最近何度か書いていることだけど、今回もロヒンギャ問題について。
これも前に書いたことと重なってしまうのだけど、まずはにロヒンギャ問題について簡単に説明させてほしい。
「それは見たからもういいや」という人は先に進んでください。
飛行機から見たミャンマーの大地の写真があるので、そこからどうぞ。
たまたまフェイスブックでこんな投稿を見た。
日本にいるバングラデシュ人かロヒンギャの人が投稿したのだと思う。
今日本には、200人を超えるロヒンギャがいるから。
特に群馬県の館林市に多くいる。
この「Muslim in Burma(ビルマにいるムスリム)」とは、ミャンマーにいるロヒンギャと呼ばれるイスラーム教徒のこと。
彼らは「ミャンマー政府は、イスラーム教徒(ロヒンギャ)を殺すのをやめて」とうったえている。
そのロヒンギャとはこんな人たち。
・バングラデシュとの国境に近いミャンマーのアラカン州で生活していた(今もしている)。
・ミャンマー人のほとんどは仏教徒でロヒンギャはイスラーム教徒。
彼らは民族や宗教の違いから、ミャンマー政府から迫害を受けていた。
そのため、国外に逃げ出すロヒンギャが続出し、日本にも来た。
・2009年の時点で、ロヒンギャはミャンマーに約80万人いて120万人が世界各国に逃れ出ているという。
これは「2009-08-29 朝日新聞 夕刊 2社会」の内容をまとめたもの。
ピンクのところがアラカン州(ウィキペディアから)
ロヒンギャはどんな迫害を受けているのか?
ミャンマーで今、彼らは「存在することを許されない」という危機的な状況にあると見られている。
AFPの記事(2017年02月04日)から。
国連(UN)は3日、ミャンマー軍によるイスラム系少数民族ロヒンギャ(Rohingya)に対する弾圧で数百人が死亡した恐れがあると明らかにした。子どもの虐殺や女性の集団性的暴行などの証言もあり「民族浄化」ともいえる状況になっている恐れがあるという。
(中略)国連は、ミャンマーで「人道に対する罪」が行われている可能性が「極めて高い」としてミャンマーを繰り返し批判しており、今回の報告書でも同様の非難がなされている。
8月にもロヒンギャの武装勢力とミャンマー軍との間で大規模な戦闘があって、500人近い死者を出している。
ミャンマー軍はロヒンギャの武装勢力をテロリストと呼んで、殲滅をはかっている。
その中で一般のロヒンギャたちが殺されているという。
ただ、ミャンマー側はロヒンギャの側がミャンマー人を殺害していると主張する。
フランスのAFPの記事から。
無国籍状態のロヒンギャの人々は、横行する虐殺はミャンマー軍と仏教徒の暴徒によるものだと非難している。一方、ミャンマー政府はロヒンギャの武装集団が自ら村に火を放ったり、ミャンマー軍への協力が疑われる民間人を殺害したりしていると非難している。ラカイン州は立ち入りが極めて制限されているため、証言の立証は困難だ。
「証言の立証は困難」と書いてあるように、アラカン州で今何が起きているのかハッキリとはわからない。
だれが被害者で加害者なのか?
ミャンマーとロヒンギャの側の双方に被害者と加害者がいる。
そしてジャーナリストがラカイン州へ立ち入ることは本当に限られている。
こうした事情から、今のラカイン州の様子が正確に伝わってこない。
それでも、見えてきた部分もある。
上の記事に、「ミャンマー政府はロヒンギャの武装集団が自ら村に火を放った」と書いてあった。
「村に火を放った」というのは間違いのない事実だ。
ロヒンギャがいた村は燃やされてしまい、人びとはそこに住むことが不可能になった。
それでバングラデシュに大量のロヒンギャが逃げこんでいる。
そうした避難民は30万人近い。
そのことをイギリスのBBCが伝えている。
8月25日にラカイン州でムスリム武装勢力が多数の警察施設を襲撃したのを機に、治安部隊や警察からの暴力を逃れて約29万4000人のロヒンギャが隣国バングラデシュへ避難した。
「村に火を放った」というのは間違いのない。
でも、だれが火を放ったのかはわからない。
このBBCの動画を見ると、ロヒンギャの村を燃やしているのはロヒンギャの武装集団ではなくて、ミャンマー側の人間となっている。
このイギリスのニュースについて、日本のネットではこんなコメントがあった。
本当は欧州列強に他国を批判出来る国なんか無いんだけどなw
あいつらの方がよっぽど悪どい事をやってた訳で
イギリスが責任を取って引き取ればいいんじゃないかな
イギリスがこれをどんな風に報道するのかな?と思っていたが…なんか他人ごと?
ロヒンギャ問題について日本のネットでは、ミャンマーだけではなくてイギリスの責任を問う声がけっこう多い。
実際、ロヒンギャ問題の歴史をたどるとイギリスの姿が浮かんでくる。
高校で世界史をとったら、ビルマの「コンバウン朝(1752~1885)」について習う。
これはビルマの歴史上、最大最強の王朝だった。
アラウンパヤーが建てたビルマ最後の王朝。タイのアユタヤ朝を破り、雲南を巡って清も撃退するなど、ビルマ史上最大の版図を実現した。
「世界史用語集 (山川出版)」
でも、イギリスとの3度の戦争(英緬戦争:えいめんせんそう)に敗れ、コンバウン朝は滅亡する。
1885年から、ビルマはイギリスの植民地だったインド帝国の一部になってしまう。
でもその前、2度目の英緬戦争のときに、ビルマは今のアラカン州をふくむ下ビルマをイギリスにとられていた。
上の地図のピンクのところが下ビルマ(ウィキペディアから)。
今のアラカン州がこの中にはいっている。
イギリスが下ビルマ(アラカン州)を支配下においてから、そこで何が起きたのか?
ビルマ研究者で上智大学の教授でもある根本敬氏はこう書いている。
するとベンガル側から大量のムスリムがこの地に戻り、また新しく移住を開始する者も増え、彼らは数世代を経て定住するに至った。こうした急激な移民の流入は、とりわけ北部ラカインに住む仏教徒とムスリムとの共存関係を崩してしまうことになった。
ここではベンガル側のムスリム(イスラーム教徒)がラカインに移住してきた、と書いてある。
でもそれだけではなくて、イギリスが積極的にイスラーム教徒をこの地に移住させた可能性もあると思う。
イギリスが植民地を統治するときには、「分断統治」がお約束だから。
小さなイギリスが広大で人口の多いインドをどうやって支配していてのか?
その大きな理由が、分断統治が”成功”していたからだ。
インドのヒンドゥー教徒とイスラーム教徒を分断し、対立させることでイギリスはインド全土を支配することができた。
この分割統治という統治方法は、広大な領土を持つ帝国においてたびたび用いられた。また後にはイギリスは殖民地インド統治において分割統治によって現地人の反植民地運動の一本化を阻害しようとした。
新しく植民地に組み込んだ下ビルマでも、イギリスはこれをしたように思う。
ここには仏教徒が多くいた。
だからそこにイスラーム教徒を入植させて、対立するようにした。
支配者にとっては、支配地域の住民が1つにまとまって敵対されることが一番おそろしい。
それをさせないためには、敵を分断させることがとても有効だ。
イギリスはそれがとてもうまい。
この共存関係の崩壊が今のロヒンギャ問題につながる。
この問題の元をたどって見えてくるのは、イギリス帝国主義の影だ。
そのことから、先ほどのネットのコメントが出てくる。
「イギリスが責任を取って引き取ればいいんじゃないかな」
「イギリスがこれをどんな風に報道するのかな?と思っていたが…なんか他人ごと?」
ネットを見ていると、「みんないろいろ知ってるなあ」とよく感心する。
ヤンゴン
フェイスブックで「ミャンマーはイスラーム教徒(ロヒンギャ)を殺すのをやめて」とうったえる人がいれば、同じくフェイスブックで「アウンサンスーチを支持します!」とうったえるミャンマー人もいる。
おまけ
ヤンゴンにあるシュエダゴン・パゴダ
日本の仏教寺院とはぜんぜん違う!
こちらの記事もどうですか?
日本人だから知ってほしい。ロヒンギャ問題とは?群馬には200人。
「民族浄化」のロヒンギャ問題①沈黙のスーチー氏にローマ法王も圧力。
この国際的問題の記事は良いが、
記事で肯定的に言う「ネットのコメント」には、社会的立場の無い属性に否定的な目を向けるだけで対象への社会環境状況を偏見の有る論理で否定し、問題を固定化する厳しい言論が無責任に
好まれている側面もある。
個人に起きている状態を可視可する記者記事にはそれ自体に価値があるのに対象に同情的だとして取材しに行った記者を批判する人もネットにはやたら多い。
国際的問題の記事のロヒンギャ問題に関しては
メディアが片方の勢力の被害を報道して争いを煽るのは問題だが、人権破壊が起きている状態を容認出来る論理にはならない
なるほど。よく分かりました。
一昨日ビルマから帰って来ました、
10日ほどの旅でしたが、普通に社会に溶け込んでいるムスリムみたいな人もいたので
単純にムスリムの弾圧とかでは内容に見えました。
そうなんですか!
溶けこんでいるのならいいですね。
ボクがヤンゴンのガイドから聞いた話では、ムスリムとは壁があるようでした。
でも、ロヒンギャ問題は解決がむずかしいですね。
世界の難民はアメリカ、ロシア、イギリス、フランスが全ての責任を取ればいい
列強諸国と呼ばれた各国が植民地から旨い汁を吸い上げてきた負債を無関係な国が何故尻拭いしなければならないのか
それでも難民が可哀想だ受け入れるべきだと言う人は、自分の私財で自分の敷地内だけで受け入れてくれ
少なくとも自分の影響が出る範囲内に受け入れてくれ
口だけだすが自分が被害を受けるのは嫌だと言うのは絶対なしだ
自分の良心の呵責や自己満足で他人に被害を出さないでくれ
確かに可哀想だと思うが、俺は家族友人知人の安全の方が遥かに優先だ
朝鮮半島からの難民にたいしては、日本がある程度引き受けないといけないでしょうね。
日本政府は「引き受けるかどうか?」ではなくて、「どう受け入れるか?」を考えています。
「武装難民はどうするか?」という議論はその1つです。
難しい問題ですね。
まぁ分断統治というのもあるが、
傀儡植民地で。
ネットは本質がバレるので
怖いですね。今までの統治システムなら
殺されるレベル、、、。
アフリカもそうですが、ヨーロッパの植民地だったところには、いろんな民族問題があります。
日本は植民地にはならずによかったですよ。
なお、ここに載せられるようにコメントは編集させてもらいました。
ネットではいろんなメディアの比較ができますし、過去の情報も瞬時に分かります。
それは利点ですね。
先日、ミャンマーに行ってきました。ヤンゴンでは、普通にイスラム教徒と仏教徒が混ざって生活しているように見えました。ミャンマー駐在の日本人に尋ねたところ、ヤンゴンのイスラム教徒もロヒンギャは彼らの仲間ではないと言っているそうです。単純にイスラム教と仏教の対立ではないようでした。ロヒンギャの中の一部過激派が政府機関を攻撃し、これに政府軍などが反撃する形で戦火が拡大しているようです。また、アウサンスーチーさんは軍を掌握できていないようです。国民はアウサンスーチーさんを支持しているようですが、事態を収拾できる能力はなさそうです。一方、実力がある軍は国民から嫌われており、民主的な方法で政権を担うことはできそうにありません。あのように貧しい国に経済制裁を加えても、国民が飢えるだけで何の解決にもならないと思います。アウサンスーチーさんと軍が協力して平和的に解決を図るよう支援していくのが現実的な方法ではないかと思います。
いまの現地の貴重な情報をありがとうございます。
この問題は複雑でよくわからないところが多いです。
欧米側は「ミャンマー側に問題がある」と言い、友人のミャンマー人は「ロヒンギャが悪い」と怒っています。
でもこれはミャンマー国内の問題ですから、結局はスーチーさんと軍が協力して解決にあたるしかありません。
そのために外国はミャンマーに圧力をかけるか支援をするべきか、それともその2つを組み合わせて働きかけるべきか、このへんはとても難しいです。