イラン女性とヒジャブ 「着けろ→脱げ→着けろ」の歴史

 

日本のマンガ界では、ざこレベルの悪人がこの世からサヨナラする時は「ヒデブ」と言うことになっている(たぶん)。
一方、イスラム世界では、女性は「ヒジャブ」という布で髪を隠すことがお約束だ。
ヒジャブは「覆うもの」を意味するアラビア語で、英語なら「veil(ベール)」になる。
イスラム教の聖典コーランに「美しいところを他人に見せてはいけない」といった記述があるため、女性たちは外出する際にはヒジャブで髪を隠すことになっているのだ。
ただ、細かい解釈は国や個人によって違っていて、知人のイスラム教徒のバングラデシュ人女性のなかにもヒジャブをする人と、それをしないで髪をさらす人がいる。

このヒジャブの扱いをめぐって、「着けるのかい? 着けないのかい? どっちなんだい?」と混乱が広がっている国がある。

 

イスラム教には、預言者ムハンマドが地獄を訪れると、他人に髪を見せた「恥知らずな女性」が罰として火に焼かれているのを見たという話がある。

 

イランではヒジャブの着用が法的に義務づけられていて、昨年12月には、それが“パワーアップ(厳罰化)”された新しい法律が施行されることになっていた。それによると、何度も違反した女性には最大で15年の禁錮刑が科される可能性があったが、国民の反発によって法律の施行が延期された。
このニュースに日本のネット民はこう思った。

・未だにヒジャブとブルカの違いを覚えることができない
・一方スイスでは公共の場で被るのが違法になった
・宗教の目的がわからない
・そろそろイランはひっくり返りそうだな
・宗教を日本に持ち込むのだけは勘弁
・宗教的な価値観でやっていたと思ったら法律だったのね

日本人は基本的に宗教に対して寛容(≒関心がない)だから、宗教の教えで服装や日常生活のルールを決められることには抵抗を感じる人が多い。

 

イランでは2022年に20代の女性マフサ・アミニさんが、政府が定める基準でヒジャブをしていなかったことを理由に道徳警察に逮捕され、その後死亡した。多くの国民が「警察が彼女を殺した」と考え、全国的な抗議行動が発生し、300人以上が死亡したとされる。
Deaths during the Mahsa Amini protests
2024年12月には、有名な女性歌手パラストゥ・アフマディさんがヒジャブを着けないでコンサートを行い、逮捕された。
2年前のように全国的なデモが起きて、数百人が死亡するような事態を招くわけにはいかないから、イランはヒジャブ着用をより厳格にする新法を施行することができなかったのだ。

 

女性が髪をさらしたまま街を歩くと警察に逮捕され、最悪の場合、15年も刑務所で過ごさなければならなくなるーー。
昔のイランはこんなに厳格なイスラム社会ではなく、むしろユルかった。
戦前のイランの皇帝(シャー)だったレザー・パフラヴィーは、明治維新の日本のように西洋を参考に国の近代化を目指し、女性の社会進出を後押しするために、1936年の今日1月8日にヒジャブの着用を禁止する宣言をおこなった。
そんな彼の政策を「キャシュフェ・ヘジャーブ」という。

彼はヒジャブを着用していない女王と二人の娘を連れて、テヘランの大学の卒業式に出席する。イランの女王が髪をさらして公の場に姿を現したのは、これが初めてのことだったから、国民は大きな衝撃をうけた。
その後、レザー・パフラヴィーはベール(ヒジャブ)をしていない妻と娘たちの写真を公開し、イラン全土で女性に対してそれを脱ぐことを強制した。

Afterwards, the Shah had pictures of his unveiled wife and daughters published, and unveiling enforced throughout Iran.

Kashf-e hijab

 

シャー(皇帝)のこんな考え方から、警察は街中でヒジャブをつけている女性を見つけたら、それを脱がせるようになった。

 

皇帝と妃と2人の王女の写真(1936年1月8日)

 

しかし、1978年にイラン革命がぼっ発すると、天地がひっくり返った。
欧米寄りだったパフラヴィー朝が倒されて、イスラム法学者のホメイニー師を最高指導者とするイラン・イスラム共和国(現在のイラン)が成立すると、イランは欧米から距離を置き、イスラム法が適用されるイスラム国家となる。
イスラム教に厳格な人たちは、ヒジャブをしないと男性に性的な刺激を与えることになり危険だから、女性を守るためにヒジャブを身につけるべきだと主張し、ヒジャブ着用も復活した。

 

「おいイラン、ヒジャブを着けるのかい? 着けないのかい? どっちなんだい?」ということについては、1936年に着用が禁止されたが、78年のイラン革命でそれが否定され、現在では一周回って女性のヒジャブ着用が義務付けられている。
イスラム教の教えははるか昔から変わっていないのに、イランでは政治のトップが変わると、国民にヒジャブを取るように命じたり、法律で着けるようにしたりとコロコロと変わっている。
ヒジャブの扱いをめぐって、これほど揺れの激しい国はイラン以外に知らない。

 

 

 

中東 目次

イスラム教 「目次」

イランの基本情報・日本との関係・日本好き/親日国の理由

親日的イラン人の話 日本語や日本人、文化や歴史について

イランの英雄アーラシュと台湾の五輪選手が日本で話題のワケ

 

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