日系インド人の眼 日本の多文化共生で重要なことは?

 

日本にとっての“今そこにある危機”、それは少子高齢化が進んでいき、近い未来に労働者が絶対的に不足すること。税収が減少して、医療や介護に必要な費用が増加すれば、一般国民は現在の水準の生活を維持できなくなる。
そこで、インド出身で帰化して日本人となり、今は有名菓子メーカーのCEOをしている人物が「日本は移民の受け入れを拡大するべき」と主張した。日本が再び高度経済成長を実現するには、さらに多くの移民を受け入れること以外に選択肢はないという。しかし、この発言はネットで大炎上し、そのメーカーの株価を直撃した。

いま日本が人口減少&人手不足のコンボ攻撃を受けているのは知っていても、いきなり「移民を増やせ!」という発想には国民がついていけなかった。ただ、日本の各産業で外国人労働者が必要とされ、その数は年々増加している事実は誰も知っているはず。
今回は、日本女性と結婚して日本国籍を取得し、高校生の子どもを育てているインド系日本人から見た、「日本の多文化共生で重要なポイント」について書いていこうと思う。

 

ーー知り合いのアメリカ人の大嫌いな日本語は「出る釘は打たれる」。
日本の社会では「浮く人」が嫌われるから、周囲に配慮して、打たれないように出る賢い釘を目指したほうがいい。学校では、外国人と日本人のハーフの子は目立つから、いじめの被害を受けやすいと聞いた。

ハーフの子を持つ親と話す機会は多いけど、いじめについてはケースバイケース。クラスのほかの子と肌や髪質が違うことが理由で、いじめのターゲットにされることもあれば、外見に関係なく、本人の性格に問題があっていじめられることもある。

ーーつまり、可能性もハーフだと。

うまいこと言うね、って言えばいいの?
もちろん、どんな性格や考え方をしていても、それはいじめをしていい理由にはならない。でも、日本人にも起こることを「外国人差別だ!」と言って、学校を非難するのは間違っている。

ーーで、あなたの子どもの場合はどうだった?

いじめなんて全然なかった!
それどころか、ウチの娘は日本で生まれ育ったから、日本人と同じレベルで日本語を話すし、しっかり者で英語も話せたから、小中高を通じて何度もクラスの代表に選ばれたり、友だちから「先生」と呼ばれたりしていたよ。

ーーそれは意外だな。
日本のマスコミ報道では、日本の社会は同調圧力が高くて、ハーフの子どもはいじめられやすいから、日本人がもっと寛容になったり、多様性を尊重したりしないといけない、といったものが多い印象があったのだけど。

たしかにそういう場合もあるから、ケースバイケースなんだ。多文化共生のためには、日本人が異なる文化を理解して、外国人も日本のマナーや常識を守る努力をしないといけない。
ただ、一部には必要以上に文句を言う外国人がいる。あれだと、日本人は「外国人の親やハーフの子どもは面倒くさい」と言わなくても、きっと心の中で思うから、そういう態度はほかの外国人を生きづらくしている。

 

インドでは国全体の公用語としてヒンディー語があり、それとは別に15以上の州の公用語がある。

 

ーー日本は外国人と共存する多文化共生がうまくいってなく、欧米先進国に比べたら周回遅れで、「後進国」と言う人もいる。

それはそうでしょ。
アジアを見ても、シンガポールに比べて日本は遅れている。でも、日本がアメリカやシンガポールになる必要はない。それは不可能だ。

ーーというと?

インドはさまざまな民族がいる多民族国家で、紙幣には15以上の言語がある。
アメリカは移民大国で、白人、黒人、アジア人などの人種、キリスト教、イスラム教、無宗教の人たちが住んでいる。
シンガポールはアメリカに近く、イギリスの植民地時代に、中国人やインド人などたくさんの外国人労働者がやってきて成立している。
背景はそれぞれ違っても、アメリカ・インド・シンガポールはもともと多民族国家だった。それに対して日本は?

ーー日本は成立した時から島国で、江戸時代には「鎖国」政策をして外国人が来ることを禁止した(例外あり)。歴史的には、外部からの人の流入がほとんどなかった。

だろ?
今の日本は国民の95%以上が日本人で、そんな同質性の高い国と多民族国家ではスタートラインがまったく違う。それで同じゴールを目指すのは無理がある。
日本と欧米の社会の違いを無視して、同じ基準を当てはめて、「日本は遅れている」と指摘するのは馬鹿げている。

ーー昔から日本人は「世界に比べて日本は〜」という言い方に弱い。これも、「みんなと同じにならなきゃ!」という「出る釘は打たれる」の精神の表れだろうけど。

日本では「郷に入っては郷に従え」の考え方がすごく大切。だから、アメリカやヨーロッパの国のやり方や制度を参考にすることは良くても、同じになろうと努力する必要はない。

ーー日本は、日本に合った独自の多文化共生社会を目指すべきだと。そもそも、「欧米との違いは間違い」という指摘が多様性に欠けている。

そうだよ。
日本に文句を言う外国人はたくさんいる。でも、その多くはただのワガママだ。自分が怒ったり不満を言ったりすれば、まわりがそれに合わせて変えてくれると考えている。だから、「日本が嫌ならインドへ帰ったらいい」と言うと、いろいろな言い訳をして絶対にそうしようとしない。日本は恵まれた国だからね。

 

本日のまとめ

歴史的に見ると、日本人の学習能力の高さは際立っている。
古代には遣隋使や遣唐使が中国へわたり、先進的な文化や制度を学び、帰国後にそれをいかして日本を発展させた。近代では明治維新の時、欧米の進んだ政治制度や新しい価値観や考え方を日本語に訳して導入し、アジアでは初の近代国家となり、第一次世界大戦後には世界五大国の一国にまで成長した。
日本人の学習能力は、控えめに言っても世界史レベルで高い。
しかし、多文化共生については、もともと多民族国家だった国とは前提が違いすぎるから、同じ状態になることを目指してはいけない。日本に合った多文化共生は、これから日本人が外国を参考にしながら独自に創造していく必要がある。

 

余談

今回登場した日系インド人は、シンガポールでは大学で必要な学費が自国民より外国人のほうが高いことを指摘し、日本では逆に、自分を含めた国民が多くの税金を払い、留学生には安く、または学費を無料にして教育していると不満を言っていた。
ヨーロッパの大学でも外国人より、EU加盟国の永住権を持つ人を優遇することがある。
日本もこの点で外国を見習ってみては?

 

 

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2 件のコメント

  • まず最初に、出るのは釘ではありません。正しくは「出る杭は打たれる」です。昔はいろはかるたか何かで見たような気がしたのですが・・・。打たれてばかりだった自分はこの警句を間違えることはありません。

    > 日本では逆に、自分を含めた国民が多くの税金を払い、留学生には安く、または学費を無料にして教育していると・・・

    これも一種の、「ホワイトカラーの外国人労働者を増やすべし」とする国家政策の一環でしょうね。

    労働力不足に対して「外国人労働者を増やす」という政策が進められているのは当然ですが。それ以外に、日本社会はもう一つの対策である「ロボット化・自動化」を強力に推し進めつつあります。
    たとえば回転寿司レストランなんかどうですか? 順番待ちチェックインは店のPCで、注文はタブレットで、注文品が届けば「まもなく届きます」とLCDから警告、最後の支払いはセルフレジで。店に入ってから出るまで一人も人間の店員とは会わない場合だってあります。
    おそらく、これほど「ロボット化・自動化」が進んでいる国は他にないでしょう。このままだと本当に「ブレードランナー」や「マトリックス」のような世界になりそうで、ちょっと怖いです。

  • 「出る釘は打たれる」ですが、これを誤りとする辞書もある一方で、大辞林や広辞苑や大辞泉では「出る杭は打たれる」と両方を載せています。
    今の日本人には杭より釘のほうが分かりやすいかな、と思ってこちらにしました。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。