最近、知人のドイツ人と話をしていると、彼はことし日本へ旅行に来ることを考えていて、今はあることで悩み中だと言う。
それは、日本の友人にあげるお土産だ。
「ドイツにあるもので、日本人が喜びそうなものって何だと思う?」と彼に聞かれ、真っ先に頭に浮かんだのはビール&ソーセージ。
ちなみに、ドイツ語でビールはBier(ビーア)、ソーセージはWurst(ヴルスト)になる。
ドイツについて日本で有名なものと言えば、ほかにもバウムクーヘン、プレッツェル、ベンツやBMWなどがあるけれど、お土産でベンツやBMWの車をもらうというのは日本ではアニメの世界の話だ。リアル世界なら、アラブの富豪がやりそう。
お土産としてもらうなら、記念品として置いておくものよりも、おなかに収められるもののほうが良い。
ドイツで日本のサッカー選手が活躍すると、「スシ・ボンバー」と呼ばれたように、ドイツ人の中で日本のイメージといえば寿司が鉄板だ。
逆に日本ではどうか?
「ドイツをイメージするものは?」というネットアンケートの結果を見ると、堂々の一位はやっぱりソーセージだった。
*「スシ・ボンバー」という言葉に悪意は無く、ドイツでは称賛の気持ちが込められているのだろうけど、日本人を軽く見ているようにも感じられて微妙。
ドイツのビールとソーセージをもらったら、自宅でちょっとしたオクトーバーフェスト体験を味わうことができる。
で、その二択なら、ソーセージを推したい。
ビールと違ってソーセージには年齢制限が無いし、もしマズかったとしても「これが本場の味か」と考えれば日本人はきっと納得する。
そんな話をしていると、彼がドイツには「Es geht um die Wurst」という言葉があると言って、今まさにそんな状態だよと笑った。
あるドイツ人のクリスマスディナー
4月になると職場に新人が入ってくる。
そんな新人に似た意味の日本語に「新米」がある。
まだ仕事に慣れていない人を「白いお米(=何色にも染まっていない状態)」に見立てて、新米と呼ぶようになったという(異説あり)。
お米の国・日本にそんな言葉があれば、ソーセージ大国のドイツにも“らしい表現”がある。
その一つが「Es geht um die Wurst」だ。
ドイツ語でソーセージを「Wurst(ヴルスト)」と言うのはさっき書いたとおりで、「Es geht um die Wurst」を直訳すると「ソーセージが問題だ」といった感じになる。
なるほど、いやどんな問題だよ。
これは「今が正念場だ」という意味で、重要な決断や選択を迫られる場面で、ドイツ人は「Es geht um die Wurst」と言うらしい。
日本語で言えば、「勝負どころ」や「ここが山場だ」といったところか。
なんでそんな場面でソーセージが登場するのかというと、ドイツ人にとってソーセージはそれほど身近で重要な存在だったから。
昔、ドイツで祭りが開かれ、競争があるとその賞品はソーセージだった。貧しい人たちにとって、ソーセージはめったに食べられない憧れの一品で、みんな必死に争ったことから、重要な場面をこんな言葉で表すようになったという。
ドイツ人にとってソーセージは国民食だったから、それを使ったことわざはたくさんある。
ほかにも、「Das ist mir Wurst」という言葉があって、直訳すると「(私にとって)それはソーセージだ」となる。
意味は、他人にとっては価値の無いものでも、自分にはとても重要なものと、先ほどの流れから思ってしまいそうだが、じつはこれは「そんなこたぁ、どうでもいいだよ」という意味だ。
あるものごとについて、自分がまったく関心が無いときにそう言うらしい。
アントニオ猪木風に言うなら、「迷わず行けよ、行けば分かるさ」になる。
「Es geht um die Wurst」ではソーセージはとても重要なものになり、「Das ist mir Wurst」だと価値の無いものになる。
こんな表現からも、ドイツ人にとってソーセージがどれほど身近な食品であるかが伝わる。
ちなみに、日本の友人へのお土産にはソーセージが良いという案は、海外から日本へは、肉製品の持ち込みが禁止されているという理由でボツにされた。
肉を使った食品もダメだから、肉まんや餃子もNG。
ということで、彼のお土産はバウムクーヘンかプレッツェルになる予感がする。
最後にクエスチョン。
彼が言ってるのは、「Es geht um die Wurst」か「Das ist mir Wurst」のどっちでしょう?
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