アメリカのトランプ大統領が、エルサレムをイスラエルの首都と認めた!
今、このニュースで、日本をふくめ世界が大騒ぎになっている。
まあ、くわしくはAFPの記事(2017年12月7日)を読んでくださいな。
トランプ氏はホワイトハウスで行った演説で、「私は、エルサレムをイスラエルの首都として正式に認定する時が来たと確信した」と発表。さらに、在イスラエル米大使館をテルアビブからエルサレムに移転する手続きの開始も表明した。
これまでアメリカは、イスラエルの首都は「テルアビブ」だとしていた。
これを覆(くつがえ)す今回の決定は、まさに「歴史的」だ。
今回は、以前旅行中に出会ったパレスチナ人の”思い”について書こうと思う。
でもその前に、「イスラエル・エルサレム・パレスチナ人(アラブ人)」について、簡単に確認しておこう。
これがパレスチナ人の話を理解するためにも必要になるから。
まずはイスラエルの位置どすえ。
イスラエルとはこんな国。
以下の数字は、外務省ホームページのイスラエル国(State of Israel) 基礎データから。
1 面積:2.2万平方キロメートル(日本の四国程度)(注1)
2 人口:約868万人
3 首都:エルサレム(注2)
4 民族:ユダヤ人(約75%),アラブ人その他(約25%)
5 言語:ヘブライ語,アラビア語
6 宗教:ユダヤ教(75.0%),イスラム教(17.5%),キリスト教(2%),ドルーズ(1.6%)
ここにある(注1)と(注2)とは、こんなこと。
(注1)数字はイスラエルが併合した東エルサレム及びゴラン高原を含むが,右併合は日本を含め国際的には承認されていない。
(注2)日本を含め国際的には認められていない。
つまり、ここにあるイスラエルの面積と首都は、「イスラエルが主張していること」というだけ。
国際社会は、イスラエルの主張(特にエルサレムが首都ということ)を認めていなかった。
これを認めたら、国内にいる25%ほどのアラブ人(パレスチナ人)や世界中のイスラーム教徒が激怒して、とんでもないことになるから。
でも今回、トランプ大統領がそれを認めてしまい、アメリカ大使館をエルサレムに移すことも発表してしまった。
エルサレムと日本を重ねるとこうなる。
エルサレム(ウィキペディアから)
エルサレムとは「平和の都(町)」という意味。
エルサレム(Jerusalem)
《平和の町の意》パレスチナ地方の古都。
デジタル大辞泉の解説
これほど、名前の響きと現実がかけ離れている都市はなかなかない。
エルサレムには、「嘆きの壁」というユダヤ教徒の聖地がある。
上下の画像はウィキペディアから。
それと同時に、「岩のドーム」というイスラーム教徒の聖地もある。
エルサレムは今、イスラエルの統治下にある。
でも、パレスチナ人やアラブ諸国はこれを認めていない。
東エルサレムを首都とするパレスチナ国家の建設を要求している。
「エルサレムはだれが統治するのか?」というエルサレム問題は、今では、だれも解決できないような問題になってしまった。
エルサレム問題は,アラブ=イスラエル紛争のなかでも最も解決困難な問題の一つとなっている。
もともとアメリカはイスラエル寄りの立場だった。
けれど今回、「エルサレムはイスラエルの首都である」と言明したことで、完全にイスラエルの側に立った。
これは、パレスチナ人や世界のイスラーム教徒を敵にまわすことを意味する。
トルコのエルドアン大統領は「アメリカは、越えてはいけない一線を越えてしまった」と大反発し、イスラエルとの国交断絶までほめのかしている。
時事通信の記事から。
「イスラム教徒にとってレッドライン(越えてはならない一線)だ」と警告した。承認した場合、イスラエルとの「外交関係の断絶」もあり得ると明言。自身が率いるイスラム系与党・公正発展党(AKP)の会合で語った。
イスラエルと外交断絶も=エルサレム首都承認「レッドライン」-トルコ大統領
アラブ諸国だけではなく、フランスもドイツもイギリスさえも、アメリカの決定を支持していない。
パレスチナ側では、イスラム原理主義組織ハマスがこう言っていた。
AFPの記事(2017年12月3日)から。
米国がエルサレムをイスラエルの首都と認めたり大使館をエルサレムに移転させたりすれば、「インティファーダ(反イスラエル闘争)」の再開をパレスチナの人たちに呼びかけると警告した。
「インティファーダ」とは、パレスチナ人によるイスラエルに対する抵抗運動のこと。
パレスチナの民衆が反イスラエルデモをおこなったり石を投げたりする様子は、時々テレビで目にする。
インティファーダ
パレスチナ人の、イスラエルに対する抵抗運動。正規軍に対して、デモや投石で対抗する民衆蜂起で、1987年にガザ地区やヨルダン川西岸地区に広がった。
「世界史用語集 (山川出版)」
「エルサレムを首都と認める」というトランプ大統領の決定にたいして、パレスチナ側としては「このハゲー! 違うだろー!」と叫びたくなると思う。
実際にはこんなレベルじゃないけど。
ここから、さっき書いたパレスチナ人の話になる。
今から20年ぐらい前、ヨルダンを旅行していた時に、20代のパレスチナ人の青年と出会った。
彼はイスラエルに住んでいたのだけど、ヨルダンに出稼ぎに来ていた。
「パレスチナ人が良い仕事を見つけるのはむずかしいんだ」ということで。
パレスチナ問題については高校の世界史で習ったことがあった。
「教科書を読むのではなくて、当事者に話を聞ける」というのが旅の楽しみでもある。
「パレスチナ人の視点をぜひ知りたい」と思って、彼にパレスチナ問題について聞いてみた。
彼にとって一番イヤなことは何なのか?
パレスチナ人の青年は、「エルサレムに行くことができないことだよ」と迷わず言う。
「エルサレムにある岩のドームに行って礼拝したいんだけど、ボクはエルサレムに入ることができないんだ。エルサレムに住んでいるパレスチナ人なら、岩のドームに行って礼拝することができる。でもイスラエル政府は、エルサレム以外に住んでいるパレスチナ人がエルサレムに入ることを認めていないんだよ。あれは、イスラーム教の聖地なんだぜ?なんでイスラーム教徒が行くことができないんだ?」
気持ちは分かるけど、そんなことを、仏教徒のボクに言われても困る。
この後、ボクがイスラエルに行ったら、イスラーム教徒の彼が入れないエルサレムに入ることができ、岩のドームにも行くことができた。
アラビア語のポカリスエット
これは彼の見方だけど、イスラエル政府に支配されていることによって、パレスチナ人には「仕事が見つからない」「貧困に苦しむ」「自由に移動できないから生活が不便」といったことがあるという。
でも彼にとって、パレスチナ問題でもっともイヤなことは生活の不便ではなく、「聖地に行けない」ということだった。
この時はまだイスラーム教徒の宗教心の強さなんて知らなかったし、「どんな宗教よりも、ラブ&ピース」が信条だったボクにはこの答えが意外で記憶に残った。
今でもエルサレムのニュースを知ると、「あのパレスチナ人青年は、エルサレムに行って岩のドームで礼拝することができたのかな?」と思うことがある。
今でもエルサレム以外に住んでいるパレスチナ人が、エルサレムに入れないかどうかは知らない。
でも、アメリカがエルサレムを首都と認めて大使館まで引っ越したら、エルサレムの緊張が高まることは間違いない。
イスラーム教徒のパレスチナ人がエルサレムに入ったり、岩のドームで礼拝したりすることは、きっとむずかしくなる。
もし、出稼ぎでヨルダンに来ていた彼が、まだエルサレムに入ったことがなかったとしたら、もう一生行くことができないかもしれない。
おまけ
イスラーム教の国、イエメン。
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