伊勢神宮の神聖 日本文化の好きな外国人が感心したこと

 

江戸時代が終わり、新しい時代の天皇となった明治天皇には「初めて」がたくさんあった。
前回、そんなことを書いたのですよ。

太平洋と富士山を見て、伊勢神宮に参拝した初めての天皇

今回はそのスピンオフで、伊勢神宮の「神聖」について書いていこう。

 

さっそく何だが、伊勢神宮の正式名称をご存知だろうか?
答えは「神宮」だ。
天皇の先祖(皇祖神)である天照大神(アマテラス)を祭った伊勢神宮は、全国の神社の中でも別格で、特別重要な神社とされている。

これまでに、アメリカ人、ドイツ人、インド人などの外国人を京都の嵯峨野にある野宮神社へ連れて行ったことがある。
彼らに感想を聞くと、ドイツ人は「苔が緑のカーペットみたいですてきだね」、アメリカ人は「なかなか良いと思うよ」と言う。
アメリカ人のこの感想は、言い換えるときっと「特に興味ない」になる。
でも、伊勢神宮の神聖性を知ると、彼らの見方が変わった。

 

緑のカーペット

 

「カメ? これがカメなの?」と外国人を驚かせた野宮神社の亀石

 

平安時代、伊勢神宮には「斎王(さいおう)」と呼ばれる巫女がいて、アマテラスさまに奉仕していた。
古代、アマテラスは宮中に祭られていたが、崇神(すじん)天皇が娘の皇女に命じ、御神体であるアマテラスを外へ運び出し、大和国に祭らせた。
日本書紀にそんな記述があり、それが斎王の起源になったとされる。
賀茂神社(下鴨神社と上賀茂神社)に奉仕した皇女も斎王と呼ばれていて、分かりやすくするため、伊勢神宮の巫女を斎宮(さいぐう)、賀茂神社の巫女を斎院(さいいん)と呼ぶこともある。
ここでの斎王は伊勢神宮の巫女を指す。

ちなみに、初期の天皇は伝説上の人物で、それがいつから、実際に存在した天皇になったのか明らかにされていない。
崇神天皇を実在した最初の天皇とする見方があり、もしそれが本当なら、3世紀後半から4世紀前半だったと考えられている。

 

斎王はアマテラスの意思を受ける依代(よりしろ)となって、伊勢神宮で奉仕していたとされる。
新しい天皇が即位すると斎王も役目を終えて、別の皇女が新しい斎王となり、伊勢神宮へ行っくことになっていた。
その選定方法は、まず未婚の皇女たちを選んだ後、カメの甲羅を火であぶり、できたヒビによって占うやり方で斎王を決定するというもの。
尊い神に奉仕する女性は、それにふさわしい状態にならないといけない。
新斎王に選ばれた女性は宮城内の特別な場所で1年間暮らし、心身の穢(けが)れを徹底的に払い、最高に清らかな状態にした。
それが終わったら、すぐに伊勢神宮へ向かうというわけではない。「浄化作業」はまだあった。

その後、京都の郊外にある清浄な地(嵯峨野が有名)に野宮(ののみや)が作られ、斎王はそこでさらに1年間過ごし、心身を一層ピュアな状態にした。
彼女はそこで俗世間とのつながりを絶ち、質素な食事をして、禁欲的な日々を過ごしていたと思われる。
合計2年間ほどそんな生活をして、自身の心身を最&高に清浄にした後、ようやく伊勢神宮に向かうのだ。
野宮も神聖な場所で、穢れはタブーとされたから、朝廷が新しい斎王を伊勢神宮へ送ると取り壊された。

野宮の跡地とされる場所に建てられたのが嵯峨野の野宮神社だ。
この神社の鳥居は黒木(皮のついたままの木材)で作られていて、黒木の鳥居は野宮の象徴とされている。
現在でも、天皇が即位する儀式「大嘗祭(だいじょうさい)」が行われる場所の入口には黒木造りの鳥居が使われている。

 

 

平安時代、天皇の代わりとして、斎王と呼ばれる巫女が伊勢神宮に仕えていた。
彼女たちは皇女で、伊勢へ行く前に身を清めたところがこの野宮神社だと説明すると、外国人の目が輝く。
ここをただの観光スポットとして見ると、ハッキリ言ってあまり魅力は無く、写真を数枚撮ったらそれで終わり、というような場所だろう。
でも、その背景を知ると、「伊勢神宮で仕事をするために、2年間かけて穢れを落としていたのか! そう聞くと、ここに興味がわいてきたな」と言って、黒木の鳥居の写真を撮り始める外国人もいた。
伊勢神宮に行ったことのある外国人は、「日本人が伊勢神宮を神聖視していたのは知っていた。けど、まさかそこまでとはね。ここと伊勢神宮に、そんなつながりがあったというのもおもしろい」と感慨深そうに言う。

ただ、これは日本の歴史や伝統文化に興味のある外国人限定で、そうしたことにまったく関心の無い外国人だと、反応はとてつもなく薄くて冷たい。
映える写真を撮ることが好きなベトナム人は、せっかくこっちが説明をしても容赦なくつまらなそうな顔をしていたから、野宮神社へ連れてきたことを後悔した。
そういう人たちはここを飛ばして、トロッコ列車に乗せた方がいい。

外国人に斎王について話すと、彼らの持っている知識と反応し、話が広がることもある。
斎王について知ったアメリカ人は、

「巫女が神々に仕えるという発想は西洋にもある。有名なのはアポロン神に使える巫女だ。穢れのない処女が選ばれ、その巫女が伝えた言葉が『デルフォイの神託』になる」

と話す。

古代ギリシア時代、デルフォイにあったアポロン神殿は最高の聖地とされていた。
「汝(なんじ)自身を知れ」という有名な言葉は、この神殿の入口に掲げられていたもの。
アポロン神に仕えていたのがピュティア(Pythia)と呼ばれる若い女性で、この巫女がアポロン神の意思を人びとに伝える役割を果たしていた。
『デルフォイの神託』は絶対的だ。
これによって、戦争を行うかどうかなど重要な決定がくだされ、すべてのギリシア人がそれに従った。
例えば、ペルシア戦争の際、アテネ市民はこの神託によって対応を決めた。

ピュティアに「処女である」という条件があることには、アポロン神と「結合する」という意味がある。でも、実際には、そうではない女性もいたらしい。
その延長かしらんけど、野宮神社でドイツ人はこんなことを言う。

「アマテラスは女神だろ? それなら巫女よりも、若い男性の方がよかったんじゃね?」

誰が知るか。

 

三脚イスに座るピュティア

 

 

宗教 「目次」 

日本 「目次」

日本の技がユネスコ無形遺産に!外国人が驚く神宮の式年遷宮

黒人のアメリカ人女性と伊勢神宮へ!感想とキリスト教との違い

伊勢神宮で日本人を怒らせること 森有礼とイスラム礼拝所

 

コメントを残す

ABOUTこの記事をかいた人

今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。