談社学術文庫)」

 

当時の朝鮮人は仕事で失敗したり、役人からワイロを要求されたりすることも、鬼神のしわざと考えていたらしい。
イザベラ・バードが「鬼神」と表現したこの存在は、日本で言うなら鬼、悪霊、妖怪といった人ならざるもの、つまり「怪異」のこと。

イザベラ・バードと同じころに朝鮮半島を旅行した日本人・本間九介も、朝鮮の人たちが生活を怪異(鬼神)にコントロールされていると信じていることに着目した。
当時の朝鮮には巫覡(ふげき)と呼ばれる呪術師がいて、民衆から怪異の相談を受けると、自分の体に霊や神を乗り移らせ、激しいダンスをして悪霊を祓ったという。

人の依頼を受けて、吉凶禍福を説き、悪鬼を払い、疫神を駆逐するなど、行なうもの をいうのである。(中略)逐魔駆疫の祈禱とは、依頼人の家を訪ねて、呪文を唱えながら、太鼓を鳴らし、踊り、あるいは舞い、正気に見えないような動きをするものをいう。

「朝鮮雑記――日本人が見た1894年の李氏朝鮮 (本間九介)祥伝社. Kindle 版」

トッケビも怪異(鬼神)のひとつ。

 

現代の韓国でも、鬼神信仰の影響は残っている。
悪霊などによって不幸なことが起こると考える人がいて、19世紀の巫覡(ふげき)に相当する「ムーダン」という、精霊をあやつる術師(霊能者)に助けを求めることがある。
彼らが行う儀式を「クッ」という。(巫俗
『破墓』 の元ネタがこんな韓国の民間信仰、現代でいうなら迷信だ。
この映画でもムーダン(らしき人)が出てくる。

キリスト教の考え方では、自分を苦しめる災難はすべて神の意思(怒り)に結びつける。病気や貧困、官僚の悪行などを鬼神のたたりとする朝鮮の鬼神信仰は、キリスト教の価値観では絶対に許されない。
イザベラ・バードは、これを発展途上国でよくある呪術的な行為と見ていたと思う。
19世紀末の日本はきっと朝鮮とイギリスの中間。
日本も病気を怪異のしわざと考え、おまじないで「治療」する考え方もあったが、オランダを通じて、ヨーロッパ医学の知識やテクを取り入れていた。この点が朝鮮とは決定的に違う。
1805年に外科医の華岡青洲(はなおか せいしゅう)が世界で初めて、全身麻酔を使って乳ガンの手術を成功させたことを忘れちゃいけない。
日本には迷信も先進医学もあったのだ。

【人類初】江戸時代の華岡青洲、全身麻酔薬を使った手術に成功

 

朝鮮で鬼神信仰が盛んだった理由として、本間九介は宗教の不在を指摘した。
14世紀、李成桂が仏教を国教としていた高麗を倒し、朝鮮王朝をはじめた。
朝鮮時代、仏教は徹底的に弾圧されたため、どんどん衰退していく。
仏教は都市部から追い出され、山間部など人里離れたところへ移動したから、今でも韓国でハイキングをするとよくお寺がある。
この時代、仏教に代わって儒教が信仰されたが、これは宗教というよりは中国の古典を学ぶ学問として発達し、社会的には秩序を守るための道徳や倫理として尊重されていた。

本間九介は朝鮮半島を旅行していて、日本へ仏教を伝えた朝鮮で、仏教の存在がほとんど消えていることに驚いた。
仏教を信じる者は愚か者とされ、僧侶が軽蔑されていることに彼は衝撃を受けた。
当時の日本人は朝鮮を「無宗教国」と呼んでいたという。
宗教的には空白地帯だったから、不幸なことは鬼神の悪意によって起こるという迷信が広がったのだろう。
当時の朝鮮で、キリスト教が急速に広がっている理由について、本間はこの無宗教状態を指摘した。

 

そんな朝鮮時代も遠くなって、現代の韓国では、この独特の民間信仰はオカルト・エンタメでフル活用されている。

 

ムーダン

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。