日本在住ドイツ人の話:お寺の「卍」とナチスの「かぎ十字」

 

このまえドイツ人とインドネシア人と一緒に焼津さかなセンター、清見寺、久能山東照宮へプチ旅行に行ってきた。
2人とも日本の大学で学ぶ男子留学生。

今回は、このときドイツ人からきいた話を中心に書いていこうと思う。
テーマは「仏教の卍とナチスのハーケンクロイツ」について。

ちなみに前回までのはこれです。

日本在住ドイツ人とインドネシア人の話①地震・怖いもの・宗教

日本在住ドイツ人とインドネシア人の話②食事文化・物価の違い

日本在住ドイツ人・インドネシア人の話③道路・お茶・コーヒー

日本在住ドイツ人とインドネシア人の話④コンビニ・日本料理

 

日本のお寺に行くと、仏教をあらわす「卍」がよくある。

 

この卍はマークではなくて立派な漢字だ。

武則天の長寿 2 年(693年)、「卍」を「萬」と読むことが定められた。吉祥万徳の集まる所の意味である。これにより卍が漢字として使われることにもなった

卍・漢字

 

当時、唐で学んでいた遣唐使が仏教とともにこの卍を日本に伝えた。
日本で最も古い卍は、薬師寺にある薬師如来の手のひらと足の裏に描かれたものといわれる。
これは奈良時代のものだから、日本と卍の付き合いは1200~1300年になる。
さいきんは若い人たちによって「まじ卍」がつくられて、卍に新しい意味があたえられた。

 

小田原の忍者館に行ったとき、偶然この形になったのか卍をイメージしたのか知らないけど、忍者が使った手裏剣で卍型のものがあった。

 

話をドイツ人とインドネシア人にもどそう。
彼らと静岡市にある清見寺に行ったとき、こんな絵を見つけた。

 

「卍」を見たドイツ人が目を見開いて、信じられないような顔をする。
…ということはなく、彼は卍とナチスのハーケンクロイツ(かぎ十字)の違いを知っていたから、とくにおどろいた様子もない。

外国人をお寺に連れて行くと、この2つを混同して「えっ!マジで?」という顔をする人がときどきいる。
ハーケンクロイツは仏教ではなくて、ナチスという悪魔のシンボルだから。
でもはじめて「卍」を見たら、ハーケンクロイツとかん違いするのはふつうの反応で、「日本にいる外国人あるある」のひとつ。

 

ハーケンクロイツ(かぎ十字)

 

外国人(とくに欧米人)にとって、ハーケンクロイツが「人種差別のシンボル」になっているのは、これがナチス=ドイツやヒトラーを表すものだから。
ヒトラー率いるナチスは第二次世界大戦中、人類史上最悪の虐殺、ホロコーストをおこなった。

それについて高校世界史ではこうならう。

ホロコースト

600万人が殺されたと言われる、ナチス=ドイツによるユダヤ人虐殺のこと。この用語は「旧約聖書」に由来する。ユダヤ人絶滅を目指し、アウシュビッツなど各地の収容所で計画的に虐殺がおこなわれた

「世界史用語集 (山川出版)」

 

ユダヤ人という一つの民族を地上から完全に消すためにおこなったのがホロコースト。
これは「旧約聖書に由来する」と書いてあるように、通常の虐殺(マスカー)とは本質的にちがう。

 

このアウシュヴィッツ強制収容所では150万人以上のユダヤ人が殺害されたという。

 

連合軍が到着したときの収容所の様子

おびただしい数のユダヤ人の死体が放置されていた。

 

毒ガスで殺害されたユダヤ人

 

死体はここで焼却されていた。
上の画像は「NHK 映像の世紀 第5集」から。

 

このときいたドイツ人は今はもう何とも思わないけど、日本のお寺ではじめて卍を見たときは、息が止まるほどおどろいたという。

ドイツでは、ハーケンクロイツを公の場で見せることは法律で禁止されているのだ。
彼の知り合いのドイツ人が台湾で買った卍の飾り(バッジかステッカー)を身につけてドイツの街を歩いたら、みんなが注目して、なかには立ち止まって凝視した人もいた。
「卍はハーケンクロイツと違うから法律違反ではないけど、彼の行為には賛成できない」と不快そうに言う。

ナチスを象徴するものにはほかにも、ナチス式敬礼(ひじを伸ばして挙手する)がある。

 

学校でのナチス式敬礼、1934年

 

そのドイツ人の話では、ハーケンクロイツよりもナチス式敬礼のほうがいけない。
ドイツで中国人観光客がこれをやって捕まったという話をしたら、「あたりまえだ。考えられない」とあきれていた。

そのことはこの記事をどうぞ。

日本人も’挙手’に注意!ナチス式敬礼で中国人観光客がドイツで逮捕。

「卍」は仏教やヒンドゥー教の象徴で、「かぎ十字」はナチスや人種差別を表す。
見た目は似ているけど完全に別もの。
だから外国人に説明できるように、卍の意味とホロコーストの歴史については簡単にでも知っておいたほうがいい。

 

 

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4 件のコメント

  • 卍マークを指輪に入れていたインド人が「ナチスの仲間か?」と国際会議の場で疑われるシーンが、娯楽映画「アイアン・スカイ」にも出てきますね。なかなか際どいユーモアだと思う。
    左まんじマーク(卍)と右まんじマーク(卍の鏡像)の違いを説明するのはいいのですが、ハーケンクロイツの旗の場合はどうなっているのでしょう?必ず、同じ図柄2枚を貼り合せて旗にするのでしょうか?
    一方、日の丸は、単純で間違えようのないデザインの国旗であるところが素晴らしいですね。

  • アイアン・スカイの話は初耳です。
    面白いですね。
    向きの違いについては、次の記事で書こうと思います。
    旗については分かりません。すみません。
    日の丸はシンプルでいいですね。

  • オーストラリアからです。

    オーストラリアでも、誰かがゴルフ場のフィールドに右まんじと左まんじの両方をスプレーで落書きして、大きな問題になり、警察がバンダリズムということで犯人を探しています。

    多くのインド人がこの報道SNSでまされていたのをみて、「どういう意味だ、それは良い意味だぞ」という反応をしているようでした。

    日本では左まんじだけのようですが、インドでは右まんじも幸福の象徴らしく、両方を公式の場で、今でも良い意味として使われているようですね。

    この欧米諸国での卍まんじ問題、この先どうなって行くのでしょう。

    見届けたいです。

  • オーストラリア人ですか!
    日本語がめちゃくちゃ上手で驚きました。
    日本ではお寺の地図記号で「卍」を使っていますが、外国人がそれを見たらビックリするかもしれません。
    それで、本当はことし行われるはずだった東京オリンピックでは、誤解のないように外国人用の地図には卍ではなくて別の記号になっていました。
    卍は少林寺拳法のマークでしたが、欧米人に誤解をあたえないように別デザインに変わりました。
    卍を見せて、正しい意味を伝えて誤解を解くことが大事だと思いますが、いまは「見せない」ようにしているみたいです。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。