日本とは違う東南アジアでの象のイメージ、”戦争のシンボル”。

 

日本人は象について、どんなイメージを持っているのだろうか?

ネットで見てみると、「やさしい」「おだやか」「力持ち」「かしこい」といった言葉がある。
これが日本での象のイメージなんだろう。

 

でも、象はかなり危険な動物でもある。
最近、タイで中国人が象に蹴られて死亡したことを、AFPの記事(2017年12月22日)が伝えている。

タイ東部チョンブリ県にあるゾウの観光施設で21日、ゾウが暴れて走り回り、中国人観光ガイドの男性(34)が蹴られて死亡、ゾウに乗っていた観光客2人が負傷し、病院に搬送された。

「ゾウに蹴られ死亡=中国人、尻尾いじる-タイ」

 

死亡したのはガイドだけど、悪いのは中国人観光客だった。
たくさんの中国人観光客が象を取り囲んで尻尾をいじったら、突然象が暴れてガイドが蹴られてしまった。

観光客が象を怒らせたのに、ガイドが亡くなっている。
これほどのとばっちりもない。

 

中国人といえば、11月にはこんなことがあった。
中国の移動サーカスで、虎にチップをあげようとした男性が虎に指を食いちぎられてしまった。

移動サーカスに安全管理上の問題があったらしいけど、虎に人民元をあげようとしたこの中国人もどうかしている。

 

 

日本でもっとも有名な象といえば、「はな子」だろう。

はな子は1949年に、日本へやって来た。
第二次世界大戦後に初めて日本に来た象で、2016年に亡くなっている。

はな子はタイ生まれで、「戦争で傷ついた子どもたちの心をいやしたい」と思ったタイ人のはからいで、来日することになった。

 

はな子
「日本で飼育されたもっとも長寿の象」という記録を持っている。

 

「やさしい」「おだやか」というイメージがある象だけど、このはな子は「殺人象」と呼ばれていた。

はな子は2回、人を”殺している”から。

1度目は昭和31年で、酔っぱらった男性が飼育施設に入りこんでしまい、はな子に踏み殺されてしまった。
その4年後には、飼育員が踏まれて亡くなった。

これによってはな子は「殺人象」と呼ばれ、鎖でつながれるようになる。
来園者が石を投げたこともあったという。

はな子のことは、NHKのホームページにある解説委員室にくわしく書いてある。

「国内最高齢のゾウ 『はな子』が残したもの」

 

 

以前、タイ人の女の子に「タイのシンボルって何?」と聞いたところ、そのタイ人は「象」と答えた。

でもそれは、象が「やさしい」とか「おだやか」ということではなくて、「強いから」と言う。
「象がシンボル」と聞いてボクは勝手に「平和」を思い浮かべたら、実は「力強さ」という意味だった。

「昔、象は戦車だったんです」とその子が話していた。

たしかにタイやインドの戦争では、王や兵士が象に乗って移動したり戦ったりしていた。
象は戦闘に必要なもので、東南アジアでは戦争のシンボルでもある。

タイ人の女の子は、「象は力強いし、シャム(タイの昔の名称)の国旗に描かれていました」と話す。
それでタイのシンボルを象と思ったらしい。

 

その子が象に対して、「戦争」というイメージを持っていたことが意外だった。
「やさしい」や「おだやか」とは、まるで正反対。

 

シャムの国旗

 

タイの隣にラオスという国がある。
ラオスには、「ラーンサーン王国(14世紀から18世紀)」という国があった。

 

緑がラーンサーン王国(1400年ごろ)

 

このラーンサーンとは、「百万頭の象の国」という意味になる。

ラオスを旅行中、「『それだけ自然が豊かだった』ということなんですね」とラオス人のガイドに言ったら、「それは違います」と瞬殺されてしまった。

象を戦車と呼んだタイ人と同じように、このラオス人も象を戦いのシンボルと考えていた。
ラーンサーン時代、象は戦争で使われていて、象の数がそのまま国の強さを表していた。

「ラーンサーン(百万頭の象の国)」とは「それほどの軍事力を持つ強大な国」という意味で、「自然豊か」というエコなイメージではない。

この時代のラオス人にとって、「自然が豊か」ということはどうでもいいことだろう。
ちなみに、ラーンサーン王国の旗にも三頭の白象が描かれている。

 

 

東南アジアやインドでは、象は戦いのために使われていた。
だから、「戦象」というイメージが強いのだろう。

戦象(せんぞう)とは軍事用に使われた象のことである。主にインド、東南アジアや古代地中海世界で用いられ、突撃で敵を踏み潰すか、あるいは敵戦列を破砕することを主目的とした。

「ウィキペディア」

 

日本でおこなわれた戦争で、戦象なんてものはない。
「せんぞう」と入力しても、「戦象」という言葉は出てこない。

日本と東南アジアの象に対するイメージの違いは、こうした歴史から生まれている。

 

インドの戦象

 

世界の歴史でもっとも有名な戦象といえば、ハンニバル(紀元前247年 – 紀元前183年/紀元前182年)がひきいた戦象だろう。

ハンニバルは象を引き連れてアルプスを越え、ローマに攻めこむ。
このときローマは大パニックになった。

今では、ハンニバルは「伝説の武人」になっている。

第二次ポエニ戦争を開始した人物とされており、連戦連勝を重ねた戦歴から、カルタゴが滅びた後もローマ史上最強の敵として後世まで語り伝えられていた。2000年以上経た現在でも、その戦術は研究対象として各国の軍隊組織から参考にされるなど、戦術家としての評価は非常に高い。

「ウィキペディア」

アルプス山脈を越えるハンニバルの軍

 

「象についてどう思う?」とタイ人の友人にメールで聞いてみたところ、こんな返事が来た。

This picture I took when I went to Ayutthaya floating market.There are elephant riding. I could play with it because there was someone control it. I just feed some food and play with it for short time.

このタイ人は、タイのアユタヤに行ったとき、象に乗ったり、エサをあげたり、象と遊んだりしたらしい。
今では象について、「友だち」というイメージも強いと思う。

 

おまけ

カンボジアの象

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。