【倭寇の略奪】100年以上前から韓国社会にある日本への偏見

 

「ほっとしている」
「こんなに立派なお顔をされていたんだなと思った」

2012年、韓国の窃盗団が観音寺から、数億円の価値があるとされる仏像を盗み出したことで、日韓を揺るがす騒動が始まった。
窃盗団はすぐに韓国で捕まり、仏像も押収された。
聖書に「カエサル(皇帝)のものはカエサルに、神のものは神に返しなさい」と書いてあるように、すぐに観音寺へ返還されていたらこの件はそれで終わりだった。
しかし、すぐには日本に返されなかった。韓国の浮石寺が「この仏像は高麗時代に倭寇(わこう)によって略奪され、日本に持ち込まれた」と主張したことで事態は一変し、仏像の所有権をめぐる裁判が始まったのだ。
これは単なる窃盗事件を超え、外務省が「速やかに返還が行われるように韓国政府に引き続き求めていきたい」と発表するほどの外交問題へ発展し、日韓関係は悪化した。

裁判では、一審で浮石寺に所有権があると認められた。しかし二審では判決が覆され、最終的には2023年、韓国の最高裁判所が観音寺に所有権があると確定させた。しかし、なぜか仏像は対馬に戻ってこないため、元住職の田中さんが韓国に行き、返還手続きをおこなった。
田中さんは久しぶりに仏像と対面し、「こんなに立派なお顔をされていたんだな」と感慨深く語った。
仏像はことしの5月に対馬に戻る予定だ。

 

しかし、この一件が日韓に残した傷跡はまだ癒えていない。特に日本では韓国に対する不信感が広まった。
2025年は日韓国交正常化 60周年にあたり、国立中央博物館では日本にある韓国の美術品を展示する計画があったが、事件の影響でその実現が危ぶまれているという。

朝鮮日報の記事(2025/01/27)

日本側は「大法院で判決が確定した対馬の仏像も返還されないようでは、韓国に由来する国宝や重要文化財の貸与は難しい」との考えを示し、展示の実現は難しい状況だという。

2012年に韓国の窃盗団が盗んだ対馬の仏像、13年ぶりに日本に返還

 

本来、盗んだものはすぐに持ち主へ返すべき。その後で、不法に持ち出されたかどうかを調べればよい。これが常識的な判断で、最高裁まで争う問題ではなかった。しかし、浮石寺の「倭寇に略奪された」という主張が韓国国内の“反日感情”に刺さり、事態を複雑にした。

全国紙の中央日報は今回の一件をこう報じている。(2025.01.17)

略奪された高麗の仏像、韓国に持ち込まれたが…日本に所有権引き渡し

中央日報は「略奪された」とこの事件を報じたが、裁判でその主張は認められなかった。それに、朝鮮日報が明記した「盗んだ」という重要ワードが無い。しかし、国民感情としてはこの表現の方が正しく、「悪いのは日本で、韓国は被害者」と感じている人は多いと思う。
ちなみに、倭寇とは 13〜16世紀に活動していた海賊のことで、日本人だけでなく高麗人や中国人も含まれていた。

仏像の所有権を韓国の寺に認めるという「トンデモ判決」が下されたのは、相手が日本だったからだ。アメリカで同じことが起きた場合、そんなことにはならなかっただろうと朝鮮日報が社説で主張している。(2023/02/03)

窃盗犯が米国からそんな仏画を盗んできても「韓国の物だ」という判決を下す判事がいるだろうか。相手が日本なら、どんな強引な判決を下しても「愛国」判事として扱われるのだろうか。

日本から盗んだ盗品を返さなかった10年、被害を受けたのは韓国だ

 

韓国が「被害を受けた」というのは、国際社会で韓国が「盗品すら返さない国」と見なされたことを指す。韓国は K-popや韓流ドラマの成功によって、世界的な知名度と名声を得たのに、「他国の文化を尊重しない」というイメージは大ブーメランになる。
しかし、最終的には戻ってくることになったから、対馬の観音寺は、落ち着いたら浮石寺と合同で法要をおこない、わだかまりを越えて「末永く仲良くしていきたい」と話している。
つまり、観音寺サイドとしてはノーサイドにしたいらしい。
そうすれば、今回の一件で生まれた日韓の溝を埋めることはできるかもしれない。ただ、できればこれをきっかけに、韓国社会に 100年以上前からある日本に対する偏見も無くしてもらいたい。

 

19世紀の終わりごろ、本間 九介(きゅうすけ)という日本人が朝鮮半島を旅行し、その体験を新聞に書いた。彼の旅行記『朝鮮雑記』によると、当時の朝鮮では「倭寇の害は、壬辰の役( 文禄の役)以上に残酷であった」と言われていた。
そのため、国内で貴重な文化財が盗まれると、それを倭寇のせいにする風潮があった。本間はその背景をこう推測している。

「国内で盗難や横流しがされた場合も、倭寇の責任にしておけば、追及がされにくいという心理はあったにちがいない」

21世紀になった現在でも、はっきりとした証拠がなくても相手が日本なら、「倭寇に略奪された」という説が通用してしまう。日韓の絆を深めるためにも、「愛国」判決で韓国自身がダメージを負わないためにも、こんな偏見はぜひ改善してほしい。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。